66 立ち上がる四方の門ー揺るぎなき青ー
騎士同士の争いは激しさを増してきていた。
セレスに強化された、選ばれなかった騎士達は体力まで強化されていたため、トアテラが少しずつ押されてきている。
青騎士団の詰所内にも激しい攻防の音が聞こえてきていた。
『元』青騎士団長ミーニャは外から聞こえてくる争いに耳を傾けながら目を閉じ、考え込んでいた。
「聖剣騎士の劣勢だそうです」
そんなミーニャに対し、同じく『元』青騎士団聖騎士ヒロリィが戦況を伝える。
事態の異常さは騎士団創立から遡っても例のないことだろう。
名門ロンデブルム一族。
クーガの歴史を紐解くと必ず名が刻まれている歴史ある一族だ。
クーガの周辺がまだ開拓地だった頃、国の礎を作り、騎士の基盤を提案したのが歴史あるロンデブルム家の初代、ライアン・ロンデブルムだった。
一族のみが読むことを許されるクーガの過去が記された古文書にはこう書かれていた。
ーロンデブルムはクーガと共にあり、ロンデブルムが滅びる時クーガは滅びるー
この一文にミーニャはいつも違和感を感じていた。
『クーガ』が滅びるときに『ロンデブルム』も滅びるのではないのか?
主語が『ロンデブルム』になっているのは何故だ?
国の発足に関与したという一族の自負によるものなのか。
それだけ過去の一族には誇りがあったのだろうか……?
正直なところミーニャは今のロンデブルム一族にそれほどの力を感じていなかった。
過去に偉大な業績をなし得ただけの象徴的存在。
それが貴族としてのロンデブルム家の立ち位置に見えていた。
深く遡れば騎士をしている一族もいたが、今や名門に傷が付くと周りが止めに入るようになっていた。
それでもミーニャは騎士になることを強く希望した。
半ば一族から身を引くような決意で騎士となり、自分の力だけで名を上げていった。
初めのうちはからかわれもした貴族出身であることも実力と共に言われなくなり、中には貴族であることを知らないものすら出てくるようになる。
不思議なものでそうなってくると貴族であることを意識するようになってきていた。
「ミーニャ様…………ミーニャ様?」
はっと目を見開き、ヒロリィに声をかけられていたことに気付く。
「珍しいですね、私の声に気付かないほど考え込むなんて」
あこがれのミーニャの普段見れない姿を見て、ヒロリィは高揚していた。
「ヒロリィ、この争いは何が原因なんだ?」
オスリーに選ばれたトアテラ、それに選ばれなかった騎士達。
この事態の中、動きがまるで見えないオスリーへの疑問が晴れることはなかった。
「嫉妬ですかね……騎士でいたかった者たちの」
「嫉妬か……」
選ばれなかった騎士達がなぜ急に強くなったのか、ミーニャにはわからなかった。
オスリーは何をしているのか?
この事態を収める正解は何か?
古文書にはこう綴られている。
ー混沌の中、彷徨い歩き続ける者の道標。それがロンデブルムの役割だー
この言葉を汲み取るなら今の騎士で道標となる者は本来ならオスリー。
それが何やら事態を静観しているまま動かない。
騎士のあるべき姿を突き進むのであれば、位の上の指令には逆らうべきではない、このまま騎士が攻めてくるのを返り討ちにすればいい。
揺れていた……
生まれ持ったロンデブルムの精神。
騎士となり培った精神。
「このままでいいんでしょうか?」
ヒロリィがボソリと一言漏らす。
「違う……」
ヒロリィだけではない、騎士達全員が先が見えなくなっている。
混沌とは何か?
この事態を引き起こした張本人は誰か?
答えはわかっていた。
動くという選択肢を見ない振りをしていた。
それは今までミーニャが最も嫌っていた、事なかれ主義の現在のロンデブルム家そのものだった。
道標が必要だ。
ライアン・ロンデブルムの意思を継ぐ……
『青門』
ミーニャ・ロンデブルムは立ち上がる。
「出かけてくる……」
「そうなると思ってました」
ヒロリィは微笑みながらミーニャを送り出した。




