セシル=グランディール
もう夢でも転生でも、なんでもいい!
だって、これから――
あの大・大・大・大・大好きなセシルに会えるんだよ!?
今日の予定は“湖デート”。
ラブプリ本編でも、セシルと2人きりになれる初めてのイベントだった!
1回目の出会いは、設定上だけ。
「国王とシアの父が親友で、子どもも同い年だから」と、5歳のときに顔を合わせたことになってる。
でも実際は、一枚絵だけのスチルで終わった演出だった。
(でも、あのスチルの幼少セシル……反則級にかわいいんだよなー!)
2回目はつい最近――華やかなパーティでの再会。
人混みに疲れて外に出たシアに、偶然声をかけてくれたのがセシルだった。
「昔、お会いしたことがありますよね?」
優しい笑顔でそう言ってくれて、覚えててくれたっていうだけで胸がぎゅーってなった。
シアが少しだけドキッとする、大切な“再会”のイベント。
そして今日――
「人が少なくて落ち着ける場所なら、湖なんていかがですか?」
というセシルの提案で、念願の2人きりイベントが実現したのだった!
本来ならここが第一分岐点。
街を選べば別の攻略キャラとの出会いも発生するけど……私がここに来たときには、もうそのイベントは選ばれていたみたい。
つまり、シアはすでに湖を選んでいたってこと。
(っていうか、転生してる場合って選択肢とかあるの!?
夢ならありそうだけど……わかんない!)
頭の中はぐるぐるしてるけど、ひとまず今は――
全力で可愛くなること!
「今まででいちばん可愛くお願いしますっ!」
私はメアリにそう告げて、完璧な支度をしてもらった。
鏡の中のシアは、見違えるほど可愛かった。
さすがメアリ、仕事ができる……!
迎えの時間が近づくにつれて、もう心臓が飛び出しそうだった。
そして――
「お嬢様。セシル様がお迎えに上がられました」
その言葉を聞いた瞬間、私の心拍数は最大値を更新する。
いよいよ……セシルに会えるんだ――!!
……その前に、確認だけさせて。
「ねぇメアリ。もう一つだけ、確認したいの」
セシル=グランディール
18歳。グランディール王国の第一王子。
穏やかで紳士的。誰にでも優しい、完璧な王子様。
「セシル様って……こんな感じの人で、合ってる?」
「はい。お嬢様のおっしゃる通りでございますわ」
(……メアリ、本当にありがとう!!!)
私はドキドキしながら、ついにセシルのもとへと歩き出した――。
馬車のそばには、まさしく「ザ・王子様」なセシルが立っていて、こちらに向かって微笑みを浮かべていた。
(はぁ〜〜〜……王子様がこっち見てる……!
私のこと(正確にはシアだけど)を待ってる……!)
セシル王子の優しい笑みを、いつまでも眺めていたい。あの柔らかな眼差しと口元が、私のツボなんだよなあ……。
火照った顔を少しでも隠そうと、私はそっと前髪を整えた。
大丈夫、シアはとっても可愛い。
私は今、シアなんだから、大丈夫。
深く息を吐いて気持ちを整え、セシル王子を見上げる。
そこには、ゲームで何百回と見た爽やかな笑顔ーーいや、それ以上の笑顔があった。
風に髪を揺らし、こちらを見つめるセシルは、ゲームの中より何倍も美しくてーー。
「シアお嬢様……?」
「っ……すみません、お待たせしました。……セシル様……」
うぅぅ……だめ、どんどん顔が熱くなる。
あの大好きな顔、大好きな声……。頭がショートしそう……。
「シアお嬢様、本当に大丈夫ですか?どこか、体調でも……?」
「い、いえ!大丈夫ですっ。
今日をとても楽しみにしていたので……。よろしくお願いします」
精一杯の笑顔を向けたけど、セシルの顔を見るのはどうしても無理で、少し視線を外してしまった。
「ふふ。では、行きましょうか」
そう言って、セシルがそっと手を差し伸べてくれる。王子様ムーブが完璧すぎる……。
(うぅ……湖イベントって確か夕方までだったよね?
私、大丈夫かな……このドキドキで心臓爆発しないかな……。)
生きて帰ってこれますように、と願いながら、私はセシルの手にそっと触れるような、触れないようなギリギリの距離で、馬車へと乗り込んだ。
馬車の中では当然のように、私とセシル王子が横並びで座っていた。
窓から差し込む柔らかな光が、彼の横顔を照らしている。
…当然のように、かっこいい。
窓の外に目を向けているセシルを、今だ!とばかりに私はじーーっと見つめた。
ーーー生きてる……王子様、ほんとに。
白くてきめ細かな肌。頬はほんのりピンクがかっていて、いや、オレンジっぽくもあるような。
呼吸に合わせて上下する胸元、きっちり着こなされた服。全部が、本物で、完璧で。
「今日は、いい天気でよかったですね。きっと湖も綺麗に違いありません」
そう言って、セシルはゆっくりと私の方へ視線を向けた。
その横顔から正面へーーその動きすら、美しくて、かっこよすぎて。
「………はい」
見惚れすぎて、会話のテンポが追いつかない。かっこいいぃぃぃ……。
だめ、見てるだけじゃもったいない!こんなチャンスめったにないんだから、ちゃんと会話も楽しんで……!
(はぁ〜でも無理ぃ……この顔、しゃべってくれてるだけで溶けそう……。
携帯があれば絶対写真撮ってロック画面にするのに!!)
「湖に着いたら、散歩しながらのんびり過ごしましょうか。
普段、慌ただしい日々を送っているせいか、人の少ない場所に惹かれてしまいます。
シアお嬢様が湖を喜んでくれて、とても嬉しいです」
「はい。私も湖、大好きです。
なんだか心が穏やかになるんですよね。
……鳥がいたら、餌とかあげてみたいなー」
「……エサ、ですか?」
「はいっ。パンくずを投げると、鳥たちが寄ってくるんです。とーっても可愛いんですよ!
セシル様は、されたことないですか?」
「餌やり……は、したことがないですね。
でも、確かに楽しそうです。……着いたら、してみましょうか」
そう言って微笑むセシル。あああ、尊い……!
(やば……!もしかして、今のって“お嬢様っぽくない”話題だった!?
そもそも主人公ってゲーム内でもそんなに喋らなかったよね?
基本は「はい」とか「そうですね」とか、あとは微笑むだけだった気が……)
(選択肢の時に喋る言葉も、お上品で簡潔だったし……。
私、今ちょっとお喋りしすぎたかも……? 空気、読めてなかった?
うぅ……お嬢様の振る舞いってほんと難しい……!)