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元々優しかったけど、こんなに甘々ではなかったですよねっ!?

「お兄様っ!」

 私が強く叫べば、お兄様が弾かれたようにこちらを見た。

 澄み渡る青空のような青い瞳が私を捉えれば、「ルナ」と感極まった声をあげる。

 お兄様はすぐさま警備兵の胸ぐらから手を離すとこちらに向って足を踏み出す。


 包み込むような低い声音。

 懐かしいなぁ……お兄様の声だわ。


 視界がだんだんと滲んでいく中で、私は楽しかった日々を思い返す。

 お母様とお兄様と私で過ごしあの時のことを。


「お兄様」

 私もお兄様のもとへ駆け寄り距離を縮めようとした瞬間。

 頭を殴られたかのように強い痛みを感じ、ぐらりと体のバランスを崩してしまった。

 近づいていく床と自分の距離が怖くなり、咄嗟に瞼を閉じて床への衝撃に備えたけど、なぜか私の体に痛みは走らなかった。


 えっ、これって?

 一応、衝撃は感じた。

 感じたんだけど硬い床の感触じゃなくてふかふかの毛布にダイブしたかのような柔らかさ。


「あ、あれ?」

 ゆっくりと伏せていた瞼を開ければ、「わふっ」という鳴き声が聞こえた。

 視線を声のした方に向ければ、つぶらな瞳とかち合う。

 黒いつぶらな瞳がじっと私を見つめていてかわいい!


「狼だわ」

 つやつやの毛並みを持つ狼が私の体を支えてくれている。


 これって……闇魔法?

 狼からは微量の闇魔力が流れてきているので、魔力を具現化したものだと思う。


 お兄様の魔法よね。

 へー。こんな風に魔力を具現化して操ることができるのかぁ。


「ありがとう」

 私は手を伸ばしてもふもふの体を撫でれば、狼が気持ちよさそうに目を細める。


 あっ、顔をすり寄せてきた。かわいいなぁ。

 神殿内で猫などの動物は見かけないから、久しぶりのもふもふタイムだわ!

 癒やされるー。

 城にいた時は、庭園に来ていた猫を撫でさせて貰っていたから神殿ではもふもふ不足だったもん。


「聖女様。ご無事ですか?」

 フレッド様が不安げに瞳を揺らしながら聞いてきたので、私は大きく頷く。

 それを見てフレッド様が安堵の息を漏らすと、お兄様の背を軽く小突いた。


「おい、ジル。頼むから暴走するなって言っただろ。どうするんだよ、聖女様の警備兵全員倒しちまったじゃないか。大神官様の許可取るから待てって言ったのに。うちが神殿に多大な寄付金やっているのは知っているだろ? 融通利くんだよ」

「許可なんて必要ない。そもそもルナがこんな目にあったのは誰のせいだ? 何が神殿で幸せに暮らしているだ。神力不足で倒れたじゃないか! こき使いやがって。結界くらい自分達で直せ」

 お兄様はそう吐き捨てるように言うと、私を抱き上げぎゅっと抱きしめた。


「こんなに可愛いルナに何かあったらどう落とし前つけるんだ? ルナはこの世界で一番尊くて愛らしいんだぞ」

 えっ!? と、私はお兄様の台詞に戸惑う。


 お兄様、どうなさったんですか!?

 お兄様は元々優しかったけど、こんなに甘々ではなかったですよねっ!?

 世界で一番尊いって!


 視線を彷徨わせて困惑していると、フレッド様が口を開いた。


「ごめんな、聖女様。ジルのやつ、聖女様に数年ぶりに会えたからリミッター外れたみたい。会いたくても会えなかったから」

「私、お兄様に嫌われていると思っていました。祭事にも来て下さらなかったから……」

「嫌うわけがないだろ。母上が亡くなった時、母上の代わりにお前のことを守ると誓ったんだ。ずっと会いたかった」

「私もお会いしたかったです」

 私はそう言うとお兄様の首元にしがみつき、ぐりぐりと子猫が甘えるような仕草をすればお兄様が喉で笑う。


「くすぐったい、ルナ」

 お兄様はそう言いながら喉で笑うと、私のことをきつく抱きしめる。


「お兄様、フレッド様。どうしてこちらに?」

「マーガレットに聞いたんだ。手紙は今日ないって言われたから理由を尋ねれば、ルナが神力を使いすぎて寝込んでいるって。具合はどうだ?」

「体が重いです。あと頭痛も。神力が回復すれば治るはずです」

「代わってやれればいいんだが……」

 お兄様がため息を吐き出した時だった。

 バタバタと複数人の足音が聞こえてきたのは。


「あっ」と、声を上げた時には彼らの姿が見えていた。

 騒ぎを聞きつけた大神官様達だ。


「どういうことですか、陛下っ!? いくら兄とはいえ、聖女様との謁見は許されておりません」

 大神官様は目をくわっと大きく見開きながら、身振り手振りでお兄様に抗議した。

 けれども、お兄様はまったく我関せず。


 えっと……お兄様。大神官様、大激怒中ですよ?


 心の中でつっこむけれども、お兄様は大神官様の話なんて聞こえませんとばかりに私の頭を撫でている。


「聞いておりますか、陛下!」

「大声だすな。誰のせいでルナが体調を崩していると思っているんだ?」

 お兄様が目を細めながら、大神官様達を見た。

 剣先のようにするどいお兄様の瞳に射貫かれ、大神官様達は青ざめながら後ずさりしてしまう。


 お兄様、目力強すぎますってば!


「け、結界修復は聖女様の仕事です」

 震えた声で神官の一人が言えば、お兄様が鼻で笑った。


「何が聖女の仕事だ。面倒だからルナにやらせたんだろ? 結界修復には数十人の上位神官がいるからな。しかも、時間がかかる。聖女のルナなら一人で短時間だ。聖女がいない間は、お前らでやっていたじゃないか」

「えっ!?」

 初耳だったため、私は声を上げてしまう。


 ループ前も今も結界修復は聖女の仕事と言われていたからびっくり。

 私、このあとも神力遣いすぎて数回倒れているはず。

 本来なら、無理して体調悪くすることもなかったの?


「ルナ、知らなかったのか?」

「はい」

「都合の悪いことはだんまりか。何が神殿で幸せに暮らしているから構うなだ。ルナの害にしかならないなら、こんな神殿壊してやる」

 お兄様はそう言うと、私を抱き上げているのとは反対の手に魔力を集め出す。

 黒い光の粒子がお兄様の右手に凝縮され、バチバチという火花の音を奏で出した。


 もしかして、その魔力の塊を建物内に放つおつもりで?

 本気で壊すつもりじゃないですか!


 神官達にもお兄様の本気度が伝わり、「ひっ」と短い悲鳴を上げながら逃げ惑っている。


「お、お兄様っ!?」

 確かにお兄様なら壊せると思う。いとも簡単に。

 でも、さすがにそれやっちゃったら、大聖堂にいる教皇様とベリエ教を信仰している国々が黙っていない。

 聖女が暮らしている神殿を壊しちゃうんだから。


 な、なんとかお兄様の気を逸らさなきゃ……!


「お、お兄様。私、気分が悪いので早くベッドで休みたいです。一刻も早く!」

 早口でまくし立てるようにお兄様に言えば、お兄様の魔力が消えた。


 よかった。なんとかなりそう。


 私はまだ神殿にいる者達を助けられるためにお兄様と対峙できるほどの神力はない。それにコントロールできないし。


 だから、いまはお兄様を止めるのは無理っ!


「そうだな。いまはお前の体調の方が大事だ」

 お兄様はそう言うと、神官達に背を向けて私の部屋へと向う。


 助かったと安堵の息を漏らせば、フレッド様や神官達も胸をなで下ろしているのに気づく。

 気持ちわかる。お兄様、神殿壊す気満々だったし。


 私のせいで神殿崩壊され、怪我人が出てしまったと考えるといたたまれない。

 というか、お兄様の愛が重くなっているような……?


 そんなことを考えている間に私はお兄様にベッドまで運ばれていた。


「熱は?」

「たぶんないと思います」

 お兄様は手を伸ばして私の額に触れる。

 手の平がひんやりとして冷たくて気持ちいいので、私は目を閉じた。


「少し休んだ方がいい。寝るまで傍にいるから」

 お兄様が私の頭を撫でてくれたんだけど、それが心地よくて私は眠ってしまった。







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