表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

反射鏡って、重複表現だよなぁ

 スマートフォンだけを持ち、家を出る。

 雲がほぼないことが判る程度には空は明るいが、まだ、人の目覚める時間には早い。

 こんな時刻に起きているのは、昨夜から寝ていないものか、眠る必要のないものだろう。

 起きている必要のないものをたたき起こすような事象は、起きていないようで、まぁ、平和だ。

 今のところ。

 眠る必要のないもの一つである自動販売機で、たばこを購入する。年齢確認も、対価の引き落としも、スマートフォンで済む。

 そろそろ、自動販売機も私が購入する銘柄を覚えてくれて、スマーフォンを翳すだけでいつもの煙草を差し出してくれるようになっても、不思議ではない。

 煙草の消費量から、癌検診の案内まで送ってくれるようになるかも知れないし、さらに言えば、葬儀社の予約までしてくれるようになるかも知れない。

 まぁ、それは、ビッグデータの無駄遣いだが。

 私ら仲間内でとある名前で呼ばれている十字路に差し掛かると、反射鏡が目に入った。

 致命的ではないが、うっすらと、曇っている。

 足元には、枯れた花びらが揺蕩っているだけだ。

 朝の風が吹けば、曇りも取れるだろうし、花びらもどこかへ運ばれてゆくだろう。

 家を出てから1時間ほどの時間をかけて、いつもの巡回コースで、いくつかの事象を観察し、いつもの場所へ。

 そろそろ、一般のものも目覚める時刻だ。

 その寺の門では、腕組みをした『少女』が待っていた。軽く不機嫌のオーラが見える。

「遅い」

 いくつかの返答候補が浮かんだ。

「いつもの時刻だが?」

「そんなに私に会えるのが待ち遠しかったのかい、子猫ちゃん」

「お待たせ致しました。お待たせし過ぎたのかも知れません」

 などである。

 が、私は、先に煙草を差し出して、こう応じた。

「何かありましたか?」

 煙草の箱を受け取り胸に抱いた『少女』は、まるで、自分の胸に語り掛けるように。

「何もないと、思う」と、呟いた。

「ただ、どうにも、少しだけイラついている自覚はある」

 煙草を1本取り出した『少女』はオイルライターで火をつけると、深々と吸い込んだ。

「セブンスターは火薬のニオイしかせぬのぉ。まぁ、それが良いのだが」

 と呟いたような気がするが、聞き逃しても、害はなさそうだ。

「そちらは、なにか、あったか?」

「鏡が、曇っていました」

「まさか、加護の辻の?」

「はい。風が吹いていないせいかとも思いましたが、花びらを拾って参りました」

「枯れていたのか?」

「醜く」

「ちょうどよい。今朝の野菜は、いつもより多めに採れたでな、婆様にも、持ってゆけ。この夏、最後かも知れぬが西瓜もあるぞ」

「承知」

 私は、レジパックに入った、重みのある野菜を受け取った。

「そちらに入れて、お手伝いできれば良いのですが」

「収穫の鎌は足りておるし、一応は、ここは、尼寺ということになっておるしな」

 ふと黙った『少女』は、ぽつりと言った。

「カジは足りているということじゃ」

 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ