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67 立ち上がる四方の門ー黒の炎ー

「なぜ俺達が急に騎士を追放されなきゃいけないんだ!?」


「アンタも一枚噛んでるんだろ? 答えろよ!」


 強引に迫ってくる者達を前に詰め寄られている『元』黒騎士団長クロム・ラハは冷徹に対処をしていた。


「決まったことだ……事情はどうあれ俺に剣を向けることは『騎士』への反逆とみなされるぞ」


 クロムに押しかける選ばれなかった騎士達が怒りがさらに怒りを表に出した。


「どう考えてもおかしいだろこんなやり方……」


「もう構いやしねぇ、トアテラってやつがそんな無茶苦茶なことをしてくるってんならこっちも力でやってやるよ!」


 選ばれなかった理由。


 明確な説明などできるものはいなかった。

 トアテラもオスリーの独断で発足されたもの。


 オスリーの側近として動いていたクロムですら詳しくは聞かされていなかった。



 何も語らないクロムに向けて選ばれなかった騎士達が実力行使を選択する。



 オスリーのいる城内にそびえ立つ塔へと続く通路。

 クロムはそこに立ちひとつの命令を受けていた。


 『侵入者を排除して下さい』


 

 クロムは迫って行く者達に向け手をかざす。


 選ばれなかった騎士達の目から精気がなくなっていく。



カラァァン……



 精気を失った騎士は剣を落とし、その場で跪いた。



 クロムの加護『吸収』はグレンの炎を始めあらゆるものを吸収することができる。


 それは人の心ですら例外ではない。


 自分に向かってくる騎士達に対して、向けられている殺気を吸収した。



 殺気を失った騎士達は、残されたクロムへの恐怖心が膨らみ塞ぎ込んでしまった。



 その気になれば記憶すら吸収することもできる。

 それが隠密作業を主に担っているクロムの強さでもあった。




 クロムの戦いに剣はいらない。

 『吸収』の加護の力で争いを回避できるからだ。



 そんなクロムが唯一恐れている存在、それがオスリーだった。



 吸収により、いくら思考を読み取ってもオスリーの絶対的な自信に気圧されてしまう。

 さらに思考を読み取られたことを知りながらもクロムを側近として使い続けたことも不気味だった。



「あれ……黒門さんじゃねぇか」


 聞き覚えのある声がクロムの耳に届いた。


 この声を聞くだけで虫唾が走る……



「グレン、何故ここにいる?」


 クロムがオスリーの次に苦手とする者だった。



 地下に閉じ込めていたはずこの男が何故?



「アンタこそなんでこんなところにいる?」


「俺が……? 命令に決まってるだろう」


「黒騎士団長がこんなところで突っ立ってていいのかって聞いてるんだよ! 前代未聞の事態が起きてるんだぞ!」

 

「勘違いしないでほしい。今の俺は黒騎士団長ではなくトアテラの一騎士、長の命に従い任務をこなすことが俺の役割だ」


 クロムの拠り所は言われたことを確実にこなす、それしか残されていなかった……


「それよりも、俺の質問に答えろ! 何故ここにいる!?」


「騎士だからだよ」


「は? 答えになっていない! 地下牢からどうやって出てこれたのかと聞いているのだ! アッシュはどうした!? 彼が見ていたはず!」


「白門は俺が倒した」


「バカな! あの男がそう簡単に抜かれるとは……」


 確実に裏がある、そう判断したクロムは即座にグレンの思考の吸収に入る。



ーサレムの得体の知れない能力、そして白門が本気ではなかったー


 具体的な情報がほとんどない……

 何故この程度の情報で現状をで受け止められるのかがクロムにはわからない、だからこそ苦手だった。


「サレム……あの無能が関係している? 得体の知れない能力とはなんだ……?」


 何かと話題にあがるサレムの存在はあまりにも不気味だった。


 それによりアッシュすら守り切れないほどの力を持ったことも。


「そうやって思考をいつも盗み取って楽しいのかよ」


 クロムが思考を吸収したことをグレンは把握していた。

 むしろ指摘されたことに驚きを隠せずにいたのはクロムだった。


「なんのことだ? 俺は何も知らない……」


 最終的に記憶まで吸い取ってしまえば、この出来事はなかったことにできる。


 あまりにも応用の効く能力にかまけ、クロムは咄嗟の状況への対応が弱くなっていた。


 それを察してか、グレンはクロムに強気で問いかける。


「アンタがやったように、俺も今のアンタのことが読めるぞ」


「貴様が……?」


 単純なだけのグレンに自分のことがわかるはずがない。この男の言葉はひとつひとつがいちいち感にさわる……

 苛立ちを抑えるように、クロムは強めに息を吐いた。


「本当はオスリーのやってることに疑問を感じてるんだろ?」


 クロムの顔がピクリとうずく……


「貴様に……何がわかる……」


「黒騎士団の長を務めたアンタが襲ってきた元騎士達を殺さないなんておかしいだろ? 心のどこかでオスリーに抵抗してるんだろ?」


 ギリギリと奥歯を噛み締める音が聞こえるほどクロムの顔は歪みきった。


「だから……だから嫌いなんだ、貴様のような感覚で生きている奴は……平気で入ってきて欲しくない部分にまで入り込んでくる……」


「図星だったろ?」


 グレンは勝ち誇ったようにニヤリと笑う。


「何故心も理解しようような貴様が騎士団長をやっているんだ! 私は貴様を絶対に認めない!」


 溜めていたものが抑えられなくなったクロムは思いの丈をグレンにぶつけだす。


「認めてもらいたいだなんて思ってねぇよ! オスリーのケツを追いかけて、嫌われないように生きているだけの奴から魂なんて感じねぇからな!」


「愚弄するな! 俺にだって考えはある! 時が来てないだけだ!」


「今だって言ってるんだよ! ここで動けない奴がいつ動けるんだ! 俺は赤騎士団全員のために今ここで命を賭ける! アンタにそれがあるのかよ」


 クロムの動向が縮んでいく……

 手で胸を押さえ、必死で気持ちを抑えているが気持ちが止まらなかった。






「俺は……俺は、黒門であることを忘れたことは一瞬たりともない!!」





 城が揺れるほどのデカい声だった……


 はじめて見るクロムのこんな姿にグレンは始め呆気に取られていたが、すぐに勝気な笑顔に変わった。


「そういうのが聞きたかったんだよ」


 心の叫びに驚いていたのはクロム自身も同様だった……

 『黒門』クロム・ラハの復活した瞬間だった。



 グレンはクロムが立ち塞がっていた塔の入口へと進みだす。


「時間がねぇんだ、悪りぃけど行かせてもらうぞ」


 通りすぎていくグレンをクロムは止めようとしなかった。



 歩みを止めず階段を登り始める時、グレンの背後からついてくる足音が聞こえた。


「なんだ、アンタも付いてくるのかよ」


「偶然進むべき方向が同じだけだ」


「目的もだろ?」


「先程、貴様のことが嫌いだと言ったな……訂正しよう」


「ん……?」


 グレンは首を傾げる。


「俺は貴様のことが大っ嫌いだ!」


 迫真の表情でクロムはグレンに気持ちをぶちまけた。


「俺はアンタのこと、ちょっと好きになったよ」


 クロムはグレンの顔を見ず、大きく舌打ちをした。

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