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父親失格なこの男は、皇帝としても失格だ。(ルナの兄・ジルタクス視点)

(ルナの兄・ジルタクス視点)



「――皇帝としての執務を行なわないなら、さっさと皇帝の座を退け。この国の状況がわかっているのか?」

 そう目の前にいる男に向って言えば、そいつは鼻で笑った。


 世界中の贅を集めて凝縮させたような絢爛豪華な屋敷の主であるその男は、俺の父親であり、この国の皇帝・ベラノだ。


 父親と言っても、俺にとっては他人でしかない。


「お前なんて生まれて来なければ良かった」

 物心ついた頃に何度もこの男に言われた言葉だ。

 待望の跡継ぎとして生まれた子供が闇魔法を属性に持つ忌み子。

 それゆえ、この男は俺を息子と認めていない。


 父親失格なこの男は、皇帝としても失格だ。

 数年前より執務をまったく行なっておらず、城を離れて離宮ここで悠々自適に暮らしている。

 しかも、自分の金で暮らせばいいのに、不足しているからと国庫にまで手を出している最悪な男だ。


 ベラノの膝の上には六歳くらいの男の子がおり、彼はおもちゃを持ったままきょとんとこっちを見ていた。

 そして、傍には上質な生地で仕立てたドレスを纏った妖艶な女の姿がある。


 ベラノが『女に現を抜かし堕落した皇帝』と呼ばれる由縁となっている二人だ。


 女の名はエリセ。

 男の子はニヒル。エリセの息子だ。

 ニヒルの父親は、もう亡くなっていると聞いている。


 この二人は、六年前にベラノが視察先から連れて来た。

 得体の知れない女とその子供。

 ベラノはこの二人とずっと離宮で暮らしている。


 執務を放棄して――



 しかも、最悪なことに母上が病死した時にエリセを王妃にすると宣言。

 さらに、ニヒルに王位継承権を与えると。


 唐突なベラノの宣言にはさすがに重鎮達が大反対した上に、母上の祖国が激怒し戦争一歩手前となった。

 当然の結果だろう。その話は無しになった。


 本人達は毎日楽しく家族で暮らしていると思っているかもしれないが、俺に言わせれば家族ごっこだ。


 皇帝の責務を放棄した無責任男が父親?

 笑える。


 空白になった皇帝の座。その穴を埋めたのは、王妃である母上だ。

 母上は過労のすえ、病に冒されて亡くなったというのに、この男は葬儀にも参列していない。


「なぜお前に指図されねばならぬ。私が皇帝の座を退くときは、ニヒルが皇帝になる時だ。なぁ、ニヒル」

 ベラノはそう言うとニヒルの頭を撫でた。


「お父様、僕は皇帝になるの?」

「あぁ、お前以外に私の跡継ぎはいない」

「ほんとう!? おもちゃいっぱい買える?」

「あぁ」

 穏やかに笑っているベリルと満面の笑みのニヒル。

 そしてそれを優しく見つめるエリセ。


 こいつらは民が霞でも食って生きていると思っているのだろうか?

 ままごとで政治は成り立たない。

 こんな奴らのせいで国が滅びそうになったのは、一度や二度だけじゃない。


 一応、皇帝は病気療養という形を取っているが他国にはバレてしまっている。

 そのため、幾度も戦を仕掛けられた。

 後始末をしているのは誰だと思っているのだろうか。


 正直、国なんてどうでもいい。

 民もどうでもいい。


 俺の待遇は生まれた時から決まっていた。

 闇魔法使いとして偏見の目で見られ、人々に畏怖される存在。

 物心ついた頃から周りから嫌悪感丸出しの言葉を投げかけられた。


 そのため、民や国に対して愛着はない。


 それでも、皇帝代理としてこの国を守っているのは、八つ下の妹・ルナのためだ。

 母上とルナだけが俺をありのままで認めてくれていた。

 俺にとって大切な存在。


 ルナは神託により聖女として選ばれ、俺達から引き離され神殿で暮らしている。


 王都が戦場となったら、ルナにも被害が及んでしまう。

 ルナを守るために国を守る。

 その思いが俺をつき動かしていた。


「その子が皇帝になるのは不可能だ。血縁関係がない。この国は血筋を重く見る。皇帝不在ではまた戦が起ってしまう」

 面倒なことに、この国では現皇帝が現役のうちは次の皇帝を指名しなければ皇帝の座に就けない。

 現皇帝が死亡の時は議会の採決で皇帝の座に就けるのだが。


 いっそのこと、殺してやりたいが出来ない。

 なぜなら――


 俺は剣を抜くと斬りかかった。

 だが、鏡のように輝く剣は、ベラノの頭上十数センチで止まっている。

 これ以上はどんなに力を入れても微動もしない。

 まるで見えない壁に遮られているかのように。


 皇帝は戴冠式で教皇から神の加護を授けられる。

 そのため、ある程度の攻撃は回避されてしまう。

 だから、この男はある意味無敵だ。


 ――しかし、気味が悪い。いくら加護持ちとはいえ、切りつけられても動揺が見られない。それはこの女と子供にも言えることだが。


 俺はベラノとエリセを交互に見た。

 ついさっき剣を向けられたというのに、まったく気にする素振りを見せていない。


「神はなんでお前に加護を授けたんだろうな」

 俺がそう言えば、ベラノは口角を上げる。


「私が皇帝にふさわしいからだ。私が皇帝である限りこの子が大人になり、その時に皇帝の座を譲る」

「議会でその台詞言えるか? 皆が反対するぞ」

「議会なんてどうでもいい。私が決める」

 その台詞を聞き、俺は怒りを通り越して呆れる。


 もう話しても意味がない。

 俺は立ち上がって扉の方に向かった。




 

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