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レオン=バルトロメウス

あれから私は、毎日セシル王子のことばかり考えていた。

学園は夏の長期休みで課題に追われていたけれど、恋をしていれば全然苦じゃない。

(課題とか夏休みとか……現実と変わんないんだなぁ。しかも勉強の内容もほとんど一緒だし)

それを嘆くべきかもしれないけど、全然違う勉強に苦しむよりはマシだ。

今さら魔法の基礎とか言われても無理だっただろうし……うん、むしろ恵まれてる、よね。


何度寝ても夢じゃなく、ちゃんと「ラブプリ」の世界のままだった。

「今日は終わるかも」「明日こそ終わるかも」なんて思いながら、毎晩ベッドに潜り込む。

もし戻るならーーー最後に、もう一度セシル王子に会いたい。そんな風に願っていた。


セシル王子からの手紙は、何度も何度も読み返して、そのたびに胸がぎゅっと締め付けられる。

嬉しくて、思わずぎゅっと抱きしめたくなるけど、大切に封筒へしまった。


どうやらしばらくは忙しくて会いに来られないらしい。

それでも、最後には「また必ずーーー」と書いてあった。

……絶対、好感度は高いよね!?

にやにやが止まらない……!


「お嬢様。失礼いたします」


「あら、メアリ。どうかしたの?」


「仕立て屋から連絡がありました。前に注文された洋服が仕上がったそうです。

届けると言っていましたが……お嬢様は、街に行きたいのではないかと思いまして」


「行く!!街!! 行く行く!!!」


シアって、ドレスはもちろん、可愛い服もたくさん着ていたのよね。

お嬢様だから家に仕立て人が常駐しているかと思ったけど、街の仕立て屋さんまで行ってたんだ。

やっぱり女の子だし、買い物が好きだったのかな。

そういえば、セシル王子と街に行くルートもあったし……!

この世界の街、どんなものが売ってるのか楽しみすぎる!!

次に会うときの洋服も、選んじゃおっかなー。


支度を終えると、馬車に乗り込み街へと繰り出した。


「シア様。お待ちしておりました。

前回ご注文いただいたお品物です」


仕立て屋の男性が差し出したのは、明るい黄色のワンピースだった。


「わぁ……とっても可愛い」


鏡を覗き込むと、可愛いシアによく似合うワンピース。

(シアって、なんでも似合うなぁ。現実の私じゃ事故だよ……)


「もう一つ、仕立ててほしい服があるの」

そう言って、私はセシル王子を思い浮かべる。

「濃い青色で、ところどころに金色を散りばめて……白を少し足した、優しくて穏やかな気持ちになれる服が欲しいの」


「かしこまりました。色合いはこのような感じでいかがでしょうか?」

仕立て屋さんは、生地を重ねて色を見せてくれた。


「うん、とっても素敵。それでお願いします」


「かしこまりました。またご連絡差し上げます」


仕立て屋を出てから、メアリといくつかのお店を見て回った。

黄色のワンピースに合わせる髪飾りやシューズ。

時には甘いお菓子を食べたりして。

メアリは少し年の離れたお姉さんみたいで、とても楽しい時間だった。

きっと、シアも同じ気持ちだっただろうな……。


「今日はいつもよりたくさんお買い物しましたね、お嬢様」


(え、そうなの!?シアってもしかして、本当は遠慮深いお嬢様キャラだったのかな!?)


「メアリはとても嬉しいです。

お嬢様の楽しそうな笑顔が見られて……」


嬉しいけど、なんだか恥ずかしくて俯いてしまった。

(……シアのイメージ、壊してないといいな……)


メアリとそんな照れくさい時間を過ごしていた、そのときーーー


「きゃー! どろぼー!」


街の誰かが悲鳴を上げた。

振り返ると、男がカバンを持って走ってくる。


「お、お嬢様ーーー!!」


ドンッ!

私にぶつかると、そのまま男は走り去っていった。


「いったぁ……」

「大丈夫ですか!?」

血相を変えたメアリが駆け寄ってくる。


「だ、大丈夫……それより……」

「カバンを取られた人、助けないと……」

そう言いかけた、そのときーーー


もう1人の男が風のように駆け抜けていった。

すぐに犯人に追いつき、床に押さえ込む。

そのまま近くの騎士に引き渡すと、私のほうへと向かってきた。


「大丈夫だったか?」


「……騎士団長様……」


目の前に立つのは、ゲームの攻略対象の1人ーー

つい先日、馬車の中でちょっとだけ気まずい時間を過ごした、

レオン=バルトロメウス。

その鋭い瞳が、まっすぐに私を見つめていた。


そして、差し伸べられる手。


「……俺のことを、知っているのか?」




(思わず……呼んじゃった。

……それにしても、私のこと覚えてないの!?

馬車で二人きりだったのにーーー!)


「この前、セシル王子の別宅へ行く道中で……」

レオン騎士団長の手を取り、立ち上がりながらそう告げる。

「いたっ」

足を挫いたみたいで、ズキズキする痛みが走った。


「お嬢様! 大丈夫ですか!? 今すぐ迎えを……!」

「この近くに騎士団の救護室がある。そっちへ一旦行こう」

そう言うと、レオン騎士団長は私をひょいとお姫様抱っこした。


「え!? あ!? ちょ……! 歩けます!! いたっ……」

「大人しくしてくれると助かる」

(街中でお姫様だっこなんて……恥ずかしすぎて死にそう)

私は顔が真っ赤になるのを必死に隠すように、レオン騎士団長の首に腕を回し、そっと頭を預けた。


「先ほどは失礼した。

……先日のセシル王子の護衛任務の際の女性だったのか。

任務中は護衛が最優先だ。顔など見ていなかった」


「いえ……」

“セシル王子の女性”……嬉しいはずなのに、なんだか胸がちくりと痛む。

誇らしいような、恥ずかしいような、切ないような気持ちが混ざってーーー。


救護室で、メアリが手際よく手当てをしてくれた。

「迎えを呼んでまいります。ここでお待ちください」

そう言って足早に部屋を出ていく。


「騎士団長様、今日は非番だったのですか? お洋服が……」

目の前のレオン騎士団長は、いつもの制服ではなく、黒で統一されたラフな服を着ていた。


「非番の日にまさか、あんな出来事に出くわすなんてな。

でも……おかげで助けられた」

優しく微笑むその表情に、心臓がどきどきどきどきーーー


(待って……ちょっと……かっこよすぎない!?

普段はかっちりした制服なのに、今日はラフなのに黒でまとめてて、すごく似合ってて……

助けられたって……もちろん、カバンを取られた人のことだよね……? まさか私……!?)


そんなふうに心臓が鳴り続けているのに、口を閉ざしているだけで安心感に包まれていた。

メアリが迎えに来るまでの静かな時間ーーー

不思議と心強くて、さっきまでの怖い思いなんて嘘みたいに思えた。


「今日は本当にありがとうございました」

お礼を告げて、私は街を後にした。


ーーー


それから数時間後。

夜がすっかり深まったころ、レオン騎士団長がシアを訪ねてきた。


メアリから“レオン騎士団長がお越しです。今日の報告をしたいと……。どうなさいますか?”と言われたとき、

心臓がドキリと跳ねた。

嬉しくないと言えば嘘になる……。


「メアリのおかげで少しは歩けるし、庭に案内してくれる?」


「かしこまりました」



「あ!ねぇメアリ待ってその前に確認したい事があるの!」


「なんでしょう?」


「騎士団長様って…」


挿絵(By みてみん)


レオン=バルトロメウス

20歳。王直属の騎士団の団長

冷静沈着な仕事人、感情表現が苦手。


「…こんな感じの人で合ってる?」


「私が耳にしたレオン騎士団長様はそのような方だと伺っております。」


「そっか。ありがとう!じゃあよろしくね!」


そう言ってカーディガンを羽織り庭でレオン騎士団長を待つことにした。

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