64 無能
エクスカリバー……?
そう呟いた後、オメガアイとソラが真っ二つになった。
これがオスリーの加護。
「ソラ……ううぅ、そんなバカな……」
グウがソラの亡骸を見て悲痛な声を上げる……
魔力障壁を持ってるソラが今の攻撃でやられた。
ってことはあれは魔法?
いや、でも一緒に防御の高いオメガアイもやられてるんだぞ……
「ラピス、今のオスリーの攻撃は?」
「すごく珍しいのですが、あれは……無属性の攻撃です」
「無属性? 物理でも魔法でもないってこと?」
「天界でもそうそう見れない力です、この威力で使える人は初めて見ました……」
そんなすごい攻撃なのか……
防御や精神が高くても意味のない、食らったら誰でも一発で終わりの攻撃……
そんな話をしてる間にグウが身を引きずりながらソラの下までたどり着いていた。
「ずっと一緒だ……ソラ、寂しくないよ……」
グウだって、シロナから受けたダメージでもう長くないはず……
這いつくばってでもソラと一緒にいたかったんだ……
それを見ていたシロナがうなだれる。
「気にするな……あそこでシロナがグウを攻撃してくれなかったらこっちがやられてた」
仕方ない、それくらい強敵だった。
ラピスも複雑な表情で喋らなくなったグウを見つめる。
「こんな人でも命が燃え尽きる時まで声をかけたくなるほど大切なものがあったんですね……」
グウ・ソグォリア、こいつの本心はなんだったんだ……
オスリーのやっていることを快く思ってはいなかったみたいだ、それでも命令に従って最後の最後に牙を剥いた。
ある意味、アッシュ様に似た組織に逆らわない精神ってやつを持って行動していたのかな。
トカッツさんのいう騎士の魂ってやつからは遠いのかもしれないらけど、グウは今の騎士団を一番現している奴だったのかもしれない……
それくらい、今の騎士団は歪んでる……
オスリーはいつのまにか姿が見えなくなっていた。
あいつを倒さないと騎士団は変われない……
本当ならこんなときこそクーガの誇る、4つの門が立ち上がるべきなのに……
「アッシュ様……なんで死んじゃうんだよ……」
やっぱりあの人は必要だった……
みんなわかってるんだろ?
騎士で保ってるこの国の騎士が殺し合いなんてしていたら国が終わってしまうんだぞ!
「私は信じてます……あの人はきっと……」
ラピス……
信じるって何を……?
◆
巨大王国クーガは混沌に満ちていた。
追放された神の力により、選ばれなかった騎士達が城へ押し掛け、トアテラと争い合っている。
城内に設置された塔の上層部からも争いで生じる、悲鳴や怒号、剣と剣のぶつかる音などが漏れていた。
争いの首班となったオスリー・フ・キルフィはその音に耳を傾け、ゆったりと目を閉じている。
狙い通り神はやってきた。
それだけで式典を強行した価値はあったとオスリーはほくそ笑む。
『聖剣エクスカリバー』
強力な無属性攻撃を加護に持つオスリーは、常に余裕があった。
それは自身の持つ能力の強力さだけでなく、自分に対する自信によるものでる。
大抵の事態はオスリーの考えた数百パターンの想定の範疇であるため取り乱すことはない。
万が一想定を超える事態が起きたとしても、最終的には無敵の加護でねじ伏せることもできる。
圧倒的な二枚看板を持ち、オスリーは自身の力と知能に自惚れていた。
「神でさえあの程度……」
人間に対等と思えるものなど見つからないと考えるオスリーは話し相手を神に求めていた。
しかし、現れた神『セレス』は力こそ計り知れないが、求めているような知性には程遠く話も通じず話途中で拗れてしまう。
渡すはずだった神授花の束をオスリーは握り潰した。
「所詮花ごときに現を抜かす幼稚な存在、神すら無能……」
ー無能ー
サレムに使われていた別称であるが、オスリーにとっては自分以外のすべての存在が『無能』そのものとして写っていた。
すべてが管理に値しない存在。
多少有能な加護を持つ者達を集めたところでこのような争いひとつ沈められない愚図ばかり……
神遣騎士などと発足はしてみたものの所詮はままごとだった。
自分の加護を冠して騎士達を『聖剣騎士』などと言ってはみたが意図した成果をあげられるものなどいなかった。
自分のことを理解できる者など最早いないと理解するほうが楽なのだろう。
期待するから裏切られる。
信頼など力を持つ者に取って最も意味のないもの。
オスリーは決めていた。
生物のピラミッドの頂点に自分が立つと。
向かってくる者には裁きを与える。
言わば自分が『神』。
暗い部屋の中、オスリーは一人微笑んでいた。




