ロボットものボーイミーツガールのボーイポジに入っちゃったヤニカスおばさん傭兵
ふと思いついたので書きました。
ロボットものボーイミーツガールのボーイポジに入っちゃったヤニカスおばさん傭兵
星歴2055年。7月7日。
地球圏を二分する大戦争は、遂に幕を下ろした。
資源の枯渇を理由に起きた通称『陰陽大戦』。この戦いにより、かつては200億を超えていた人口は、たったの30億にまで減少した。
結果的に口減らしとなったこの戦いだが、その戦火が焼いたのは人だけではない。
奪い合っていたはずの土地を、物を燃やした戦争は、新たな火種を幾つも生み出していた。
地球圏が平和となる日は、未だ遠い。
* * *
陰陽大戦から約2年。とある戦闘跡地。
かつて緑豊かな森が広がっていた場所は、今や砂と岩だけの光景と成り果てていた。
その大地に、巨大な鋼の塊が足跡をつける。
4メートルはあろう巨人。モーターの回転音を響かせ、ズシリズシリと歩いていた。
『アナザー・アーム』───通称、『AA』。
本来は作業用の人型重機だったが、人類は愚かにもそれさえ戦いの道具に変えた。この巨人も、その例に洩れず人を殺す武器を持っている。
鋭角の多いフォルムに、太い手足。単眼の瞳を輝かせ、アサルトライフルを手に周囲をゆっくりと見回している。
緑と黒の迷彩色も、この砂地ではかえって目立っていた。砂避けか灰色のぼろきれの様なマントをなびかせているが、前面はほとんど見えてしまっている。
慎重に進んで行く『AA』を岩陰から睨みつける、無機質な4つの瞳。
それらもまた、単眼の巨人であった。茶と淡い灰色に染められた機体は、遠目には地面と区別がつかない。
4機の『AA』は2手にわかれると、黒緑の機体を挟む様に動き出した。
先回りした2機と、背後につく2機。それぞれアサルトライフルやショットガンを手に、リーダーの合図を待つ。
巨人に乗りそれを操る男達。彼らの無線に、酒やけした声が響いた。
一斉に岩陰から跳びだす4機の『AA』。その銃口が歩いている獲物に向けられた、刹那。
───ブシュウウウウッ!
歩いていた『AA』の背中。マントに覆われていた箇所から、大量の煙が放出された。
岩場に広がった煙が、日の光で僅かにキラキラと光る。
『煙幕!?』
『くそ、チャフが混ざってやがる!』
『後ろの奴らと通信が!』
『撃つな!一度引いて態勢を』
4機が突然の事に混乱する中、煙幕を突き破って跳びだす影。
咄嗟に前方の2機が発砲するも、それはマントにくるまれた金属の箱だった。
『なっ』
直後、黒緑の巨人が飛び出してくる。銃口はピタリとリーダーの機体に合わせられ、姿を現すと同時にトリガーは引かれていた。
吐き出される無数の鉛玉。空薬莢が大地に散らばると共に、茶と灰の巨人は穴あきチーズの様に風通しが良くなっていく。
『て、てめぇ!』
もう1機が慌てて銃口を向け、発砲。こちらも大量の弾が吐き出されるも、黒緑の『AA』は背中のスラスターを点火。
急加速により弾丸は背後の地面へと吸い込まれ、2機の距離が急速に縮まる。
『あ、ぎゃ』
衝突寸前で、黒緑の機体は弧を描く様な軌道で敵の背後に回り込んだ。
至近距離から背部のコックピットへ放たれる弾丸。断末魔の悲鳴を上げる間もなく、パイロットは死亡した。
崩れ落ちそうになる茶灰の『AA』。そのうなじ辺りにある牽引用グリップを黒緑の機体が掴んで支えるのと、銃弾の雨が降り注ぐのがほぼ同時。
『くそがぁ!』
『なめやがって!』
風で晴れた煙幕の向こう。残る2機が滅茶苦茶に銃を撃ってきていた。
あの位置からでは仲間が生きているか否かわからないだろうに、お構いなしの乱射。
穴だらけになる茶灰の機体を肩で支えて盾にし、黒緑の機体は片膝をついて被弾面積を減らす。
マガジンの交換を済ませた後、アサルトライフル下部のグレネードを上に向けて発射。放物線を描き落下した弾が、2機の中間に着弾する。
『うおお!?』
慌てて左右に離れた茶灰の機体たち。広がった破片から逃れた彼らに、黒緑の機体が軽くなった盾を掲げ突撃する。
すぐさま再度銃撃をしようとする2機の内、右側のショットガン持ちに制圧射撃が行われる。岩陰に押し戻された相方に構わず、もう1機が我武者羅に発砲を続けた。
だが、
『た、弾が!』
考えなしに放たれたライフルから、ガチン、という無慈悲な音が響く。
リロードは間に合わない。それでも予備の弾倉を左手で握った時には、黒緑の機体は盾を投げ捨てすぐ近くにいた。
いつの間にか握られていたナイフが、勢いそのまま茶灰の巨人にねじ込まれる。
赤い火花とオイルが飛び散り、押し出された金属部品がパイロットをひき肉に変えた。
黒緑の機体はナイフで貫いた機体と位置を入れ替える様に、勢いをつけて体を回転。横合いから放たれた散弾は、味方だった物を砕く。
ポンプアクションで次弾を籠めた時には、既に黒緑の巨人はスラスターを噴かし跳びかかっていた。
『ひっ、ごあぁ!?』
銃床が機体の顔面を殴りつけ、バランスを崩して転倒した茶灰『AA』。その胸を、黒緑の足が踏みつけた。
動く事もできない相手に、無慈悲な鉄の雨が降り注ぐ。
ゆっくりと足と銃口を離した黒緑の巨人。それは無造作に右手側に腕を向けると、トリガーを引いた。
「う、うわあああ!?」
すぐ近くの地面を抉った砲弾の様な弾丸に、コックピットから逃げようとしていたリーダーが悲鳴を上げる。
『武器を捨て、機体から離れな。腕は頭より上にあげておけ』
スピーカーから発せられた声に、リーダーの男が悲鳴に似た驚愕の声をあげる。
「お、女ぁ!?」
『聞こえなかったか?アタシは気が短い方だぞ』
「わ、わかった!従う!」
拳銃を投げ捨て、リーダーの男が両手をあげながらコックピットを離れる。
『跪け』
「な、なあ……取引しないか?隠れ家に行けば金がある!そいつで」
『ダメだ。お前は生きたまま街に連れて行く。賞金が……』
そこまで言って、女の声が途切れた。
数秒後、スピーカーからため息がもれる。
『……予定変更だ。お前は街に連れて行かない』
「そ、そうか!じゃあ隠れ家に」
喜色の笑みを浮かべた男。その胸に風穴が空き、続けて幾つもの発砲音が響く。
「ふぅぅ……」
黒緑の機体。開かれた背部のコックピットブロックから体を覗かせた女性が、煙草を手に紫煙を吐き出す。
もう片方の手には、サブマシンガンが握られていた。
「わりぃ。拘束具忘れたから、死体だけ持って行く。魂はここに置いていけ」
銃口から、煙草とは別の煙が昇っていた。
* * *
戦闘があった場所から、ほど近い場所にある街。
人類の半分以上が死んだ大戦の後も、人間と言うのはしぶといもので。幾つもの店が建ち並び、行きかう人々の声で活気に満ち溢れていた。
その一角。片膝をついて停止する黒緑の『AA』の正面には、大きな建物がある。
周囲が手作り感溢れるあばら家の中、ここだけは鉄筋コンクリートの頑丈な壁に覆われていた。戦前に工場として使われていた物を、ここの主が改築して利用している。
「ご苦労。君のおかげでうちのシマを荒すネズミは駆除された」
「そりゃどうも」
白スーツ姿にスキンヘッドの男が、大きな腹を揺らして足を組む。
その正面のソファーには、1人の女性が座っていた。
セミロングの黒髪を適当に後ろで纏め、服装は緑のジャケットと黒のズボン。胸元からは、銀色のドッグタグが覗いていた。
淀んだ瞳に、クッキリと浮き出たクマ。元の顔立ちは整っているのだろうが、随分とくたびれた印象の強い人だった。
「報酬は指定の口座に振り込んである。確認してくれ」
「ああ……確かに」
ポケットから端末を取り出し、小さく頷く女性。
部屋にいる他の男達が、彼女が手をポケットに入れた瞬間反応しかけるも、白スーツの男が軽く手をあげて抑える。
「それで、傭兵どの。君は元軍人らしいじゃないか」
「まあね。やめてからもう2年も経つが」
「女だてらに中々の腕だ。どうだ、私の部下にならんかね?」
「断る。アタシは1人が良い。気楽に生きて、気楽に死ぬ」
キッパリと断ると、女性は立ち上がる。
「じゃあな。また何か仕事があったら呼んでくれ」
そう言って去ろうとする女性に、扉近くにいた男が立ち塞がった。
「簡単に帰れると思うなよてめぇ。ボスの誘いを断った事、後悔するのなら今のうち───」
「やめろ」
葉巻の先端を切りながら、白スーツの男がドスのきいた声を発する。
「私の家を汚すな」
「しかしボス!」
「お前じゃない。そこの傭兵に言っている」
「は?」
立ち塞がっている男の腹部に、硬い物が押し当てられる。
「いやはや。アタシみたいなか弱い乙女は、自衛に気を遣わないといけなくてね。銃を抜く速度は嫌でも鍛えられたよ」
「冗談を抜かすな、ババア。か弱い乙女という言葉の意味を、100回は調べろ」
「酷い言われ様だ」
冷や汗を流す男を前にして、女性は小さく肩をすくめた。それに対し、白スーツの男はつまらなそうに葉巻の煙を口の中で楽しむ。
「34って、やっぱりおばさんかね」
「私からすれば14歳以上は全員ババアだよ」
「おばさんより酷いな」
銃をしまい、硬直する男の横を女性は通り過ぎる。
「待て。帰る前に聞きたい事ある」
「タバコ吸いながらで良いか?ニコチンが切れた」
「構わん」
懐から煙草を取り出し、女は口に咥えると慣れた動作で火をつけた。
紫煙を燻らせる彼女に、白スーツの男もまた葉巻を手に問いかける。
「事前に君の名前は聞いていたが、生憎と仕事をやり遂げた者の名しか覚えん主義だ。もう一度名乗ってほしい。次があれば、呼ぶかもしれん」
「すぅぅ……ふぅぅ……」
煙を吐き出して、女性は白スーツの男に顔を向けた。
「アリス。アリス・フラワーチャイルド。今後ともご贔屓に」
それだけ言って、女性は、アリスは愛機の下へと歩いて行った。
* * *
暗い夜道。大戦中にばら撒かれた化学兵器の影響か、異様に木々が成長した森の中を大型トラックが走って行く。
ラジオから大戦前の曲を垂れ流しながら運転するアリスは、煙草を咥えたまま小さく舌打ちした。
「まさかこれ含めて残り2本とは……アタシも焼きが回ったもんだ」
街を出る前に武器弾薬と機体の部品、そして食料の補充は済ませていたものの、彼女は煙草を買い足すのを忘れていた。
乱雑に物が詰め込まれた荷台。そこには彼女の愛機が身を丸めている他に、煙草の空き箱が大量に入った布袋がある。
アリスはこの空箱の山を見て、あろう事かまだ未開封の煙草があると勘違いしていた。その事実に気づき、彼女は髪を掻きむしった後比較的近い街に直行している。
普段なら使わない近道。この森は、密輸業者が利用する事で有名だ。しかし荒事に巻き込まれるよりも、アリスにとってはニコチンの方が大事だった。
アクセルをべた踏みにして走らせていた彼女だったが、適当に喋らせていたラジオにノイズが走った瞬間ブレーキを踏む。
甲高い音をたてて停車したトラック。アリスは大きく煙草を吸い込んだ後、随分と短くなったそれを灰皿に出来上がっている山へとねじ込んだ。
「嫌な空気だ」
運転席から荷台に移動し、愛機のコックピットへ。リモコンでハッチを開くと、ゆっくりと機体を外へ出した。
アサルトライフルを手に、黒緑の『AA』が森の中を歩いていく。本来の迷彩が機能する空間に、機体の姿は夜の暗さもあってすぐ近くでもなければ視認できないものとなっていた。
ズシリ、ズシリと歩く鋼の巨人。トラックが進む予定だった道の先へ、赤い単眼を向ける。
「……ちっ」
彼女はモニターを見て小さく舌打ちする。
そこには、白い棺桶の様な箱を挟んで、黒服の男達と軍人らしき者達が何か話している姿があった。
更にその周囲には彼女の『AA』より1世代新しい機体が4機立っており、見張り役なのか周囲を油断なく警戒している。もしも不用意に近づけば、蜂の巣にされる事は必至だった。
こちらは急いでいるんだと、アイラは眉間に皺を寄せる。煙草を吸おうかと懐に手を伸ばすが、最後の1本は助手席に置いたままだ。
ニコチンが足りない。思考力が低下しているとアリスは頭を掻く。
更に眉間の皺が深くなったところで、モニターの先に動きがあった。
───ドォォン……!
爆音と火柱が上がった直後、白と青で彩られた機体が突如現れたのだ。
それは近くにいた『AA』に体当たりをしてよろめかせると、白い箱を手に跳躍する。
背中と脚部のスラスターから盛大に炎を放出し、凄まじい加速を見せる白い機体。
その跳躍に思わず目を見張ったアリスだが、すぐに小さく鼻を鳴らした。
「素人が……」
彼女がそう呟いた直後、地上から飛んできた銃弾の嵐が白い機体を襲う。火花を散らしてバランスを崩した機体は、森の中へと落ちていった。
それを見た彼女は、愛機の足を動かしゆっくりと元来た道を戻ろうとする。強行突破するには敵が多い。煙草を買いに行くには、残念ながら回り道する必要があると受け入れたのだ。
眉間の皺は限界まで深くなり、舌打ちが連打されているが、受け入れている。一応。
そうして踵を返した彼女の耳に、スラスターの音が聞こえてくる。すぐさま警戒するアリスの視界に、信じられない物が見えた。
「なに?」
愛機の上を跳び越えていく影。それは、墜落したはずの白い『AA』だった。
今度こそアリスは目だけでなく口も開き、しばし呆然とする。
彼女の見立てでは、被弾と墜落の衝撃でもう動けないはずの機体だった。それがどういうわけか、ほぼ無傷で跳びはねている。
何度もジャンプして逃げる白い機体を、4機の軍用機が追いかけていた。その光景に、アリスの頬が引きつる。
白い機体が逃げた先は、彼女のトラックが停めてある場所だ。このままでは戦闘に巻き込まれる。
「くそがっ」
悪態をつき、彼女は愛機を走らせる。向かった先では、白い『AA』が慎重にトラックへ近づいている瞬間だった。
すぐに銃口を向けたアリスだが、トラックに当たるとトリガーにかけた指を止める。
だが、けたたましい銃声が夜の森に響いた。
白い機体を追いかけていた『軍用AA』の1機が、標的に躊躇なくアサルトライフルを発砲している。当然射線上にトラックがあるが、お構いなしだ。
再びバランスを崩した白い機体が偶然盾になったが、ばら撒かれる弾丸がいつトラックを捉えるかわからない。
アリスのニコチン不足の頭から、ブチリという音がした瞬間。
「アタシの煙草に、何してんだ!!」
軍用機の顔面に、銃床を叩き込んでいた。
轟音と共にバランスを崩した相手だが、すぐさま背中のスラスターで姿勢制御。後ろに倒れ込みながらも上体を起こし、ライフルをアリスの機体に向けた。
互いの銃口が火を噴き、鉛玉が吐き出される。
軍用機の弾はアリス機の左足を打ち抜き、彼女の弾は相手の頭部を破壊した。
倒れる両者。すぐさまコックピットブロックが射出される軍用機を横目に、彼女はレバーを引いてどうにか愛機の姿勢を整えようとする。
膝立ちの体勢に移行したものの、それ以上はどうにもならない。
ガリガリと頭を掻いた後、アリスはシートの裏からサブマシンガンを掴みコックピットを出た。
ハッチ横から下に伸びるワイヤーを使って着地すると、彼女は白い機体を睨みながらも小走りでトラックに向かい。
『待ってください』
ノイズが混じった少女の声に、呼び止められた。
白い機体がライトを点灯させ、アリスを照らす。それに目を細めながらも、彼女は銃口をそちらに向けた。
サブマシンガンで『AA』に対抗するのは無謀だが、彼女に勝つ必要はない。メインカメラを破損させ、隙を作れるのならそれで良かった。
この白い機体の乗りては、とんだ素人である。アリスはそう判断し、逃げる事は可能だと考えた。
『私に敵意はありません。貴女にお願いがあるんです』
白い機体は丁寧に棺桶型の箱を地面へおろすと、騎士の様に片膝をついた。
そして、コックピットブロックが開く。
『貴女に、私を操縦してほしい。そしてどうか、奴らからこの子を護って……!』
地面に下ろされた白い棺桶。その蓋の一部はガラスで出来ており、中に眠る銀髪の少女の顔が見えていた。
人形の様に整った寝顔。それを見下ろす白の『AA』の開かれたコックピットには、誰も乗っていない。
パイロット無しで動く機体。それに気づき、アリスは顔をしかめる。
「……AIの自立型。無人機はご禁制のはずだが」
『私では、この子を護れない。貴女も奴らと敵対しているのでしょう?だから……!』
白の巨人は、一瞬だけ棺桶の少女を見下ろした後。
『一緒に、戦って下さい……!』
無機質なはずのカメラアイに、どこか熱い光を灯した。
それに対し、
「すぅぅ……ふううう……!」
アリスは何も答えず、さっさと助手席に向かう。かと思えば扉を開き煙草を取り出すと、流れる様な動作で咥え火をつけた。
満足気に紫煙を吐き出す彼女に、白の巨人は困惑した様に首を傾げる。どうにも、人間らしい仕草だった。
『あ、あの』
「いやだ」
『えっ』
聞き間違いかと、無人機は疑問符を浮かべる。
それに対し、アリスは。
「いやだと言った。誰が乗るかよ」
中指を、おったてた。
* * *
嘘予告!!
「あんたの戦いだろう?ケツは自分で拭け。……だが、負けられても困るな」
謎の機体からの誘いに半笑いで首を横に振るヤニカス傭兵!
「ふっ。まさかあの様なアンティークが動くとは。面白い……!」
漆黒の機体を駆る、仮面の男!
「あなたは、だーれ……?」
目を開いた、棺桶で眠っていた少女の正体は!
次回「戦い方を教えてやるよ」
続かない!!
読んでいただきありがとうございます。