過去
彼女を見送った後、僕は少し心苦しい気持ちになった。
僕は彼女に2つの嘘をついた
1つは買い物に行くということ
もう1つは僕の体のことだ。
僕が入院する日のことだ。家でお気に入りの本を読み終えリビングに向かっていた時のこと。僕の部屋は二階にあるためリビングに行くには階段を使わなければならない
階段に足を踏み入れる際、少しふらついた気がしたのだが当時の僕は本の読みすぎで目が疲れているのだと気にせず階段を下りて行った
その考えが甘かった。再びめまいに襲われ、階段を踏み外し階段から転倒したのだ。
階段から落ちた時に頭を強打したらしく気を失っていた
目が覚めたのは約半日後。
目を開けると真っ白な天井が広がっていた。
自分でいうのもなんだが僕は頭が回るほうだ。すぐに自分が寝ているのは病院のベッドの上だと分かった。
それから5分ほどしてから僕の病室のドアが開いた。
ゆっくりとした足取りで僕の前に現れたのは僕の母だった。
幼いころに父親を亡くした僕は母と二人暮らしをしている。
母の顔を見たとき僕は少し驚いた。母の目が赤く腫れていたのだ。
僕に気づかれないように拭ってきてくれたのだろう。母はそういう人だ。
母親の涙の理由は大体察しているが正確にはわからない。
「僕、何の病気だって?」
少し牽制してみた。
突然の質問に母は一瞬驚いた表情をしていたがすぐにその表情を隠し、何事もなっかたかのように笑顔で答えてきた
「病気?風馬は病気なんかじゃないわよ」
僕は母のこの返答を大体予想していた。
母も僕の勘付きの良さはわかっているはずだ。わかっていてあえて隠しているのだろう。
ここは母の心遣いに感謝してそれ以上触れないことにした。
結局僕は入院することになった。母からは検査入院と聞いているがおそらく優しさから付いた嘘だろう。
僕を担当する看護師さんに僕の病気について聞いてみた。
どうやって情報を引き出すか考えていたのだがその必要はなかったらしい。
看護師さんはあっさりと話してくれた。
しかし、聞いた話は思っていたよりも残酷だった。
僕の体はもう長く持たないかもしれないと。
しかも病名も対処法もない未知の病。
階段から落ちる前に起きためまいから医者は脳の病気だというところまでは発覚したがそれ以上のことは何もわからない。
普通ならなぜ長くないとわかるのか疑問に思うだろう
しかし僕にはそれだけの情報で十分だった。
僕の父は病気でなくなったと母から聞いていた。病名はわからない。
わかっていることは僕と同じ脳に何らかの異常が発生していたということだった。
父は病気がわかって1週間でこの世を去った。
親の病気が遺伝子で子供に影響することは珍しいことではないだろう。
僕は自分でも驚くほど冷静でいた。まるで自分を客観的にみているかのような感覚だった。
病気がわかって僕は1つ決めたことがある。病気のことを自分の心の中に閉じ込める。
要するに誰にも知らせないということだ。もちろん葵さんにも。
彼女に嘘をついたのがこの理由からだ。
僕は買い物には行かず病院に向かった
毎日病院に通うことを条件に学校に行かせてもらうことになっているからだ。
僕は病院に向かいながら久しぶりに頭を回して今後のことを考えていた
第5話ご覧いただきありがとうございました
引き続きよろしくお願いいたします。