6 いざダンジョンへ
リナップの言っていたダンジョンの話が気になってしまい、レッサーサイクロプスのいた場所まで来てしまった。
「サレムさんダンジョンってなんですか?」
ラピスの『なぜなに』が始まった。
「ダンジョンってのは街の中とかに発生する迷宮への入口だ。大概は直径1メートルくらいの黒い空間ができてそこに入ることで迷宮に行けるんだ」
「なんでそんな場所に行きたいんですか?」
「ダンジョンにはモンスターや高級なアイテムが落ちてたりするから金になると思ってさ。しかもリナップが知らなかったってことは野良ダンジョンだろうしな」
「野良ダンジョン? 野良って……犬や猫みたいですね……」
「そこから名前が付いたのかもな。基本この国のダンジョンは黒騎士団が管理してるんだけど、ダンジョンの入口は急にできることもあったりで把握されてないものがまだまだあるんだ。その未把握のダンジョンのことを野良ダンジョンって呼んでるんだ」
「なんだか、よくわからないですけど……それなら騎士団が管理してるところの方が安全なんじゃないですか?」
「そこはやっぱり行きづらいってのもあってさ……あと管理されてるダンジョンは入るのに金がかかるんだ。国で難易度を決めてそれに合わせて料金が決められてるんだけど、そんな金払う余裕はうちにはないだろ?」
「確かにそうですけど……」
「な、だからちょっとした資金稼ぎには野良ダンジョンの方がいい。その分危険もあるかもしれないけど……」
まあ別に深くまでいったり危険なモンスターの討伐に行こうってことじゃないんだ。危なくなったらすぐに逃げればいい。
とは言ってもリナップの情報がどこまで正確かは微妙だ。
白騎士団に入る噂なんて街の人の井戸端会議レベルの大概がロクでもない情報だ。リナップもどこでこの情報を聞いたんだか……
「サレムさん、もしかしてこれですか?」
ラピスが大木の上空の5メートルくらいはある葉が生茂る箇所に近付いた。
あっ、普通に空とか飛べるのねラピスって。
やっぱすごいな神様って……
「ここです」
指差した場所には木の枝と葉に隠れるように黒い空間が見える。
ダンジョンの入口で間違いなさそうだ。
「よく見つけたな」
てっきり自分の目線の高さだけで探そうと思ってしまっていたけど、必ずしもそんな場所にあるとは限らないもんな。
「えへへ、感じたんです、普通の場所とは違う変な気配を」
俺に褒められてほほをピンク色に染め照れ臭そうだ。
これが人間と神様の能力の違いなのか、人間の俺が味覚や嗅覚を感じ取れるように、女神のラピスには俺には感じ取れない感覚があるみたいだ。
普通に話してるとただの世間知らずな女の子なのにな、やっぱり神様なんだなぁ……
気をよじ登り入口を確認するが、まず穴の大きさに驚いた。
直径1メートルくらいのものが一般的だと思っていたけど、これは小さく見ても5メートルはありそうなサイズだ。
近くにいたレッサーサイクロプスといいこのダンジョン、相当危険なところなんじゃないか?
「どうします? やめときますか?」
俺が怯んでいたのを感じ取りラピスが声をかけてくる。
「大丈夫だ、行ってみよう」
様子を見るだけ、少しでも危険を感じたらすぐに脱出だ。
覚悟を決め中に飛び込んだ。
暗い……
入ってきた穴がぼんやりと光っているだけで他は真っ暗だ。
「ラピス、いるか?」
「はい、ここは何もみえませんね……」
「どこかに光はないのかな?」
たいまつが必要だったな、準備不足だった……
「ちょっとした光なら私でも……」
そう言った矢先に俺の頭上が光で照らされる。
ここは岩で囲まれた飾り気のない洞窟の中のようだ。
なんだかホッとする優しい光だ。
「ラピスの魔法か、便利だな」
ラピスはニコッと微笑んだ。
ということでダンジョンの捜索が始まった。
なんだかんだでダンジョンに入るのは初めてだ。
白騎士じゃダンジョンなんて行くことはないし、黒騎士の手伝いをしてても中までは入ることはなかった。
なんていうか得体の知らぬ恐怖にゾクゾクしてきた。
なにより怖いのは通路の広さと高さだ。どう考えてもこれは人間用に作られた通路じゃない。
巨大なモンスターが住んでる可能性は高いだろうな。
「今のところ近くで生き物の気配はありませんね」
「そんなのまでわかるのか……」
ラピスってやっぱりすごいんだな……
ダンジョン攻略ならラピスひとりいればかなり楽に進められそうだ。
「怖くない?」
俺の問いかけにラピスは首を横に振る。
「サレムさんがいるから平気です」
「ぴぇ!?」
思わず変な声が出てしまった。
産まれてこの方女の子からそんなことを言われたのは初めてだ……ちょっと照れ臭そうにしてるラピスはすごく可愛い。
はっ、今はそんなことを考え得る場合じゃない……
「あっ……」
「ど、どうした?」
「生き物……ではないかもしれないですが、強い生命力の塊を向こうに感じます」
「生き物ではないかもしれない生命力?」
なんだそりゃ? 危険ではないと思っていいのか?
吸い寄せられるようにラピスが進んでいく。
最近俺より積極的だ……好奇心が怖さに勝ってるのかな。
まあいい、このまま着いていくとするか。
意外とモンスターっていないもんなんだな、そういうのもダンジョンによるのかな。
ここはモンスターのいないダンジョンなのか? じゃあ何のための場所だ……?
通路の先が開けている、大きな部屋に繋がっているところに来てるようだ。
ん?
部屋一面に何か植ってないか?
「きれい……」
ラピスが呟いた。
やっぱりそうだ、部屋中に花が植えられている。
白くて、花びらの中がほのかに光ってる。
花になんて詳しくない俺でも感じる不思議な力がある、いつまでも見てられる。
ラピスに確認するまでもない、これが生命力の正体……
「洞窟の中にこんなきれいな花が……」
「あっ!」
今度はラピスが大きな声を上げた。
ラピスの見てる方向に目をやり、俺も言葉を失った。
植えられた花を守るようにきれいな花に似つかわしくない、巨大なモンスターが立っている。
大きな目にバカでかい棍棒。
恐らくだけどこいつレッサーサイクロプスと同じひとつ目巨人種の上位モンスター『オメガアイ』だ……