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73 神と邪神の子

「あたしのことを知ったようなこと言ったって、何も今に変わりはないじゃない、その気になればアンタ達なんて一瞬で殺すことだってできるんだから!」


 ラピスからの指摘は思った以上に効果があったみたいだ。

 ふざけていたしゃべりからが薄まり、ハッキリとしたら口調に変わっている。


 本当に悪く思われることで強く記憶に残るように演じてたのかも……


 誰だって死ぬのは怖い、神様が人から忘れられることへの恐怖って言うのは人間の想像を超えているのかもしれない。




「だから、人に忘れられないために自分から人間界に降りて来た……」



 ついボソッと口走った言葉にセレスは今までにないキツい表情で睨みつけてきた。


「そういうのやめてって言ったばかりでしょ!」


 セレスの頭上に黒いエネルギーの塊が現れた。



「暗黒空間! 邪神のみが使える能力のはずなのに……」


 邪神? ラピスの驚きからみるにこの黒い球体は本当はセレスは使っちゃいけないものみたいだ。


「元々あたしは神と邪神の間に産まれた特別な存在なの……」


 なんだそりゃ……?


「ラピス、それってすごいことなのか?」


 天界の色恋沙汰なんて知らんぞ……

 というかそんなドロドロしたことしてないでもっと神々しくあってくれよ……


「私も聞いたことありません……邪神と神では役割が正反対ですし、セレスさんも苦労してるはずです」


「正反対の役割?」


「はい、邪神の役目は生き物のバランスを取るためには必要に応じて天才や疫病、時には自らの手で人間に手をかけたりすることです」


「死神って言われる奴か」


「それも邪神の一種です、邪神は命を奪うことで生命力を得ることができるのですが……」


「セレスはどっちを?」


 人に忘れられないことで生きる神と人の命を奪うことで生きている邪神。

 命を奪ったら忘れられてしまうよな……


「おそらくですけど、どちらもこなさなくてはいけないのでは……」


「それ、難しすぎないか……?」


「別に私が直接手を下す必要ないから……」


 そうか、今の騎士同士の殺し合い。

 これはセレスにとっての『命を奪う』に該当する行為。


 今のセレスが生きていくには嫌われて命を奪っていく選択しかなかった……


 暗黒空間ってやつをさっきからチラつかせてるけど、全然それを使ってくる気配はない。


「ほら……アンタしつこいからいい加減にしないとこの空間に飲み込ませちゃうよぉ。言っとくけどこの暗黒空間に閉じ込められたら死ぬこともできずに永遠に何もない暗い部屋に居続けることになるの、耐えられるかなぁウフフ……」


 そんな嫌がらせを言わずにさっさと暗黒空間をぶつけてくればいいのに、やってこない。


 もしかして……



 もしかしてだけど、セレスって……



「自分で人を殺したくないんじゃないか?」


 騎士同士の殺し合いだって狙ってやってる訳ではないんじゃ……



「はぁぁぁぁぁぁ???」



 顔を歪めて露骨に不機嫌な態度になった。

 なんか図星をつかれた人のとるリアクションに見えるんだけど……


「はい、もうダメ! もう許してあげませ〜ん!」


 ギュンと暗黒空間が俺に向かってきた。

 あっ……もしかして逆鱗にふれちゃったか……?


 やばいっ!





バチィィィィッ



 俺に触れる直前に暗黒空間が弾け飛んだ。


 


 弾け飛んだ黒い瘴気の合間から白い輝く霧が立ち込める。



 これはラピスが?



「神と邪神はそれぞれ役割があるので、良い悪いと言えるものではないのですが……」 


 やっぱりそうだ! あの空間を吹き飛ばすなんて、やっぱりすごいぞラピス!


「サレムさんには生きていて欲しいんです!」



 ポウッと俺の体が光に包まれた。

 産まれてはじめて経験する状態だ……


 なんだこれ?


 すごく優しくて、力強くて、勇気の湧いてくる光。



 これもラピスの力なのか?


「フフ……人間に好意を持つなんて神失格ね、本当ならアンタの方がよっぽど追放されるべきだわ」


 好意?


 ラピスが? 俺に……?


 一体なんで……俺なんかのどこが?



 

「もういい! なんかバカバカしくなってきた、2人仲良く暗黒空間に入れてあげる!」



 ギュルルルルルルルルルル……



 さっきの比じゃないくらいでかい暗黒空間を頭上に作り出しわたがしのようにこねくりだす。



 めちゃくちゃでかいぞ……

 

 天井を突き抜け、塔のてっぺんを飲み込むほどでかくなっている。


「これじゃ私の力じゃ浄化できない……」


 ラピスが上空の暗黒空間を眺めて絶望にふける……



 そんな中でラピスが俺の前に立った。



「私ひとりが犠牲になればサレムさんだけは助かるかもしれません……逃げてください」



「逃げる……?」


 何言ってるんだ……ここでラピスを置いていけるもんかよ。



「ダメダメ、2人でかばいあって美しく飲み込まれなさいよぉ、どうせそうなるしかないんだから」



 ズズズズズ……



 暗黒空間が俺達の方に向かってくる。


「早く逃げてください……お願いです!」


「ダメだ! 逃げない、ラピスこそ俺を見捨てて逃げろ!」




「キャー! なんてうつくしいんでしょ〜純愛だわぁ、キラキラしてるわぁ」



 外野がうるさいなぁ……



 もう知るかそんなこと!


「ラピス!」


 暗黒空間が迫ってくる直前だ、時間はもうない。


「は、はい……」


 迫真の表情で話しかけた俺に合わせてラピスも構える。


「一回しか言わないぞ! 俺は、騎士として……いや、騎士とかじゃない。人間と神様って関係だけど……えぇ……っと」

 

 逃げるな俺!



「好きだぁぁぁぁぁぁぁ!!」



 ラピスのほほが真っ赤に……



 そしてラピスも光で覆われてく。





「素敵ね! 愛を伝えあったふたりが永遠の闇の中に向かってくなんて」




「サレムさん……すごく光が……」

 

 あれ……


 ラピスの比じゃないくらい俺の体からさらに光が溢れてきてる……


 なんだこれ……


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