61 神授花
「みんなのもの? このダンジョンにいる奴ら全員のものってことか?」
あれ……ここってオメガアイ以外誰もいなかったような気がしたけど……
「そんな狭い話じゃないわよ! みんなっていうのはアンタ達も含めた全員のこと!」
今はなくなってしまったけど、ここに植えてあった花が俺にも関係してた?
確かに綺麗でちょっと特別なものなのかなってくらいには思うところはあったけど……関係って言われてもしっくりこない。
踏み潰された花畑を見てラピスは寂しげだ……
「この花がなくなることでどんな問題が起こるのですか?」
花を失った茎を拾い上げてラピスがセレスに問いかけた。
「このダンジョンは普通とはちょっと違うの、神と人間の監視場所のようなところね」
「そうなんですね……」
「現役の神をやってるならそれくらい知っておきなさいよ……」
セレスの方がどう見ても子供に見えるのに色々と詳しい……
指摘されるごとにラピスは先輩から叱られる後輩のように首をすぼめ苦い表情をとってはぐらかしてるみたいだ。
「俺も知りたい、この花はそんなに大事なものだったのか?」
神様通しの話も大事なんだろうけど、この国のことをなんとかしないと大変だ……
「アンタはなんで街にモンスターがせめてこないか知ってる?」
「ああ、それはもちろん赤騎士団が退治しているからだ!
クーガはそれでずっと国全体を守り続けてたんだからな!
「人間ってほんとバカ……」
えっ……違うのか?
いやいや違うことはないだろ……グレンを中心に国を守るため、この国に近寄ってくるモンスターは倒してるはずだぞ。
「責める気を失わせてるの、穏やかな心になるように仕向けてね。アンタ達の仲間がやってることなんて花で穏やかにさせる必要もない弱小モンスターをいじめてるだけ」
そんなバカな……それなりに強いモンスターだっていたように思えるけど……
確かにモンスター達が初めから国を滅ぼすような勢いでせめて来たことがあったかって言われると疑問ではあった……
でも……急に赤騎士団の今までやってきたことを全否定されるようなことを言われても……
グレンが聞いたらブチギレそうな話だ……
「じゃあその花がなくなった今、この国を狙うモンスターがくるかもってことか」
「来るわよ、国は過去にもそうやって滅びてきたんだから」
なんだって……
騎士同士で争ってる場合じゃないじゃないか……
そもそもなんでこの花がこんなことに……
「誰だよ……こんな大事な花を刈り取っていったのは……」
「それがオスリーっておじさんよ。あたしのためにってこの花を差し出してきたの人間達はこの花のこと『神授花』なんて呼ぶ者もいるから勘違いしたのね」
オスリーかよ……なんてことしてくれたんだ……
何から何まで最悪じゃないか……
「もうこの花を元に戻すことはできないのか?」
「アンタ達がやったことでしょ、別にあたしが協力する理由がないでしょ」
なんだよこいつ……
この言い方神様ならできなくはなさそうな感じだな、ならラピスだって。
チラッと見たラピスの顔はすでに申し訳なさそうだ……
「すみません……私再生は……」
ダメか……
「なあセレス頼む! 大切な故郷なんだ、こんな形でめちゃくちゃになってほしくないんだ! 俺で避ければなんでもするからこの国を救ってくれないか?」
頼れるのはセレスしかいない……このまま国が滅んで欲しくは本当にない!
「知らないわよ……『神』ならそんな願いも多少は聞き入れるのかもしれないけど、あたしもう追放されてるから……」
「神様とかじゃない、この国を救える可能性があるのはセレスだけだから頼んでるんだ、頼む」
頭を地面に擦りつけた。
土下座でもなんでもしてやる、少しでも誠意が伝わるならなんでもいい!
「それ何か意味あるの? もういくからね」
全然響いてない……
「ちょっと待って!」
「アンタを生かしておいたのは、一番おもしろそうだったから……どうせこの後国を救うためにジタバタと頑張るんでしょ? 城の中で観察してるからせいぜい頑張ってね」
「あっ……」
消えた……
「ラピス、居場所は探れないか?」
キョロキョロとラピスは気配を探っているが首を傾げた。
「ダメです……見つかりません……」
気配を消すこととかもできるのか……
あの女最悪だ……
選ばれなかった騎士団を無駄に強化して争いをけしかけるようなことをして。
この国が滅んでいくのを見て楽しんでるんだ……
「絶対に滅ぼさせなんてしないからな」
「はい、微力ですが協力します!」
このことを知ってるのは俺とラピスだけ……
この国が守れるのは俺しかいないんだ……




