その日、一人の人間が殺された
その日、処刑場で一人の女性が引き連れられてきた。
「お前は愚かな者達から聖女と呼ばれたな」
執行人の声が響く。
それに呼応するように彼女を侮辱する数々の声が響く。
処刑場に集まった人々の声だ。
やがて声が静まり、再び執行人が口を開いた。
「お前を我々は恐ろしい魔女だと呼んでいたな」
先ほどと同じように侮辱の言葉が飛んだ。
「だが、貴様はただの女だ。聖女でも魔女でもない」
言葉と共に彼女の服が引き裂かれた。
「ただの人間だ」
そう言われると共に彼女は晒された。
彼女の耳に屈辱的な言葉や侮蔑的な言葉、そして聞くに堪えない歓声が響く。
女性は自分がこの中で死んでいくのだと理解しながら。
それでも、彼女は歓喜していた。
自分がただの人間だと証明されたことに。
人々が自分の事をただの人間だと罵ることに。
裸のまま彼女は断頭台に寝かされた。
あと数秒でこの時間は終わる。
それを理解して静かに目を閉じる。
そう。
私は人間。
ただの人間。
圧政に苦しむ民を救うために立ち上がった、ただの人間でしかない。
魔女でも聖女でもない。
どこにでも居る人間。
だから、ここで死ぬ。
ただの人間でもここまで出来た。
首に熱いものが一瞬当たった。
瞬きにも満たない時間の中、それでも彼女の最期の思考は止められなかった。
必ず、私の後に誰かが続く。
私と同じ『ただの人間』は星の数ほど居るのだから。
非業の死を迎えた彼女が聖女として扱われ名誉回復したのはそれから五年後のことだった。