第4話 タワシ、散歩旅をする
さて、前回から俺は憑依が出来る様になったぞ!
早速色々検証してくか。
先ず、感覚は覚えた。
①対象を決める
②対象を意識する。この際、ただ何も考えず、集中する
③憑依がされるまで、その状態を継続する
すると頭のてっぺんが引っ張られる感覚が来る。
これで憑依が完了する。
戻る事も出来た。
タワシを意識すりゃ出来た。
あと、タワシに戻らずとも、憑依を繰り返せる。
タワシ→その他の物→その他の物
と、経由していける。
これが凄いありがたい。
わざわざ憑依した物から動かなくても、ワープ紛いの事が出来る。
簡単に言えば、監視カメラがそこらにある感覚だ。
それを伝っていくみたいな……。
あ、そうそう。
見え方なんだが……。
それこそ監視カメラみたいな感じだ。
勿論メカメカしい線とか、勝手に測定してくれる訳でも無いから、そこはクリアな視界だ。
人力固定監視カメラだ。
勿論、俺が憑依を解けば、その物は浮いてれば落下するし、鎧は立ってれば崩れ落ちる。
そして、今それを繰り返し、鎧に移った。
その時、何かが視界の端で動いた。
「なんだ……?」
光る物体だった。
あ、鏡だ!
あ、死角になってたけど、鏡あったんだ。
うん。
カッコいい。
黒い武者鎧。
状態は良く、埃は少々被っていたが、それ以外は完璧な状態だった。
……そうだよ。これが俺の求めてたデュラハンだよ!
「でも……本体はタワシなんだよな」
ふと。兜の中が目に入った。
空っぽだ。
本当に、何も無い。
本当に転生したんだな。
……自覚しにくいが、事実だ。
改めてそう感じた。
さて、物置から出ますかね。
……出て良いのかな。
ま、いいっしょ!
ドアノブに手を延ばし、開ける。
―ガチャ―
目の前には生い茂る木々。
足元には、生い茂る草花。
その下には、土。
山の中か?
いや、こりゃあ林だな。
ん?虫もいるな。
しかも、なんか見たこと無い虫だ。
オケラっぽいが、羽がハチみたいだ。
……そして、人?
人が居る。
黒いフードを深く被り、マントを羽織っている。
よく見ると、鎧をしている。
銀色。かつ、所々細かく青い装飾がなされている。
バイザーには、いくつか横穴がある。
これはアレだ。
マクシミリアンアーマーってやつだ。
そして、兜がこっちを向いている。
……え?こっち見てる?
「おい」
「え!」
しゃ、喋った。
男の声だ。低い。
大人だ。30歳位か?
「鎧で出るな」
「え、あ、ハイ!」
―バタン―
な、なんだったんだ今の人……。
多分……デュラハンだよな。
鎧は普通着ないだろうし。
にしても。
監視まで付けられてるんだな。
前回の不気味さの正体が分かった。
アレだ。
俺を隠そうとしてるんだ。
俺自身、色々な情報が多くて気づきにくかったが……。
世間から隠されている。
でも……なんでだ?
俺を、その状態で動けるのは変だと言っていたな……。
けど、喋ったりする事は特段珍しそうでは無いな。
さっきのデュラハンもそうだし。
……なんだ?
何か……変だよな。
あ、妻はデュラハンの研究をしているとか言ってたな……。
ヤバイ。
逃げるか?
タワシを持って逃げるのは多分無理だ。
……えぇい!
どの道外出はする予定だったんだ!
出るぞ!
憑依で!
さて……
この物置には窓がある。
つまり、そこから外の対象を選べるのよね。
よーし……。
葉っぱを意識しろ……。
よし!なれた!
俺の鎧は……倒れているけど、まぁいっか。
監視のデュラハンは気付いてないな?
よし。
さて、この葉っぱから、向こうの葉っぱを意識して……
これを繰り返す。
そう、外出である。
さて……随分離れたな……。
バレてないよな?
今や物置は完全に視界から消え、今は住宅街に出た。
今は朝方。
スーツを纏った人。
スマホをいじる人。
車を運転する人。
ジョギングする人。
様々だ。
しかし、なんだろうな。
異世界って感じがしないなぁ。
……本当に近代社会だ。
……スマホとかには憑依出来ないのか?
いや、目立つ行動は辞めろって言われてるしな。
止まってる車なら良いだろう。
憑依したら直ぐに別の物に入れば良いし。
さて……
憑依じゃぁ!!
あれ?
なんも起きないな。
確かに魂が抜けた感じしたけど……。
あれぇ??
なんだろう。
もう一回……。
オラァ!
やっぱり駄目か。
う〜ん?
また今度やるか。
さて、そこからは、色々な物に憑依していった。
壁だったり、雑草だったり。
色々な物に憑依していった。
ま、探検だな。
さて、色々見ていこう。
町並みは、本当にそのままだ。
そのまま前世と変わらない気がする。
ただ……
看板や道路標識が見たことのない文字になっている。
アラビア文字とかそっちに近い。
これを見る度に異世界に来たと感じるのだ。
けど……なんだろう。
何故か読める。
スラスラ読める。
見た事も無いのに。
スラスラ入る。
うわ。
何か気持ち悪い。
似てはいるんだよ。
標識の形とかが。
だから読めるのは分かるんだけどさ。
でも。
広告の看板とかが読めるのはどうも変だ。
なんでだ?
なんで読めるよ?
「……?」
あれ……でもなーんか引っかかるな。
……あ!
そう言えば、旦那が、"そっちの言語"とか何とか言ってたな!
もしかして、デュラハンには自動翻訳機能とか付いてるんだろうか?
だとしたら納得かもしれない。
……まぁ。
なんであるのかは知らないが。
嬉しい事に越したことは無い。
さて……また歩いてすとしますかね。
風のふくまま〜
きのゆくまま〜
歩いていたら〜
遠くまで来ていた〜
足跡なんて〜
どーでもいいさ〜
なーんにもしらないことばかーり〜
この世はまだ楽しい〜
タワシ散歩だね。
さて……歌ってる間に距離的に結構進んだね。
時間も、あれから1時間は経ったかな?
街並みを見てきたけど……。
パン屋とか、お土産屋とか。
結構色々あるな。
しかもチェーン店らしき店もあるし。
その時、視界の端で動く物が見えた。
いや、街中なんだから、そんなの当たり前ではと思うかもしれない。
しかし違う。
人型ではあるが……。
……あ!
ん?
あ!
いや!
デュラハン居た!
鎧が皿運んでる!
シュール過ぎる!
わ!
面白い!
ちょっと見に行くか!
自動ドアが透明で良かった。
店内がよく見えるから、憑依の物体も決めやすい。
店内の椅子に憑依する。
そして、よくレストランの天井でぐわんぐわん回ってる、デカい扇風機にみたいなやつに……。
よし、流石になれたな。
さて、上からならよく見える見える。
あ、凄い!
働いてる!
金属鎧が皿を運んでるぞ。
あのバケツみたいな頭は……グレートヘルムだ。
カッコいい。
けど、皿を運んでるのシュール過ぎるな。
アレじゃん。
ファミレスで料理を運んでくるロボットじゃん。
それをカッコいい鎧がやるの面白いな。
しかも。
所作がキレイだな。
なんかキビキビしているな。
働いてるのかね。
しかも、大体の店で働いている。
人だけしか働いてない所は珍しいくらいだ。
馴染んでるんだなぁー。
でも、何か、働いているデュラハンは、ロボット感が強かった。
なんか、感情が無いんだよな。
無言で皿を運ぶし。
そのせいかリボンつけたり、バイトの制服を着せたりする店が多かった。
無言でレジ打ってお辞儀するし。
あ、今会計するぞ。
どんな感じなんだろう。
「このオートマタ可愛い」
制服の女子だ。
女子高生とかかな?
青春だねー……。
てか、オートマタってなんぞ?
「ホントだ!リボン付いてるー!」
デュラハンの事だった。
あれか?
デュラハンだとアレだから、オートマタって呼んでるのかな?
流行りかなんかかな?
ま、俺は好きだぞ。その呼び方。
良いね。
女子高生がオートマタだの言葉にしてるの。
現世だったら中々レアだからなぁ。
「鎧って案外可愛いよね」
「それ」
お、やはり甲冑は溶け込んでるんだなぁ
魂が宿ってるなら、もう少し反応があってもいいとは思うんだけどね。
しかも喋らないしな。
……ん?
喋らない……?
あ……。
なんか……隠そうとしているな理由が少し分かった気がする。
いや、まさかな。
……にしても、結構発展しているな。やっぱり。
会話内容とかも色々聞いていたのだが……。
最近のファッションとか。
最近何食べたとか。
……上司の愚痴とか。
まぁ、普通の会話だった。
ガチで平和だ。
何かなー。拍子抜けっていうかね。
いや、平和なのは別に良いんだよ。
俺も平和好きだし。
平和嫌いな人なんて居ないと思うし。
ただ、こう……。異世界に来るんだったらさ。
バーン!
とか
ドカーン!
とか欲しい訳よ。
けど、法律で禁止なんでしょう?
ならば仕方ないか。
さて。
どうやらデュラハンってのは色々なところで使われている。
多分一番使われているのは建築現場とか、その他の雑務だ。
資材の運搬。
高所での作業。
色々使われている。
便利なもんだね。
しかし、こんなにいっぱい居てさ、街中を歩いているのは人間が多い。
時々見かけるデュラハンも、子供の付き添いや、車椅子を押していたりだった。
しかもどれも喋ら無い。
子供に逃げられている個体も居たな。
デュラハンも必死で追いかけていて、微笑ましくはあったけどね。
人間らしい部分はあるにはあるのかなぁ?
でも、彼らからは感情を感じない。
なんでだろうな。
まぁ……俺が変な可能性の方が大いにあるしな。
さて、まだまだ憑依を繰り返して行くか。
……
目の前には大きな建物が見えて来た。
そこには小さな浅い砂漠が有り、そびえ立つスカスカなピラミッドもある。
そこからは、チャイムの音が響く。
そう。
学校である
校庭にも、ジャングルジムがあるし、砂がね、ジャリジャリ言うよね。
校庭って。
さて……。
学校内にデュラハンって居るのかね……。
不審者が入りますよっと……。
さて……先ずはフェンス越しに遊具になり。
よしよし。視点が高いから窓から……いや、先ずは窓に憑依。
そしてそこから……お、教室の中が見えるな。
よし。
筆箱に憑依して……。
おー……。
ちょっと明るい蛍光灯と、暗い蛍光灯。
窓は勿論カーテンがしてある。
そして、TVに映るスライドショーの様なやつ。
並ぶ机と。
私服の少年少女。
鉛筆。
ノート。
あー、小学校だな。此処は。
校門見てなかったからね。
あ、やっぱりあんまり変わらないね。
元の世界と。
あ、今は社会の授業かな?
「えー、じゃあ動画があるので。10分位なんで……」
あー、動画見せる系の先生か。
これ、生徒側結構別れるよね。
寝る奴とか。
落書きとか。
……まぁ、俺なんだけどね。
さて……。
ま、この教室にはデュラハン居ないかなぁ。
さて……。
他の教室に向かおう。
また窓に憑依し、そこからまた教室の窓に移動し。
を繰り返しデュラハンを探した。
すると、居た。
廊下を歩く、デュラハン。
しかも2体程。
銀色だ。
ヘルムはクラップバイザー型か。
うん。
カッコいい!
ん?よく見ると、プレートに名札着けてるな。
えーっと……
―ジャベリン―
―ガーデン―
中々カッコいい名前じゃないか。
勿論、日本語で書いてる訳では無い。
が、そういう名前だと、頭に入ってくるのだ。
不思議だね。
さて……。
ん?なんかこっち見てね?
……。
逃げろッ。
俺は窓を必死こいて伝っていった。
逃げるんだよー!
……てあれ?
デュラハン達は、そのまま並んで廊下を歩いていた。
……そもそも追ってきてねぇし。
なんだ?
見ただけで済んだ?
な、なんだ?
霊感を感じるとは言っていたが……。
どうなんだ……?
デュラハンも感じるのか?
……ま、良いか……。
とりまデュラハン見れたから良しとしよう。
サイナラー。
不審者が学校から気付かれもせずに、脱走をした。
―――――――――――――――――――――――――――――――
えー……。
皆様。
大変です。
帰れません。
どうしよう。
やばい。
帰れない。
道を忘れました。
今、何処か分かりません。
あー……バカタレ。
あー……
いやいや、こういう時こそ、ポジティブに行こう。
そのうち帰れんだろ!
俺は憑依を繰り返す。
――――――――――――――――――――――――――――――
何百回やった?
……ヤバイ。マジで迷った。
終わった……か。
俺、こんなんで死ぬのか。
てか、死ぬのか?そもそも?
ま、このままだったら死んだも同然だ。
話し掛けるとかは目立つから駄目だし。
てか、コミュ障だから話し掛けれんし。
いや。
諦めんなよ…
諦めんなよ、俺!
どうしてそこでやめるんだ、そこで!
もう少し頑張ってみろよ!
ダメダメダメダメ、諦めたら!
あともうちょっとのところなんだから。
俺だってこの迷子のところ、タワシがトゥルルって頑張ってんだよ!
ずぅーとやってみろ、必ず目標を達成できる!
だからこそNever Give Up!!
よし。
元気は出たな。
良し……。
いやね?
名言って大事だよ。
本当にやる気出る時は出るし。
次だな。
次はあの雑草だ。
えいっ!
目を覚ますと(?)目の前に広がるのは、いつもの景色だった。
鏡。
倒れた鎧。
段ボールやら色々。
あ、あれ?
何があった?
俺憑依したよな?
ん?
此処はどう見ても物置だ。
戻ってる?
本体に?
う〜ん?
リスポーン的な感じ?
え?死んだの?俺?
と、とにかく何故か戻った……。
これはまだまだ調べる必要があるな。
ちょっと検証してかなきゃな……