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9 小さな依頼者

 うーん……客が来ない……


 想像してなかったわけじゃないけど……いや想像以上だったかもしれない……


 冷やかしで様子を見にくる人ははじめはいたけどそれすらなくなった。宣伝が足りないのかな……


 このままずっとこんな状況が続くとしたらあっという間に金は尽きてしまう……

 腹減ったなぁ……まだ金は尽きてないけど今後を考えてると贅沢できない……


「フフフ〜♪ ラ〜ラ〜♪」


 ラピスはずっとご機嫌だ。オメガアイからもらった花がよっぽど嬉しかったみたいで、花瓶に挿した花を眺めながらずっと鼻歌を歌っている。


「なぁラピス、神様は食事は取らなくて平気なのか?」


「そうですねぇ、カッコつけて食事を口にする神様もいますけど、味もわからないですし食べなくても大丈夫です」


「いいなぁ、じゃあ餓死したりすることはないのか」


「そんな神は見たことがないですね……神にとって一番重要なのは人の心の中にいることなので、私にとってはサレムさんに忘れられることは死ぬことと同じなんです」


「そっか……じゃあラピスはずっと生きていられるな」


 出逢いから話すようになるまで10年もあったけど、あんな衝撃的なこと忘れられるわけないもんな……

 あれ、ラピスの顔が赤くなってる……


「本当にずっと私のこと覚えていてくれますか?」


 え……っ目を潤ませてる? なんかすごく嬉しそうだ……泣くほど嬉しいことだったのか。


「忘れるわけないだろ、そ、そんな顔するなよ!」


 びっくりした……神様とはいえ女の涙って苦手だ……

 それくらい神様にとって忘れられるってことは重要な問題なんだな……


 でもよく考えたらそれは俺も同じか。変なあだ名をつけられてちょっと有名になってしまったせいで当たり前だと思っていたけど、忘れられるって言うのはいなくなったのと同じだもんな……

 神様と違って俺には忘れられないためにやれることはある。ここでのんびりして仕事がないなんて言ってないで、周りに覚えてもらえるようにすれば仕事ももらえるかもしれないんだ。


 トントントン


 あっ、誰かがドアをノックしてる、グッドタイミング! お客さんを待っていたんだ!


「はーい!」


 はりきってドアを開けると、5、6歳くらいの小さい女の子が立っていた。


「まぁ可愛らしい子ですね!」


 嬉しそうなラピスとは反対に俺の気持ちはげんなりだった……

 思ってたお客さんじゃないなぁ……


「あのね、うちのパパとママが……」


 女の子はすごく深刻な表情をしている。これはまさか両親がさらわれたとか大きな事件なんじゃ……!?


「話を聞こうか!」


 金の香り! 今俺に必要なのは金だ!



 クライアントが何歳であろうと客は客だ、聴くべきことはちゃんと聴く。これは大事な仕事なんだ!

 女の子に事務室のソファに座ってもらい俺は自分用の大机に腰掛けた。


「さぁ教えてくれ、いったい何があったんだい?」


 気分はベテラン交渉人だ。どんな依頼も確実に解決に結びつけてやる!


「パパとママがいつも私の事怒ってくるの……」


「え……」


 なんか思ってたのと違うぞ……


「最近はケンカばっかりしてるし、どうしたらいいのかわからなくて……」


 夫婦喧嘩かぁ……そんなもん犬も食わないって言うだろ……

 それに巻き込まれちゃってこの子はかわいそうだけど、いくら俺でも家庭の事情にまで首は突っ込めないぞ……


 さてどうするか……これは金にもならなそうな仕事だ。これは安請け合いするのも辛いよな……


「サレムさん、この子かわいそうですね……なんとかしてあげられないですか?」


 げ……ラピスが親身になってる……

 まあこういうのを聴いてやるのが神様の役目ってやつなのか……でもなぁ。


「そうは言ってもそれぞれの家庭の事情ってのがあるもんだからなぁ……ラピ……」


「しー!」


 ラピスが口の前に人差し指を添えて俺が話すのを遮った。

 そうか、ラピスの声はこの子には聞こえないから返事をすると変な感じになってしまうんだった……


 俺にはごく普通にラピスの声が聞こえるのに変な感じだ。


「どうしたの?」


 まずい、女の子に変な目で見られてる。

 ここはちょっと合わせてやらないとギクシャクしてしまう……


「ねえサレムさん、せめてどんな家庭なのか確認だけでもしてあげましょうよ!」


 まぁいいか、どうせただ働きになるだろうけど聴いてやろう。


「最近パパとママに変わったことはあった?」


「ううん、何もないよ。でも最近パパは急に何日もいなくなったり、ずっと家にいるようになったりちょっと前とは変わったのかも」


「へぇ、それは気になるな。じゃあそれを調べてみるか」

 

「ほんと! ありがとう!」


「じゃあ契約だ。本当なら銀貨一枚をもらいたいところだが、特別に銅貨一枚で手を打とう」


 子供とはいえ仕事は仕事だ、まけてはやるもののタダってわけにはいかない。これだけは譲れないぞ。


「うん、じゃあパパとママがケンカしてる理由がわかって教えてくれたら払うね!」


「よし、それでは契約成立だ。君の名前を教えてもらえるかい?」


「うん、私はノーナ・サホローだよ」

 サホロー……? ひょっとして……


「じゃあよろしくお願いします」


 ノーナは契約を終えウキウキしながら事務室を出て行った。


 あーあ……契約することになっちゃったよ……

 仕方ないけどな……


 それよりも気になるのはあの子のファミリーネームだ。


「どうしたんですか? 難しい顔してサレムさんらしくないですよ」


「ちょっと気になってさ……」


「何かあったんですか?」


「ああ、あの子の父親は少し前に青騎士団を追放された人だ……」

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