7 心優しき巨人
ダンジョンの大部屋に咲き並んだきれいな花。
それを守るように立つ巨大モンスター『オメガアイ』。
前に勢いで倒せたレッサーサイクロプスと同種だけど、あいつよりも数段上位種だ。もう前のように倒すことはできないはず……
オメガアイは巨大なひとつ目で俺を見つめている。
すぐに襲ってくるような雰囲気ではなく、じっとこちらの動きを観察しているように思える。
油断はできない、相手はモンスターなんだ……急にこちらに敵意を向けてこないとも言い切れない。
ラピス……今回はいきなり攻撃したりしないでくれよ。
チラッと顔を覗き込むと、思ったより涼しい顔をしている……あれ、なんか拍子抜けだ。
「このモンスターさん、優しい目をしてますね」
「優しい目?」
モンスターに優しいとか厳しいとかってあるのか……? 考えたことなかった。
「まさか花を見て心がきれいになったとか……?」
「どうなんでしょう……そこまではわからないですけど……」
「あっ、ちょっと!」
ラピスが花に近づいていく。
止めようと追いかけたとき、オメガアイが目を見開いた。
「グオオオオオォ!」
やばい怒ってる……
「ほらラピス、戻ろう!」
俺の静止も構わずにラピスは進んでいく。
臆病なはずなのに、なんか変なところで積極的になるな……
まずい……すごい見られてる……
目だけでも俺の体くらいありそうなモンスターと対面している……
肉食動物に食べられる寸前の草食動物って気分だ……
しばらく目を離さずに沈黙したままの時間が続いた。
観察されているのか?
ずっと見つめられてはいるが、襲ってくるような気配はやっぱりない。
言葉通じるのかな……?
試しに話してみるか。
「あの……ここを荒らしに来たわけじゃないんだ」
こんなので伝わるのか……?
オメガアイは表情を変えずに俺の顔を見つめている。
「グォ」
ん? ぐおって言ったぞ……
それはYESってことでいいのか?
表情が変わらないからこいつの感情が読み取れない……
「サレムさん、行きましょうよ。 どうぞって言ってますよ」
「えっ、そうなの?」
分かるんだ……本当にわかってるのか? ラピスの願望じゃないよな……?
チラチラと横目で警戒しつつ花へ向かっていく。
優しい匂いだ……花から出てるのか、ほのかに甘くてスッキリした香りがする。
近づくに連れてその香りはより清涼感を増していった。
「すごい……こんな花があるんだな……」
「きれいですね、ずっと見てられます」
ラピスにはこの香りがわからないんだ。見た目だけでも充分価値はあるけど、この香り、心が浄化されていくみたいだ。
「ここにいたら争いごとなんて忘れるな、気持ちがまっさらになってく」
花に見惚れていつの間にか目の前まで進んできてた。
部屋一面に花が広がり爽快な見た目だ、こんな気持ちになったのは初めてだ。
「アンタはずっとここを守ってるのか?」
いつの間にか警戒する気持ちを忘れオメガアイに質問をしていた。
「オオオオ……」
優しく唸るようにオメガアイは返事する。
口元が笑ってる……
「フフフ、優しい巨人さんなんですね」
「確かにな」
見た目はデカくて怖いけど、ひとりで花を守ってて俺らが近寄ることも許してくれた。穏やかなモンスターってのもいるんだな。
どれくらいここにいたんだろう。
花を見てるだけで時間を忘れるなんてな……
「さ、そろそろ行くか」
名残惜しいような気もするけど、ずっといるわけにもいかないもんな。
「そうですね……」
ラピスも少し残念そうに返事した。
「グオオゥ」
オメガアイがうなりをあげ、ノソノソと花の前で屈み込んだ。
どうした……? 何をしてるんだ?
「ちょっと待ってと言ってます」
ラピスが言うにはそう言うことらしい。
しばらくしてオメガアイが立ち上がりゆっくりとした足取りで俺に近寄ってきた。
「グオ」
そううなりながら、大きな手を差し向けてきた。
そこには巨大な指に挟まれた一輪の花があった。
俺にくれるってことでいいんだよな……
「大事なものなんだろ? いいのか?」
「グオ……」
どうやら俺のことを気に入ってくれたらしい。
せっかくの好意だ、素直に受け取っておこう。
手だけでも俺の体ほどもある指に挟まれた一輪の花をありがたく受け取った。
間近で見てもすごくきれいで酔ってしまうほどのいい香りだ。
「よかったですねおうちに飾りましょう!」
いいものがもらえてラピスも嬉しそうだ。
「グオ、グオ……」
あれ……まだ何かあるみたいだ。
オメガアイはまた手を伸ばした。
「えっ?」
その先はラピスに向けてだった。
予期せぬプレゼントにラピスは驚いて声を出した。
「私のこと見えて……たんですか……」
急に顔が赤くなり出し、ラピスは俺の背後に隠れた。
最近なんかちょっと積極的だと思ってたけど、見られてないからだったのか。
「グウゥ?」
このリアクションは俺でもわかるぞ。オメガアイも急にラピスが照れ出すから疑問に感じてるんだ。
「大丈夫だよラピス。 せっかく大切な花をくれるって言ってるんだ、貰っておけよ」
「は、はい……でも、まさか見えてるなんて思わなくて……」
確かに契約も交わしてない相手が見えるなんてあるんだな……当の本人が驚いてるんだからよっぽど珍しいんだろう。
ラピスはオドオドしながらオメガアイから花を受け取った。
「また来てもいいか?」
「グオ」
オメガアイが笑った。
いい場所を知った。
ここにくれば嫌なことがあったときとかにリフレッシュできそうだ。
気の良さそうなモンスターとも知り合いになれた。
「フフ、フフフ……」
ラピスもいつになく上機嫌に花を見て微笑んでる。
あれ……ちょっと待て……
「なんでその花持てるんだ?」
「あれ……そういえば……」
俺以外に人やものにすら触れることのできないはずのラピスがこの花を持てている。
この花、普通じゃないぞ……
この時の俺はまだ知る由もなかった。
この花が今後の大きな事件の火種になっていくことを……
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