ルーク=エイヴァンス
ここ数日は現実の世界について思い出すことが多かった。
お父さんお母さん、親友に会えないのは寂しい。
私って向こうでどうなってるんだろう?寝てるのかな?突然消失?それとも世界自体がなくなってるとか?
もちろんそれも寂しいし、気になるんだけど、食事だって恋しくなる。
お母さんの味噌汁が飲みたい…あとジャンクフードも…。
学校帰りに親友と寄ったファミレス。そこでラブプリの話をしたり…。
(もし帰れたらめっちゃリアルなラブプリ話できそうだな…)
でも私の唯一といってもいい長所は”楽観的”なところだ。
もちろん寂しいけど、それよりもこの貴重な体験をちゃんと楽しみたい。
そしてお土産話を山ほど持ち帰らないと!
ゲームでは見られなかったシアの家も、隅々まで見て回ろう!
そう思い立って私は自室を出た。
(シアの家ってやっぱり広いな…)
もちろんゲームでも伯爵家なだけあって豪邸設定だったけど、実際に見るとさらに広い。
大きな噴水に謎のオブジェ。おしゃれな池で魚が気持ちよさそうに泳いでる。畑、牧場、ガラス張りの植物園まで…。
どこで写真を撮っても映えそうだし、こんなお嬢様なら背景に負けない自撮りができそう。
暖かな日差しと爽やかな風。自然と足取りもゆっくりになる。
(最強のデジタルデトックスだなぁ…。
昔だったらすぐ写真撮って、謎のオブジェも調べてたのに…)
「この生活もめちゃくちゃ好き…」
そう呟いたとき、遠くから牛の鳴き声が聞こえた。
それに釣られて牧場の方へ足を運ぶ。
敷地なのか、家の隣に牧場があるだけなのかわからないほどの広い草原。
牛たちが気持ちよさそうに昼寝していて、私ものんびりとした気持ちになった。
昼寝しに戻ろうかなーなんて思っていたそのとき。
「おっ、久しぶりだなー。」
声をかけられ、振り返ると同い年くらいの少年が立っていた。
「…あ。」
もちろん知っている顔だ。
ーーー幼馴染のルーク。
シアの家に家族ごと住み込みで働いていて、同い年ということもあって小さい頃から家族同然に育った。
そして…やっぱり攻略対象である。
ゲームだからなんとも思わなかったけどシアって結構出会いあるよね?
「ルーク…久しぶり。」
「散歩か?お前、長期休みの課題終わったのかよー?俺はばっちりだぜ!」
太陽より眩しい笑顔で、ルークはにかっと笑った。
(う…眩しい…。)
その笑顔を見ると、心の奥底にあった現実世界への不安とか寂しさが、一気に晴れたような気がした。
きっとシアも、心が寂しいときはこんなふうにルークに会いに来ていたんだろうな…。
私は自然と笑顔になっていた。
「課題はまだだよ〜…だから気分転換に歩いてるの!」
無難に返すと、ルークは道具を片付けながら言った。
「お前、頭はいいのに集中力ないよなー。
ちょうど俺も仕事早めに終わったし、今から俺の部屋で一緒にやろうぜ。
メアリさんに電話しとくから!」
「ほんと!?ラッキー!優しいね!
でも自分で取りに行くから連絡はいいよ!」
「そっか!じゃあまたあとでな!」
そう言ってルークは明るく手を振った。
私も思わず笑顔で手を振り返し、自室へと戻った。
自室に戻ると、メアリが私を出迎えた。
「先ほどルークから連絡があり、お嬢様が戻られると聞きました。私がルークの部屋までお持ちしましたのに。」
そう言って、きっと課題が入っているであろうカバンを手に持っていた。
ルークといいメアリといい、お嬢様ってすごく甘やかされるね?
どんどん堕落しそうだよ…。
「ありがとう!でもね、メアリに確認したいことがあったの。ルークって…」
ルーク=エイヴァンス
16歳。活気的で誰にでも優しくて笑顔が明るい。
シアとは小さい頃から家族同然で育ってきて、同じ学園に通っている。
「だよね…?」
「ふふ、お嬢様の方がルークのことを一番ご存知なのではありませんか?でも、その通りです。お嬢様は覚えていらっしゃらないかもしれませんが、幼少期は『ルークと結婚する!』なんて宣言して、周囲を驚かせていたんですよ。」
メアリは幼少期のシアとルークを思い出して、微笑ましそうに笑った。
幼少期に結婚宣言の設定なんてあったんだ。
まあ、幼馴染にはありがちだよね?
今のルークを見る限り、シアには何の感情も抱いてなさそうだけど…。
ここからルークとはどうやって恋愛に発展するんだっけ?
できればルークとは幼馴染のまま、友情エンドを迎えたいな。
あの笑顔にはずっと癒されたい…。
選択肢があるなら、間違えないようにしないと。
私が(うーん)と考え込んでいると、
「では、ルークの部屋までお送りいたします。」
と、メアリが歩き出したので、私も後ろからついていった。
「ルーク、お待たせ!」
「おっ、きたなー!じゃあさっそくやろうぜ!」
シンプルだけどちょっと散らかってる、男の子らしい部屋に入ると、机の上には課題が広げられていた。
「……課題終わってるんじゃないの?
『俺はばっちりだぜ!』ってにかっ!って笑ってたじゃない。」
「ばっちり終わりそうだぜ!って意味だったんだよ!
なんだよ、その“にかっ!”って!」
ルークはまた明るく笑っている。
「だから一緒にやろうって言ったんだ。
そしたらさらに進むだろ?」
「えー…私の課題を手伝ってくれるのかと思ったのに〜!
私の『優しいね!』を返してほしいよ…。」
「なんだよー。お前が勝手に勘違いしたんだろ!」
そう言って、大きな口をあけて笑う。
(……ほんと調子いいやつだなぁ…)
そう思いながらも、「バッカみたい!」って私もつられて笑っていた。
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課題をきっかけに、私とルークは2人で過ごす時間が増えた。
ルークは仕事もあるとはいえ、学生が本業だからそこまで任されてないようで、自由な時間が多いみたい。
書斎で資料を探したり、池の生態系を調べたり…。
(…あの『俺はばっちりだぜ!』の明るさはどこからくるんだろ?って思うくらい、課題はけっこう残ってるじゃない…)
それでも、ルークのことを思い出すと自然と笑みが浮かぶ。
太陽みたいに明るくて、私まで元気になる。
「ルークって本当に明るいよね。
その明るさにすごく助けられてる。」
「あー?んーそうかー?
でもお前が言ったんじゃん。
4歳ぐらいだっけか。
その…飼ってた鳥が死んじゃった時、俺と話して『私、ルークの笑顔大好き!』ってさ。
それで、誰かを元気にできるなら笑っていようって思ったんだよ。
まあ、俺の単純な性格でもあるけどな!」
そう言って笑うルークの笑顔を見て思い出した。
そうだ、シアはこの時のこの笑顔に心を動かされたんだ。
完全に幼馴染としてしか見てなかったルークへの、恋心の芽生え。
そしてそこから、シアはアタックにアタックを重ねて…見事結ばれるんだった。
(…このルートが進むかどうかは私次第だけど…)
「そうだったっけ?
まあでもほんとにそう。ルークの笑顔見てると元気になるし、ずっと笑顔でいてね。」
「そうだったっけ?ってなんだよー。
ほんと調子いい奴だな、お前。」
また太陽みたいに笑うルークだけど
この後ルークは日に日に笑わなくなっていった。