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「第三話」嵐の前の静けさ

 顔を上げると、大きな校舎が見えた。今日は私以外の生徒もこの時間に登校しており、所々視線を感じて辛かった。口が開いて動くのを見るたびに、私のことを囁いているのではないかと思ってしまう。


「何を心配してるのかは知らねぇけどさ、多分お前のことなんて誰も興味ねぇぞ?」

「は、はぁ!? いきなりなんなの!?」

「どっちかって言うと俺じゃねぇか? こんな時間にヤンキーが真面目に学校に来てる時点で、アイツラからしたら珍しいと思うけどな」


 言われてみればそうである。よーく見てみるとみんな、私よりも怜央の方を見ている……気がする。


「ほら、早く入ろうぜ」

「……うん。ありがと」

「いいんだよ、俺彼氏なんだし」


 やっぱり付き合ってるんだなぁ私達。夢であってほしかったなぁと思う自分と、護衛的な存在に縋る他ない現実が、見事に折り合い悪く互いを睨んでいた。


 でも、悪い人じゃないんだよな。と、そう思う自分がいることも事実であった。


 初めは拒否していたとはいえ、私が「鬼瓦杏子」だということを知ってから助けてくれた。三人の不良相手に怯むこと無く、その圧倒的な力と覇気をもって。


 ──では、何故?

 なぜこの男、坂口怜央は自分を助けてくれたのだろうか?

 そしてなぜ、出会って間もなかった私に対して交際関係を求めてきたのか?


 一度考えれば、もう逃れられない。疑問に次ぐ疑問は増えていき、それらは徐々に深みを増していく……恐怖でもあり、好奇心でもある。そんな様々な感情の混じった「知りたい」が、私の口から出かかったところで──


「ヒィィイイイイハァアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!」


 校門の外側から爆音を鳴らしながら、砂埃を立てながら……そのバイクの群れは校内に侵入してきた。三騎のバイクはあっという間に私と怜央を取り囲み、その周りをぐるぐると疾走していた。


「あなたたちは、昨日の……!」

「借りを返しに来たぞゴルァ!」

「ぶっ殺してやる!」

「へーっへっへっへっ!」


 相変わらず品性のない顔とファンションセンスである。だが今重要なのはそんなことではない、今自分は絶体絶命だということだ。コイツラは馬鹿だが、まさか後先考えずにバイクで突撃してくるとは思わなんだ。


「こんな事して、すぐに警察が来るわよ!」

「ハッ! その前にテメェをぶちのめせれば俺等は満足なのさ!」


 バイクから降り、三人は私に詰め寄ってくる。

 怜央はそんな私の前に立ち、不良共を睨みつけた。


「一発殴らなきゃ分かんないのか?」

「……こ、今回俺たちはお前とはやり合わねぇ! ──親分〜! 出番ですぜ〜!」


 まぁなんともいかにも小物っぽい台詞だなぁなんて呑気なことを思いながらも、私はこんな事もあろうかと家からこっそり持ってきていた組み立て式警棒を構える。いざとなったらこいつでぶん殴ってやる。──そんな事を思っていた私は、化け物を見た。


 校門よりゆったりと歩いてくるその巨体は、およそ二メートルはあるだろう。上背だけではなく横にも広いその肥大化した筋肉はまるで野生の動物を彷彿とさせ、さらには殺意に満ちたその人相……あまりにも、あまりにも人間離れしている。──暴力に慣れている。私の中の父が、全力で「逃げ」を推奨していた。


「お前が、うちの子分をいたぶってくれた野郎か」


 威圧、覇気。あまりにも違う、スケールが違う。年も大きく離れている、体の作りから勝てる相手じゃない! いくらクソ強い怜央でも、こんな化け物相手に張り合える訳がない。


「──だったら、何だよ」


 その瞬間から、「話し合い」という嵐の前の静けさが訪れていた。


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