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カルディア国の王太子・レオ

「お兄様。すみません、私、眠ってしまって……」

 私は眠い目をこすりながら体を起こした。

 お兄様、帰ってしまったかな? と思いながら右側を見て私は目を疑った。

 だって目に飛び込んできたのは広々とした大草原だったから――


 おかしい。聖女の部屋で眠っていたはずなのに。

 寝ている私を誰かが移動させたのだろうか。


「ここ、どこっ!?」

 意識は覚醒しているはずなんだけどなぁ。

 手の平に伝わる葉っぱの感触がとてもリアルだし、風に乗って香る青々しい草の匂いもする。


「誰もいないわ。人がいれば話が聞けるのに……」

 人を探すために辺りを見回せば、「キィ」という甲高い動物の鳴き声が空から聞こえてきた。

 弾かれたように声のした方へ顔を向けば、空を旋回している白竜の大群が。


 日の光を浴び、鱗がキラキラ光って綺麗。

 十数頭いるんだけど、先陣をきっている竜が一番大きい。

 もしかして、群れのボスかな?

 その竜の背には私と同じ年齢くらいの男の子が乗っている。


 竜は気高い生き物。

 それゆえ、人間の指図は受けない。


 ただし、カルディア国の王太子・レオ様だけは別だ。

 彼はすべての竜を使役できる竜王だから――


「ということは、あの子はレオ様? かわいい!」

 私がレオ様と初めて出会ったのは大戦の時だったため、もうあの時は青年だった。

 なので、彼の小さい頃を見るのは初めて。


 美少年と美少女の中間という感じかな。

 とても愛らしい顔立ちをしている。年は私と一緒だから今は六歳だ。


 なんか、不思議な感じだわ。

 ループ前の好きだった人と出会うのって。

 しかも、青年ではなくまだ子供のレオ様。


 ぼんやりとレオ様を見ていると、彼が私に気づき極限まで目を大きく見開く。

 まるで幽霊でも見ているかのように、驚愕の表情を浮かべている。


 やや間を置きながら竜達が地上へ降り立てば、レオ様が降りてこちらに駆け寄ってきた。


「君、その姿でどうしたの!?」

「その姿ですか?」

「体、透けているよ」

「えっ!?」

 私は自分の腕を持ち上げて手の平を見れば、自分の手の平越しに地面が見えている。

 もしかして、幽体離脱中というものじゃ……これ、戻れるの!?


 レオ様に指摘されて自分の置かれている状況を知った。


「幽体とはいえよくここに入れたね。ここは生命の木がある神域。神気が強すぎて僕や竜達以外は立ち入ることが出来ないはずなんだけど……」

「生命の木ですか?」

「そう。そこにある大きな木だよ」

 レオ様が指をさしたので、私は視線で追う。

 すると、そこには天へと伸びている巨木が。

 城三つ分くらいありそうな幹の太い巨木が青々とした緑色の葉っぱをたくさん付けている。


 すごい。濃い霧みたいな神気を纏っているわ。

 清められた神殿でもこんなに強い神気は感じない。さすが、神域と呼ばれる場所だ。

 私にとっては心地よいけれども、他の人にとってはまた別かも。

 神気が強すぎて体に毒だと思う。

 私とは相性が良いみたいで、失っていた神気が回復し始めていた。


「ねぇ、君。普通にここに入れたの?」

「えっと……気づいたらここにいました」

「気づいたら? ますます不思議だ」

 レオ様が難しい顔をしながら、何か考えているみたい。・


「誰か理由わかる?」

 レオ様が振り返って竜達を見れば、「キィ、キィ」と鳴きながら首を横に振っている。

 私には鳴き声にしか聞こえないけど、レオ様は竜と会話ができるから理解できるんだろうなぁ。

 ちょっと羨ましい。


「竜達もわからないのか。では、僕と一緒に城に行こう。父上なら何か知っているかも」

「神殿に連絡すれば、迎えが来ると思いますので」

「君、神殿に暮らしているの?」

「は――」

 私が返事をしょうとしたらぬっと正面に竜の顔が現れたため、両肩が大きく上がってしまう。

 び、びっくりした……


 竜は興味津々とばかりに私の頭から足先まで見ている。

 もしかして、物珍しいのだろうか。

 特に変ったものはないと思うんだけど。


 あっ、でもかなり近いわ。もしかしたら、触らせてくれるかな? と思っていると、竜が私の首元に顔をこすりつけた。

 まるでじゃれている猫みたいでかわいい。


 そういえば、ループ前にもこんな事があったっけ。

 その時、レオ様すごくびっくりしてたもんなぁ。

 竜が気に入った人間は僕以外で初めてだって。


「どうして竜が……」

 呆然とこちらを見ていたレオ様だったけど、「うっ」と重い声を上げて頭を押えしゃがみ込んでしまう。

 苦しげに顔を歪めているレオ様を見て、私は慌ててしゃがみ込むと彼に触れた。


「大丈夫ですか?」

「……ねぇ、君ってお姉さんいる?」

「え?」

 何の脈絡もない質問に対して、私は戸惑う。

 姉はいないはず。突然、どうしたんだろう?


「急に頭の中に女性の姿が浮かんだんだ。君と同じように綺麗な水色の髪と青い瞳で……竜達も懐いていた。いつもは明るく振る舞っていたんだけど、夜になると一人で隠れて泣いていたから胸が痛かった」

「え」

「僕はそんな彼女を守りたいって。なんだろう? この映像と感情は……」

 記憶を持っているのは私だけって思っていた。

 でも、他の人が記憶を持っている可能性だってある。


 完全に記憶はなくても断片的にとか。

 レオ様はもしかして断片的な記憶を持っているのでは? と、私の中で疑問に思った。


「思い出したんですか……?」

「思い出す? 君、何か知っているの?」

 レオ様の問いに対して、私は困惑していた。


 ここでレオ様に事情を話して協力して貰った方がいいのだろうか。

 彼が信頼できるのは、ループ前に交流があったから知っているし。


 私はレオ様に事情を話すことにして口を開こうとした時だった。

 クシュンとくしゃみをしてしまったのは。


「あっ、ごめん。気づかなくて。今日、ちょっと寒いよね。これ、着て」

 レオ様は自分の上着を脱ぐと私に羽織らせてくれたので、私は慌てて首を横に振る。


「私は大丈夫です。レオ様が風邪をひいてしまいますので! それに、レオ様はいま体調がよくないですし」

「僕は平気。頭痛もやわらいだし」

「ですが……」

「本当に平気だよ。神域の外側に護衛棟があるから、そこで何か温かい飲み物でも取ってくる。ちょっと待っていてね。みんな、彼女のことを頼むよ」

 レオ様が竜達に言えば、竜達が首を縦に動かす。

 立ち去っていくレオ様の後ろ姿を見つめていると、誰かに背中を押されたので振り返った。

 すると、竜達がバサバサと片翼を広げて生命の木を指している。


 ――なんだろう? 行けってことかな。


 私は生命の木の下に向った。


 神気の発生源だけあってとても心地よい。

 少し休もうかな。ここなら、回復スピード早まりそうだし。


 私は木の幹に背を預けると、ゆっくり瞼を伏せる。

 まるで温かいお風呂に入っているみたい。全身の力が抜けていくわ。


 あまりの気持よさに私は夢の世界に連れて行かれてしまった。



 +

 +

 +



「――……ん」

 夢の世界から現実世界に戻ってきたため、私は瞼を開けた。

 どれくらい寝ちゃったのかな?

 あまり時間は経っていないように思うけど。


「レオ様。すみません、眠ってしまいま――あれ?」

 目をこすりながら起き上がれば、神殿にある自分の部屋だった。


 さっきまで生命の木の下で寝ていたはず。

 もしかして、夢だったのだろうか。

 でも、夢にしてはリアルな気がするし。


 なんだったんだろう? と首を傾げれば、視界の端に違和感を覚える。

 窓際に見覚えのない簡易机があり、そこでお兄様が書類にペンを走らせていた。

 もしかして、ここでお仕事をしていたのだろうか。


「お兄様」

「起きたのか。体調はどうだ?」

 お兄様はゆっくりとこちらに顔を向けながら言う。


「全快しています」

 一週間は寝込まなきゃいけないと思っていたけど、まさかこんなに早く回復するなんて。


 もしかして、あの夢のせい?

 幽体離脱して神域に行き、生命の木で神力回復……


 えっ、もしそうならちょっと怖い。

 だって、幽体離脱して戻れなくなっていた可能性もあったから。


「時間がかかると思ったが、回復早くて良かった」

 お兄様はベッドの端に座ると腕を伸ばして私を抱きしめる。

 大きなお兄様の体にすっぽりと包まれて温かい。


「お兄様、もしかしてずっとここに?」

「あぁ。お前が心配だったから。今度から無理するな。俺にはお前しかいないんだから」

「はい、気をつけます」

 私はぎゅっとお兄様の背に手を伸ばした。


 お兄様にレオ様のことを言った方がいいのかな?

 レオ様や竜と出会って、生命の木で回復したって。


 んー、でもお兄様に言っても夢って思われそう。

 ループ前の記憶ではお兄様とレオ様って出会わないし。

 やっぱり、レオ様のことは黙っていよう!


 この時の私は知らなかった。

 数年後。お兄様とレオ様が出会いバチバチと火花を散らすことになるのを――





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