第11話 皇后イーシャ
今日はいつもよりも長めです。
近衛兵のガイスト以外が席に着き自己紹介を終わらせる。
「では改めて我が国を救っていただき感謝する」
そう言ってレオンに対して頭を下げるアルノッド皇帝陛下。それに対して慌てるのはレオン。
「そんな!?やめてください!?運が良かっただけですから!?」
その言葉にアルノッドは頭を上げ笑う。
「はは!おかしなことを言う。運がいいだけでは神級魔物は追い返すことはできんだろう?なあ?ガイスト?」
「ええ。その通りです。どうやらレオン殿は自身に対しての評価が低いようでして」
「のようだな。まあ自信過剰な英雄よりは断然こちらのほうが印象はいいが」
「謙虚なところもレオン様のいいところなのです!」
そんなレオン談議に花を咲かせる状態に困惑気味のレオン。そこでレオンは話を変えることにした。
「あ!?あの!?皇后さまのことなのですが!?」
そうレオンが切り出すとアルノッドの表情が真剣なものとなる。そこで話始めるのはエミリア。
「お父様!レオン様がすごいところは強さだけではなのです!レオン様のお薬は不可能を可能にする力があるのです!」
「不可能を可能に?」
疑問の表情のアルノッド。どうやら報告を受けているのはレオンが神級の天狼を退けたという強さに関するところらしい。レオンの本質は知らないようだ。
エミリアは自身が死狼の毒に侵されたことを伝えると大慌てのアルノッド。しかしエミリアが落ち着かせてその先を話した。
「レオン様は解毒薬も効果を発揮しない死狼の毒に浸食された私を見事に解毒し救い出してくれたのです!」
「なに?死狼の毒の治療に成功した?」
「それだけではありません陛下。レオン殿は瀕死の重傷を負い回復薬も効果を発揮しない騎士たちを瞬時に動けるほどにまで回復させて見せたのです。彼の作り出す薬はとてつもない異常な効果を発揮します」
「……」
思考に耽るアルノッド。それは話の真実性かはたまた皇后についてか。
「お父様!ぜひレオン様に皇后さまを見ていただきましょう!わずかでも希望があるのならそれに縋るべきです!」
エミリアの気持ちとしてはレオンとの出会いは神がもたらした奇跡でありレオンが最後の希望だと感じていた。一方でエミリアとガイストから話を聞いたアルノッドはレオンを見つめる。
「……レオンくん……娘がいま言った死狼の解毒というのは本当かね?」
「はい。事実です。僕には原初能力がありますので」
「なるほど……原初能力か……」
あっさりと原初能力について明かしたレオン。自身の能力については広がることで面倒が増えると考えており基本は隠しているレオン。だがさすがにこのような状態で信頼を勝ち取るために原初能力を持っていることを明かして。そしてそれによりアルノッドの心も決まった。
「頼む……どうか妻を……イーシャを助けてほしい……」
アルノッドは大国ノクトレギア帝国の皇帝でありながらレオンに対して座りながらも頭を下げた。そこにいたのは何者でもない愛する者を助けてほしいと願う男の姿だった。
「……できる限りのことはしたいと思っています……」
その返事によってレオン達はアルノッドの案内のもと皇后さまのいる部屋へと向かった。
「ここが妻の部屋となっている。最近の妻は病がひどく一日中ベッドの上で過ごしていることが多いんだ」
「エミリアちゃんから色々と伺っています」
部屋の前での話を終えて早速アルノッドが部屋をノックする。
コンコン
「イーシャ。君に客が来ている。入るぞ」
ガチャ
部屋の扉を開けるとそこにはベッドに寝転がっている女性がいた。その姿はやせ細っており体が弱っているのが見てわかる。
「アルノッド様? ゴホッ!?ゴホッ!?」
起き上がるイーシャ。その身体には手や喉など服で覆われていない箇所に黒い茨が見える。それがイーシャを苦しめている元凶でもある。そして身体が優れないイーシャは起き上がった影響でせき込んでしまう。それにはすかさずエミリアが駆けつける。
「お母さま!?大丈夫ですか!?」
「ありがとうエミリア……アルノッド様?その方々がお客様ですか?」
イーシャがレオンたちについて尋ねる。
「初めまして皇后さま。僕はレオン・ヴァルディスと申します」
「私はイリアリス・フェルナと申します。イーシャ皇后さま」
「ナナ・カーデナンドと申します」
「サーシャ・パウンドです」
全員が挨拶を終えるとエミリアが笑顔で紹介する。
「レオン様はすごい方なんですよ!一度診てもらいましょう!」
「レオン、さま?」
何も知らないイーシャはエミリアが様と呼んでいることに不思議に思う。しかしそんなことはお構いなしにレオンはイーシャに近づいていく。
「(この黒い茨……やっぱりあれだよな……でも念のために)」
レオンは鞄からエミリアにも使用した超解毒薬を取り出した。
「皇后さま。こちらは超解毒薬と言う名称の薬です。一度こちらを飲んでくださいませんか?」
「超解毒薬?」
「お母さま!レオン様を信じて!それは死狼の毒も解毒したんだよ!」
「ええ?でも……」
困惑気味にイーシャ。アルノッドに視線を向ける。
「大丈夫だ。レオン殿は信頼できる」
その言葉によってイーシャは半信半疑ながらも超解毒薬を飲んだ。
ゴクッ
だが死狼の解毒に成功した超解毒薬でさえも黒い茨が消える様子がない。
「消えない……そんな……」
「やはり……」
エミリアが絶望しアルノッドが残念がっている様子を受けてイーシャはそんな2人を励ます。
「ありがとうエミリア。アルノッド様もそんな落ち込まないでください……私はアルノッド様と出会えて幸せでした……」
「……イーシャ……」
まるで最後の言葉のような悲しい展開となった部屋の中でレオンがもう1つの薬を取り出した。
「皇后さま。そして皇帝陛下。今度はこちらの薬を身体にかけることをお許しください」
「まだ薬が……しかし身体に?」
「はい。しかしこちらの薬は身体に直接かける性質上、皇后さまの服を脱がす必要がございます」
「服をだと?」
「それは……」
イーシャ自身がレオンの申し出に拒否反応を示す。アルノッドも思考中。しかし一番最初に反応したのはエミリアだった。
「それで……お母様の病は治るのですか……」
「僕の考えが正しければ……」
レオンの目を見てその真偽を判断するエミリア。そしてエミリアはレオンを信頼している。
「お父様!お母様!どうかわたしを信じてください!レオン様ならお母さまを治療することができます!」
「エミリア……わかったわ……いいですよね?アルノッド様」
「……そうだな……頼む……レオン殿」
「はい」
そうして関係ないものは外に出された。それはイリアリスたちも同様で部屋の中にいるのは病人のイーシャと治療するレオンを除けば皇帝アルノッドと皇女エミリアのみ。
「それでは……かけさせていただきます……」
下着姿となったイーシャに対して全身にゆっくりと薬をかけていくレオン。すると超解毒薬ですらなにも反応しなかったイーシャの身体を覆っている黒い茨に変化が訪れた。
「これは……」
「黒い茨が……縮んでいく……」
黒い茨はイーシャの徐々に小さくなっていく。それは成長した植物を逆再生しているかのように。そしてそれはイーシャの首筋に集約する。
ポン
身体から完全に黒い茨がなくなったかと思えば突如としてイーシャの首から黒い球体が飛び出した。それは閉じられている部屋の扉を超えて外へと向かう。
「追いかけて!その先に皇后さまを苦しめた呪術師がいます!」
そう。イーシャは病にかかっていたのではない。呪われていたのだ。
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