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第3話 憑依だってよ!

さぁ〜て、皆さんいかがお過ごしですかな?


 俺?

 俺は寝れないし、なんなら暇すぎて泣けてくるぜ!


 足元の魔法陣に関しては良く分かんないしな。


 まぁ、足なんて無いけどさ。



 取り敢えず、ちょっと色々試そうと思う。



 俺は忘れていない!

 旦那が 


 ―動けはするんだよね―

 

 と、言っていた事を!



 ということでですね。ちょっと動けるか試してみようと思います。

 

 取り敢えず、声の出し方でなんとなく分かった。

 

 この体、元の体を使う様なイメージが大事なんだ。

 ……と思う。


 具体的な表現は難しいが、確かに、喉の感触みたいなものを感じたからな。

 

  

 ま、実際はやってみなけりゃ分かんないしな。


 

 取り敢えず、イメージだ……。


 

―こう……体があって……脚があって……―

 

 

 突如、視線が高くなった。


「お?」


 な、なんだこれ?!


 

 突如視界が右に回る


 

 ポトリ、と落ちてしまった。


 

「…………はぁー、ビックリした」



 ドキドキした。 

 いや、まぁ心臓無いんだろうけどさ。



 取り敢えず、さっきのイメージしたのは、脚だ。


 

 やっぱり、イメージして動くっていうのは、間違ってない。

 

 ならば、もう一度!

 

 俺は何度もリトライした。

 

 浮いては落ちて、落ちては浮いて。

 

 幸か不幸か、この体は眠れないし、眠くもならない。


 痛みも無い。

 

 つまり、無限に挑戦出来る。


 

 なんとも都合の良い体か。

 

 

 1時間程経過する。

 

 ……………遂に

 


「た……立てた……」

 


 立てた。確かに、自分の目線が高いまま保たれている。 


 俺は、大地を踏みしめたのだ! 


 ……まぁ、床だけど。

 


 さて、次は歩く練習だ。まずは、右足から前に出して……

 

 

 ―ボトリ―

 

 

 視界が時計回りに回る。


 落ちていた。 


 まぁ、落下は何度も経験してるからね。慣れたもんよ。

 

 さて…もう一度立って…… 


 右足を……

 

 視界が時計回りに回る。

 


 ―ボトリ―

 


 んー……またダメか……。

 


 10回、20回と繰り返す内に分かってきた。

 


 右脚を動かすのを意識してしまうと、左脚が意識の外に出て、消えてしまうのだ。

 


 こ……これは難しいぞ……。

 


 100回、200回……



 何度やっただろうか。


 数えていない。


 出来るのか?コレ?




「……無理かもな……」

 

  

 無理そう、か。

 

 マジか……。せっかく転生したのに。

  

 (……まぁ、タワシだったけど。)

 

 クソっ。やり直せると思ったのに。

 

 (……まぁ、タワシだけど。)

 

 クソっ。可愛い女の子とイチャコラしたかったのに!

 

 (……まぁ、人間ですら無いけど。)



 ………………あれ?結構終わってね?


 

 


 異世界ロマンスゼロじゃねえか!

 


 そもそも、なんでよりによって、転生先が、掃除用具なんだ?!

 


 そもそもなんでタワシ?!


 

 せめて生命体にしてくれよ!!!


 あー……もう。


 いっつもこうだ。


 良いことがあったとしても、それ相応の嫌なことが後から来る。


 死んでもそういうのって、付いてくるかね?普通さ?




 

 あー……いかんいかん。


 


 そもそも転生出来たんだから、気にしちゃいかんな。


 

 それだけでラッキーだ。


 


 こうやってグチグチ言うから、作業が滞って、場合によってはストレスが更に溜まる。



 

 前世もそうやって時間を無駄にしてきたじゃないか。



 

 何かある度に、グチグチ、グチグチ。



 

 まぁ、前世とは、また状況が少し違うけどさ。



 俺は、変わるんだ。


 タワシだけどさ。


 いや、タワシだからこそ、変わんなきゃな。



 ……さて、続けるか。



 俺はまたイメージを繰り返す。


 ――――――――――――――――――――――――――――――



 あれから500回?はやっただろうか?


 やっと……倒れずに進めたぞ!


 やったぞ!成功したぞ!!


 いや、正確には、スライドしたと言った方が正しいだろう。



 結局、脚を出すだけではダメだったので、進むというイメージをしたのだ。


 

 そしたら、スライドした。

 


 両脚が地に着いたまま、スーッと。


 

 平面でも滑れるスキーって感じだ。



 俺はしばらく、その移動方法で、移動を続けた。



 その内、旋回も出来るようになった。



 しばらく部屋をぐるぐるした。



 なんならピタッと静止出来るレベルにまでなった。


 アレだ、動き的には、トンボみたいなもんだ。



 ……嫌だなトンボみたいに動くタワシとか。


 しかも20年モノ。



 まぁ、ともかく俺は移動できるようになった。



 ――――――――――――――――――――――――――――――


 窓から光が差し込む。

 


 ……もう朝か。



 俺はまだぐるぐると回っていた。


 物に当たらないように、避けながら。


 


 ―ガチャ―


 扉が開いた。


 旦那だった。


「おはよ……え?」


 旦那は、ぐるぐると回る俺を目で追っている。


「あ、おはようございます。動ける様になりました!」



「えー……ヤバッ」

 


 え?え?何?

 

 動いただけだぞ?!

 

「え、な、何がヤバイんですか……?」

 

 

 そう聞き、俺はピタッと止まる。

 

 

「……しかも、止まれるとは……」


 や、ヤバイ、次々と地雷を踏んでいる……


 踏む脚無いけどね


 

「そ、その……う、動いただけですけど……」



「……いや、何も教えて無いからね?」



「え、えぇ……」



「いや、良かったよ。君が入ってくれて」

 


「え?」

 


 良いのかよ!


 良い方のヤバイかよ!


 紛らわしい!


 しかし。


 動いただけでこんなに褒められるとは……なんだか嬉しくなっちゃうな。


 しかし……


「動くのがなんでそんなに凄いんですかね?」


 そう。


 言ってもたかだか動いただけだ。


 凄いのかよく分からん。



「凄い!でも……いやね……説明が難しいんだ。この……なんていうか……」

 


 旦那はう〜んと唸り、腕を組んだ。 



「あ、えーとね、……そうだな。先に言っておこう。君は僕の妻の作品なんだよ」

 


「え?あ、え?」

 


 作品?


 妻の?

 

 急ですよ!話が!


「ほら、妻がデュラハンの研究をしてたって言ったろ?」


 なんか言ってたね。そんな事。


「えぇ、覚えてますけど……」

 


「それでね……妻が死んでから、作品の処理をしてたら、君がタイミング良く転生したって訳だね」


 

「しょ、処理?タイミング良く?」


 

 ヤバイ。疑問点が多すぎる。


 


「……えっとね、デュラハンってのは魔法陣……あ、それね」


 旦那は、俺の足元の魔法陣を指差した。


「え、えぇ……」


「それを作ったのがうちの妻だったんだよ」


 俺は魔法陣を見た。(つもりでタワシを下に向けた)

 

 

 ほ……ほぅ……?

 


 デュラハンの研究=魔法陣の作製って事か?

 


「えー……つまり、魔法陣は、デュラハンの為だけにある様なもんなんですか?」

 


「いや、そんなことは無いよ」

 


「その、……滅茶苦茶デカい魔法とかを作り出す為に使ったりとかはしないんですか?」


 

「いや、それは無いね。大規模魔法は基本禁止されてるから」

 


 魔法はあるのか……。



「魔法自体はあるんですね」

 


「いや、そりゃあるよ。法律で普段は使えないだけさ」



 ほ、法律……?!

 


「法律があるんですか……?!」

 


「あるよ。魔法使用には許可がいるんだよ。ま、子供が使う分には問題ないんだけどね。大人は力が強いから」

 


 銃刀法みたいなもんなのか?


 現代技術があるのは知ってたし、法律があるかもとは思ったが……。


 魔法も制限してるのね。

 


「んで、まぁ、魔法陣ってのは使わないと消えなくてね。処理するには使わなきゃいけないんだよ」


 ……あ、魔法陣の話ね。


 成る程。


 魔法陣は消耗品って事ね。


 んで、使ったと。


 


 ……ん?でもなんでこのタイミング?

 


 そもそも妻が亡くなったのはいつだ?

 


 その上、法律で魔法の使用は禁止だろ?

 


 大規模魔法では無い魔法陣は、含まれないのか……?

 


「あの、魔法陣って、法律で禁止じゃないんですか?」

 


「大規模、又は目に見えて観測出来る物じゃなければセーフよ。セーフ」

 


 ……本当に大丈夫なんだろうな……?


 やだよ?


 わざわざ転生して、即牢屋とか。



「……そして、その魔法陣は定着陣って言ってね。物とかに……魂を宿らせる陣なんだ」

 


「は、はぁ」

 


 成る程。


 つまり、召喚魔法みたいなもんなのかな。


 何と言うか、ファンタジーだ。

 


「それで、定着したのが君だ。いや、ホントに君みたいな人で良かったね」


 いや、照れるなぁ。

 

 待てよ……ん?選んだ訳では無いのか?


 安心してるよな。


 良かったって言う安心だよな。


 予想がいい方向に向かって良かったていう安心だよな。

 

 

 召喚魔法とは言ったけども。

 

 相手を選べる訳では無いのか?

 

 ランダムなのか?

 


「その……ランダムなんですか?定着する人は」

 


「お、そうだね。よく分かったね」

 


 ……なんだろうか。


 やはり、どうも変な感じだな。

  

 仮に俺では無く、凶暴な人が入ったら危なくないか?


 リスクが大きい気がする。

 


「それにしちゃ、俺の縛りが緩くないですか?動けますし」

 


「いや、それは君が変なのよ」

 


 あ、俺が変なのか。


 これは……俺、なんかやっちゃいましたか?


 というやつだ。



「そもそも、付喪神は、こういう物に憑依してないと動けないんだよ」


 旦那は、懐から人型の模型を取り出す。



「……あ!だからタワシに入れたんですか?!」


 タワシとかに入れれば、動く事は無い。


 成る程。


 人として測ってた訳だな!


 チクショウ!



「……そうだね。ゴメンね、嘘ついちゃって。タワシ以外にも全然あったよ」



 まぁ……そうだよね。実際鎧あるんだし。


 にしてもショックだよ。タワシだなんて……。



「そうですか……」



「ま、まぁ……動けるんなら良いじゃないか。それに、君は悪い人じゃなさそうだ。付喪神らしい事をさせてあげるよ」


「付喪神らしい事……?」


「そう、付喪神らしい事だ」


 旦那はそう言いつつ、魔法陣をいじっている。 


「少し、時間が掛かるかもね」




 


 ―2時間後―


「ヨシ、出来たかな」


「どう変わったんです?」


 ……特に変化は無いな。


 体が急にトランスフォームする事もないし。


「そうだねぇ、じゃあ、これを見ててよ」


 そう言うと、さっきの人形を目の前に置いた。


「コレを……?」


「それで、ずーっと意識するんだ。そうだなぁ、引っ張られる様な感じで」


「うん……?取り敢えずやってみます」


 じっと見る。


 人型の人形を。


 隙間、可動域がある。


 恐らく、木製。


 ……ってこれは観察か?


「どうだい?」


「……ちょっと、難しいかもです」


「まぁ、ゆっくりとやると良いよ」


「ちょっと、もう少し……」


 見続ける。


 引っ張られるイメージ……。


 瞬間。


 頭から何かが抜ける様な感覚と共に、飛んだ。


 ほんの一瞬。


 本当に一瞬。


 光を越えるような速度。

 


 


 ―カタッ―


 人形が、魚が跳ねる様に動いた。

 


「おっと……、いけたかな?」

 


 旦那の声が大きく聞こえる。


 その上、なんか、デカくね……?


 あ、もしかして……


 腕を動かす。


 カタカタと音が聞こえる。


 脚を動かす。


 あ、これは……。


 立ち上がれ……た。

 


「……お、おぉ……スゲェ」

 

「どうだい?」

 

「案外、急にいくもんですね」

 

「あ、そうなの」


 あ、そうなのって。


 なんか、無責任チックだなぁ。

 

「まぁ、結構急に入りましたね」 


「まぁ、慣れたら面白いよ、多分」

 

「そうですねぇ」 


「但し、それを使って変な事したら、一瞬で禁止にするからね」

 

「いや、そんなしないですって」


 


 にしても……。


 凄い変な感覚だなぁ……。


 自分の体じゃないのに、自分の体みたいに操れる。


 けど、なんだろう。


 寒い感じがするんだよな。


 スースーする。


 いや、タワシに入った時から、何故かスースーする。


 魂だけだからとかなのか?


 ……まぁ、今は良いか。



 にしてもこの人形……。

  

 手の部分まで精巧に作られてるな……。


 指までよく動く。


「……さて、タワシ君」


「はい」


「その力はかなりヤバイ。犯罪し放題なんだ」


 旦那の眼差しは、人が変わったように真剣だった。

 


 あ、これは真面目な話だ。


 話し方がいつもより厳格だ。

 


「えぇ、これが凄い力ってのは分かります」


「話が早くて助かるよ。さて……本題はここからだ」


「……ゴクリ」


 俺は唾を飲み込んだ(つもりになった)


 


「君は、外を、世界を、見たいと思うかい?」


 ん?


 どういう意味だろうか?


 単純に見たいか、見たくないかだったら、そりゃあ見たい。


 見たいさ。


 せっかくの異世界だ。


 似ている部分は多いかも知れないが。


 例え似ていても、俺は見たい。

 


「見たいですね」

 

 

「そうかい……。なら外に出るなとは言わない。けど、犯罪とか、目立つ行動は辞めてくれ」


 旦那は、少しも表情を変えなかった。


 真剣そのものだった。

 


「勿論ですよ」

 

 まぁ、そんなの当たり前だ。


 出来て当然だ。


 犯罪などはしなくて当然だし。

 


「あと、鎧の姿で出ないでね」


「……ハイ」

 


 まぁ、そうだよね。


 コスプレとかの概念があるならまだしも。


 ……いや、あっても無くてもどの道目立つしな。


 中身が無いとなれば大騒ぎだろうし。


 しかし、ちょっと武者鎧で歩きたかったなぁ。


「いやね、武者鎧のデュラハンってのは居ないんだよ」


 あ、そっち?


 武者鎧が居ないからか。


「居ないんですか?武者鎧のデュラハン」


「そうなんだよ。この国ではデュラハン作ってないからね」


「あ、そうなんですか」


「ガセアンって国の国家企業の特許でね。ガセアンはデュラハン技術でモノカルチャー経済してるんだよ」


 成る程。


 つまり……あっちの文化の鎧しか製造していないという訳だな?


「だから武者鎧のデュラハンは居ないんです?」


「まぁ、居てもおかしくは無いけど、どの道目立つからね。基本は西洋鎧だから」


「成る程……」


「それに、特に君はダメだね」


 そして、特に俺はダメ?


 ほう。


 理由聞こうじゃないか。



「なんで特に俺はダメなんですか」


「う〜ん、変だからだね」


「へ、変だから?!」


 ちょっと!


 もう少しマトモな理由を教えてくださいよ!


 それはさっき聞きましたよ!


「いいかい?付喪神はその物体に憑依したらそれまでなんだ。……基本はね」


「つ、つまり?」


「憑依ってのは、普通は出来る事じゃない。まぁ、タワシ状態で動けるのは変だし、予想外だったけどね」


「はえー……」


 成る程。


 俺専用の特殊能力な訳ですね。


 いやぁ〜照れちゃうな。


 鼻が高いですな。


 ガハハ。


「……故に、憑依だけで、外の世界を見てもらいたい」


「あ、成る程。本題って此処ですね」


「そうだ。憑依ってのは今のところ、誰も観測出来ないんだ」


 成る程。


 だから憑依を覚えさせたって事ね。


 ……でも、なんだろう。


 少し違和感を感じるんだよな。


 う〜ん……。


 まぁ、一旦話を頭に入れよう。


「……えーと。つまり憑依は誰にも観測出来ないと」


「感じる事は出来るけどね」


「あら?」


 なんだよ。


 感じれんのかよ?


 てか、感じるってなんだよ?


「科学的に証明出来ないんだけど、感じる事は出来るんだ」


「……?」


 今の俺は魂だけの存在だ。


 つまり幽霊に等しい。


 あー、アレだ!霊感ってやつか?


 こっちにもあるのね。


 いや。


 こっちは魔法もあるしな。


 ……まだ、こっちの方が納得出来るな。

 

「……俺が魂だからですか?」


「そうだね。霊感ってヤツだ。君は勘が良いな」


「……成る程?」


 霊感。


 やはり霊感なのか。


 よく分かってないが……。


 とにかく前世の知識は役に立つらしい。 


「まぁ、色々使っていく上で覚えるさ」


 旦那はスクッと立ち上がった。


「あ、ちょっとまだ聞きたいことが……」


「ごめん、また後でね。朝の支度があるんだ」


「あ、ちょ、ちょっと……」


 ―バタン―


 行ってしまった……。


 まぁ、そうだな。


 外出許可は貰えたんだ。


 外に出るとするかね。


 


 


 ―俺は今日憑依を覚えたのだった―

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