ルーク=エイヴァンス3
私は用事がない日はほとんどルークと過ごしていた。
だってルークって私のつまんない話でもすっごく楽しそうに聞いてくれるんだもん。
「騎士団長様ってね、すごく優しいんだよー。見た目はちょっと怖いけど」
私がそう話すと、ルークは「ふーん」って顔をして目を逸らした。
いつもなら「へぇー」とか「よかったなー」って笑ってくれるのに、今日はなんだかそっけない。
「どしたの?…つまんない話だった?」
「いや…別に…」
そう言いながら、ルークはノートの端をカリカリいじってる。指先がやけに落ち着かないみたいで。
(まさか…)
「怪我は…まあそうなんだけど、騎士団長様がね?」
「もういいだろ。さ、課題やろーぜ」
ぶっきらぼうな言い方に、思わず「なんなのよ」ってむくれちゃう。
でも私がペンを走らせると、ルークも黙ってノートに目を落とす。
ルークの顔がちょっと赤くて、いつもより眉が寄ってて。
まさか…ルーク…。
ちらっとルークの手元を見ると、紙の端をくしゃくしゃにしている。
(もしかして……シアのこと、好きになっちゃった?)
ゲームではシアが「好き好き!」って一生懸命に押しても、最初は「はいはい、俺もだよ」なんてなんにもわかってなくて。
それでも想いを伝え続けたら、次第に理解していって……って感じだったのに!?
この反応は……もしかして、レオン騎士団長とのやり取りを見て、嫉妬して自覚しちゃったの!?
(……っていうか、あれ見られてたのかーーー!?)
そう思うと、自然と顔が少し赤くなってしまう。
ルークの方をそっと覗くと、ルークは慌てて目線を逸らしながら、再びノートの端をぎこちなくいじっていた。
(えええーー!?ルーク、可愛い……
普段あんなに笑顔でニコニコ話を聞いてくれるのに、好きになったらどう接していいかわかんなくて冷たくなっちゃうの!?)
シアに向けられた気持ちだけど、目の前にいるルークの視線に、私の胸がきゅーっと締め付けられる。
いつもは絶え間なく喋ってるから、こんな沈黙は気まずいはずなのに……
ルークの気持ちが伝わってくるみたいで、むしろ余計にルークが可愛く見える。
「私……帰ろっかな?」
なんて意地悪を言いたくなっちゃう。
そう言って立ち上がるとーーー
「は?まだこんな時間だろ? もう少し、いーじゃん」
そう言って引き止めるように手を取ったルークの顔は、真っ赤になっていた。
(ぐぁあぁああああ……なんだこの可愛い男の子は!?
心臓がぎゅーって、痛いくらい!)
「そ、そう? じゃあもう少しだけ……」
ストンと座り込んだ私の手を、ルークは繋いだまま。
顎に手を乗せてそっぽを向いてるけど、耳まで真っ赤でーーー
(ぎゃああああああ!!可愛すぎて、もう抱きしめたい……!)
それからすぐのことだった。
コンコンーーー。
ガチャリと扉が開いて、ルークのお母さんが入ってきた。
「あら、シアお嬢様、いらしてたんですね。
ルークにちょっと用事があったんだけど、また夜でもいいわ。
どうぞゆっくりしていってくださいね」
「あ、はい……ありがとうございます」
放しそびれた手を意識しながらルークの方をちらっと見て
「み……みえたかな?」なんて聞くと、ルークはさらに顔を真っ赤にして
「わっかんねー!」って、机に突っ伏してしまった。
(ルーク……ほんとに可愛すぎるよ……
親に見られちゃったのはさすがにかわいそすぎるけど……)
その日、私は帰ってからずっとルークのことを考えていた。
ルーク=エイヴァンス。
16歳。活発で、誰にでも優しくて、明るい笑顔が似合う人。
シアとは小さい頃から家族同然で育ってきて、今も同じ学園に通っている。
……どうやら、恋心を理解したルークは、好きな子にはどうしていいかわからなくて、冷たくしちゃうみたい。
もし、シアのままだったら「ルークが冷たい」って辛い思いをしちゃうんじゃないかな?
……でも、あんな顔で手を繋いでくれたなら大丈夫か……。
しかも家の前まで送ってくれた時も
『……シア、じゃーな!』なんて初めてシアの名前呼んじゃったりしてさ!
(こんな可愛い一面メアリになんて話していいかわかんない。)
(うぅ……心臓がぎゅーっとなる。
あのルーク、ほんとに可愛かったな……。
はぁ……やばい……ルークに会いたい……)
私は、あのときの手の感触を胸に抱きながら、ゆっくり眠りについた。