71 大胆な奇襲
『凡人』そう言われたことでオスリーの顔から笑みが消えた。
今だ!
この隙を逃したらもうチャンスは無いかもしれない。
はじめに仕掛けたのはミーニャだった。
ー『水』の加護ー
ミーニャの持つこの加護は数ある中でも抜きに出て特殊だ。
ミーニャ自体と周りの空間に水の性質を持たす力があり、その応用で周辺を凍らせ凝固させたり、逆に気化されることも可能な能力である。
オスリーの腰掛けた椅子に瞬時に鋭い氷柱を作り出し心臓に狙いを定めた。
ーこれで終わりだ!ー
氷柱が伸びオスリーの心臓に触れる直前……
ピキィィィィィ
氷柱は見えない壁に遮られ、オスリーに触れる前に崩れていった。
強度に問題はなかったはず……
ミーニャの氷柱は加護の力で最大限に強化してあるため、鉄の鎧程度であれば簡単に突き刺さる。
今のオスリーは鎧も纏わない黒い布の服。
回避されるならまだしも、氷柱が届かない理由が見つからなかった。
当のオスリーはこの氷柱の一件を気にする素振りもみせずアッシュに話しかけた。
「私が凡人とは……?」
すでに口調も表情も今までと同じ朗らかなオスリーに戻っている。
「オスリー・フ・キルフィ、あなたに神は見えてない」
「フフフ……何を言い出すかと思えば……神は見えたんです、トアテラの式典でちゃんと呼び出せたのですよ」
「それは私にも見えた。あなたは特別じゃない……凡人だ」
「さきほどから凡人凡人と……ではお聞かせいただきましょうか、誰が凡人ではないのです?」
空気が変わった、オスリーがピリついた空気を醸し出す……
チャンスには違いない……ただこの空気に攻め入れずに様子見をしていた。
「サレムです、あなたが無能と言っていた彼です」
オスリーが眉間にシワを寄せる……
ここしかないグレンが大きく息を吸い込む。
炎を纏う派手な攻撃を主とするグレンは暗殺には向かない。
だがもうそんなことは関係ない……
ミーニャの攻撃だって遮断されたということはこちらの作戦なんてバレている。
もう隠す必要なんてない。
ありったけの攻撃を叩き込む!
ブオォッ
今まで以上に強力な火力で体を巻き込む。
避けられない攻撃をすれば終わる。
グレンの思考は単純だった。
「ちょっと! もう少し考えなさいよ!」
作戦も何もない……
ミーニャはグレンのこういう向こう見ずな行動がたまらなく嫌いだった。
「俺の蓄えた炎を全て出し切る!」
地下牢でサレムと別れた後、グレンは炎の補給のため焼却場へ行った。
クーガの誇る巨大焼却施設で周りの静止を振り切り火の中に飛び込み業火を堪能する。
溜め込めるだけ溜め込む。
この戦いに挑む決意は相当なものだった。
国を思う気持ち、それは4人の中で一番低いかもしれない、逆にグレンは一度知り合ったもののことを大切にする。
なるべく綺麗事はいいたくない、目に見える知っているものの範囲で仲間を守る、気心知れた者のためだから力も出せる、その考えでこの場も挑んでいる。
オスリーを倒すことは目に写っていたそういう仲間達を救うことにもつながっていく。
守りたい仲間達のために……
思いを乗せた炎は渦となりオスリーに向かっていく。
迫りくる炎を前にオスリーは腕を手前にかざす。
白い光がオスリーの前に現れ、透明な壁を作る。
無属性の加護、エクスカリバーを守りに使った無敵の盾だった。
盾に遮られ炎はオスリーを避け通り過ぎていく。
グレンの炎が止まらずに出続ける中、炎の横からアッシュが近づいて行く。
「最強の攻撃を守りに使う、最強の盾。お互いぶつかり合ったらどちらが強いのだろうな」
アッシュの『復元』の加護。
それはあらゆるものを復元させる。
今回アッシュが復元したのは、ミーニャの氷柱を避けるときにも使ったであろう、エクスカリバーだった。
炎の圧に押され、オスリーのいる場所は氷柱を防いだ位置。
その位置に移るのをアッシュは狙っていた。
タイミングは完璧だった。
復元されたエクスカリバーがオスリーを捕らえる。
エクスカリバーの光が届く直前、オスリーはその光に向け手を伸ばしてた。
カッ……………………
眩い光が部屋中を覆う。
エクスカリバーがオスリーに触れる寸前、新たなエクスカリバーを放ち相殺していたのだった。
光が収まるころにはグレンの炎も出尽くして止まっていた。
「さぁ、話し合いに戻りましょうか……アッシュさん、サレム・ノヴァが凡人ではない理由を教えてください」
敵意を剥き出しにした攻撃のはずだった……
それなのに全く相手にされていない。
これまでの行動、全てが想定内……
奇襲が効かない。
相手の手強さを改めて実感する4人だった。
しかし、その中でもアッシュはわずかな変化に注目していた。
オスリーの服のところどころが焦げている。
物言わずアッシュはそれを見つめていた。




