レオン=バルトロメウス2
少しばかりの照明が灯る庭に、レオン騎士団長がゆっくりと歩いてきた。
昼間よりも気温は下がって肌寒いのに、羽織もせず立つその姿は、やはり凛々しかった。
(やっぱり筋肉があるから寒くないのかな…)
そんな小さな男らしさにすら、心臓が小さく鳴った。
「夜遅くにすまない。足の方は大丈夫か?」
「あっ、はい。おかげさまで…。
騎士団長様こそ、昼間はありがとうございました。
さらにこんなところまで…わざわざ…」
「俺がもっと早くに捕まえていれば、怪我などせずに済んだのに。」
そう言って、レオン騎士団長は私の足を一瞥する。
その目が真剣で、思わず息をのんだ。
(こんな優しく心配してくれるなんて思わなかった。)
「こんなの平気ですよ!
明日には直してみせます!!」
「…ふ。強いな。」
わずかに緩んだ口元と、黒い髪が風に揺れるその姿は、昼間見せた鋭さとは別の顔を見せてくれていて――
胸の奥がじわっと熱くなる。
それから、今日のことを淡々と語ってくれた。
あの後、犯人は牢に入れられ、余罪を調べられていること。
カバンも無事に持ち主に戻ったこと。
持ち主は怪我もなく、私が唯一の怪我人だということも。
その話しぶりは、簡潔で無駄がないのに、どこか温かさを感じさせる声だった。
「騎士団長様は非番なのに、どうして街にいらしたのですか?
まさか…休みの日まで自主的に見回りをしているとか…?」
「違う。食べたい物があったんだ。」
「へ?食べたい物?
街はいろいろ美味しい物がありますよね!
私も今日たくさん食べてお腹ぱんぱん!
もしかしたら同じ物を食べてるかもしれませんね!?
何を食べたんですか!?」
「黄色い…」
「うんうん」
「クリームがたくさん乗った…」
「うんう…ん?」
「………クレープだ。」
(え、え、えぇぇぇええ!?
あの騎士団長様が…クレープ!?
可愛すぎない!?)
不意に視界がかすむほど心臓が高鳴って、息が詰まった。
母性をくすぐられるって、まさにこういう瞬間のことなの!?
体をぎゅっと抱きしめるようにして震えを堪えた。
「……部下達が話してたから、気になっただけなんだ。」
きゅんきゅんきゅーーん
(だめだ…可愛すぎて…もう無理…心臓が爆発しちゃう…)
「…シア?」
心配そうに覗き込む騎士団長の顔が、ますます近くなる。
その瞳が深い夜の色をしていて、目が合うだけで胸がぎゅっとなる。
「はぁ…はぁ…。
そう…ですよね。クレープ。
私ももちろん食べました。はぁ…はぁ…おいしかったです。ご馳走様でした。」
「…シア?」
今度は眉をひそめて、怪訝そうに首をかしげる騎士団長を見上げて、
「甘い物、美味しいですよねっ」
と、頬が熱くなるのを隠すように笑顔を見せた。
その時、レオン騎士団長の視線が再び足元へ落ちて、
「触れてもいいか…?」と、低く響く声で囁かれた。
庭先の冷たい空気の中で、膝をついたその姿は、昼間の騎士団長とはまた違う、柔らかくて大人な雰囲気を纏っていた。
そっと包帯の上から触れられると、その手のひらがあまりにも温かくて、震えそうになる。
思わず顔を伏せた私の足に、ふいに唇が触れた瞬間――
全身がびりっと痺れるように感じた。
「…シアのおすすめのお店があれば、今度は一緒に…。」
その声があまりに優しくて、胸が詰まる。
私は顔を上げると、こくりと頷いた。
それからすぐに、手紙を書く約束をして、部屋へ戻った。
バルコニーから見下ろすと、レオン騎士団長はまっすぐに私を見上げ、優しい眼差しを送ってくれた。
そっと手を振り返し、少し冷えた体を温めるようにベッドへ潜り込む。
まっっったく現実では興味なかったのに…
騎士団長やばい…色気が溢れて出過ぎてる…。
コンコン
「失礼します。お体冷えたかと思いまして…。」
メアリが温かいお茶を手にして入ってきた。
「ありがとう。ねぇメアリ」
レオン=バルトロメウス
20歳。王直属の騎士団の団長
冷静沈着な仕事人、感情表現が苦手。
…だけどとっても優しくて、甘い物が大好きみたい。
体が温まった私はそのままベッドへとダイブした。
(団長やばぁぁぁあああ
強さと甘い物が好きなギャップ…うわぁぁぁああ
しかも最後…下から見上げるあの視線。
あんなの反則だよ…優しさが溢れてる…
いやもう好きぃぃぃいいぃいぃ)
今日も私は、胸を押さえてジタバタしながら眠りにつくのだった。