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8 抜け落ちた歯車

騎士団視点の話です。

「なぜこんな簡単な報告もできない!」


 城内のそこら中で騎士の怒号が響き渡っている。


 サレムが追放されてからの騎士団は荒れていた。


「すいません、あの……報告の仕方が……分からなくて……」


「今までやってきたことだろうが!? いつもと変わらない普通の報告がなぜ急にできなくなる!」


「いや、あの……それは……」


 白騎士団が定期的に実施している報告ものを全てサレムに任せていたため、他にやれる者がいなかった。


 ーーこんなことスマイルにやらせておけばいいんだーー


 誰が言い出したのかは今となっては調べようもないが、皆がそれを合言葉のように告げサレムに押し付けてきた。

 当のサレムも言われたら断らずに全て受けていたため、10年の年月と共にできるものは彼のみとなってしまっていた。


 このようなことが各所で起きてはいたが、誰も「サレムに任せていたためわかりません」と言えるものはいなかった。虫けらのようにバカにしていたサレムよりも劣っていると思われることを受け入れられるものがいなかったのだ。


 問題が起きていたのは白騎士団だけではなかった。

 騎士団を超えてサレムはいいように使われていた。


「おい! これは俺の鎧じゃないぞ!」

「誰だ! 俺の装備を持って行った奴は!」


 外での任務を行う赤騎士団や黒騎士団の部隊の出発前にも、今までにない混乱が生じていた。


 これらの準備も一部サレムが受け持たされていたため、急にいなくなったサレムの分に手が回らなくなってしまっていた。


 このような形で騎士団全体でちょっとした面倒ごとはサレムにやらせておけばいい、どうせやつはなにもできないんだという空気ができてしまい、サレムの後輩ですら横暴な振る舞いを行い、雑用や面倒ごとは押し付けるような雰囲気となっていた。

 騎士達の中にはおごりがあったのだろう、無能なスマイルは騎士にしがみついているため、なにをやらせても文句を言わないと。

 事実、サレムは無茶ぶりと言われるようなことを押し付けられても文句をいうことはなかった。実力主義の騎士の世界において無能であることはそれだけ致命的だった。頼まれたことはどんなことでもやり遂げる、それが戦力としての力を示せないサレムに取っての唯一存在をアピールできるところになっていた。

 小器用な彼は言われたことはスムーズにこなせていた。

 初めのうちは感謝されていたこともあったはずだが、年月の経過と共に感謝は風化していき『やらせてやってあげている』という気持ちが蔓延し始めていた。

 器用に雑用をこなす姿はそれだけ簡単に見えていたのだろう。


 さらに戦闘を行うことの多い赤騎士団、黒騎士団に取って深刻な事態が起きていた。


 ラピスのバフ効果はわずかではあるが騎士団全体に及んでいた。

 姿を現す前で効果は本当に微小だったが、部隊での活動にはその差は想像以上に大きく表れてしまっていた。


 これまでにギリギリで達成できていた討伐が任務がことごとく失敗してしまう。

 達成できた任務にしても今までであればあり得ないような消耗が生じていた。


 任務開始前の準備の不手際も合わさり雰囲気は最悪だった。



 サレムがいなくなったことによる細々とした問題は小さいようで大きく影響を与えてはいたが、その中でも最も大きな影響を与えていたのは各騎士団の伝達関係だった。


 各騎士団はそれぞれが別の役割を持ち任務を行なっているため、各騎士団ごとに他の騎士団の担当に踏み込んで作業を行うことはない。


 だが任務中に他の騎士団の担当任務に関する情報を入手した場合は速やかに伝達することが習わしになってたはずだったが、根本的に騎士団が変われば関わりもなく縁もない者達となるため、それぞれの仲は良くはない。

 他の騎士団に関する情報など受けた側としては不要な情報ではあるが、あまりにも任務が干渉しないため情報によっては他の騎士団には有益かどうかの判断すらつかないことも多かった。


 そこで当然のように使われるのがサレムだった。

 不名誉なことだとしてもサレムの顔は広く、頼みやすい彼は騎士団ごとへの伝達を依頼するのに打ってつけだった。

 もはや伝達をできるのはサレムだけだったと言っても過言でないほど依存していたため、各騎士団間の情報伝達は完全に滞ってしまった。


 騎士団の誰もが思っていたはずだった、「こんな誰でもやれるようなことスマイルにやらせておけばいい」と……


 しかしサレムが追放され簡単だと思っていたことも何をやれば簡単に済むかがわかるものがいなくなってしまったため、混乱の渦が巻き起こってしまった。


 「スマイルさえいれば」次第にそう心の隅で思うものが出てきてはいたが、口に出せるものはいなかった。


 それだけ多くのものがバカにしながらもサレムに依存してしまっていた。


 騎士団という大きな組織の中から抜け落ちた小さいと思われていた歯車は、なくなることではじめて重要な部分だったとわかるものであった。

 それに気づかない騎士達はストレスを抱え、徐々に他の騎士に不満を持つようになっていった。

 

 表立ってはないが、騎士団が崩壊を始めていた。

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