56 赤門救出作戦
グレンの監視にアッシュ白騎士団長……
たった一人で護衛にあたってるみたいだ。
「不思議だな、ここ最近の騒動にことごとくサレムは関わっているように感じてしまう……」
アッシュ様が落ち着いた様子で話しかけてきた。
前と同じように話せばわかってもらえ……
いや、そんなことはない……あの時と今じゃ事情が違う。
トカッツさんがアッシュ様に話しかけた。
「アッシュ様お久しぶりです、このような形で会うことになってしまったこと、大変心苦しく思います」
「トカッツ……そうか、君もサレムと一緒に行動してたと言う報告が来ていたな」
「ここにいるのがあなたでよかった、アッシュ様なら私達の目的を理解してくれるはず」
トカッツさん、説得するつもりだ……
「私自らグレンを解放しろと?」
「騎士団のためです……このままでは、騎士団どころか国まで巻き込んでおかしなことになってしまいます、アッシュ様ならそれを理解しているはずです!」
トカッツさんの質問にアッシュ様は黙して答えようとしなかった。
そういえば近くにいるはずなのにグレンが見当たらない。
「トカッツさん、グレンはどこにいるかわかりますか?」
「アッシュ様の背向かいの壁越しだ、鍵を持たない私達では壁を破壊しなければ入れんが、そうはさせてくれそうになさそうだ」
なるほどね……
チラッとラピスの顔を見ると、ラピスは「はい」とうなずきグレンのいる壁に向かっていった。
アッシュ様が、剣を抜いた。
本気かよ……ここで戦わなきゃいけないのか……
「元赤騎士団長グレン・マグノリスは今やこの騎士団に対する反逆行為を働いた罪人だ、私は騎士としてこの罪人に近づこうとする者を処罰する」
罪人に近付く俺達も罪人ってか……
「それはあなたの騎士の魂に従っての行動ですか?」
トカッツさんがアッシュ様に問いかける。
「………これは任務だ、私は騎士に反する者を逃すことはできない」
「この新しい騎士団に魂を感じるのですか? あなたならわかっているはずだ、このままじゃこの騎士団は……」
「これは任務だ、私は今は与えられた任務を全うする」
アッシュ様の表情は変わらない、考えはあるんだろうけど、ここは戦わずに済ませることは難しそうだ……
「シロナ……下がってろ……」
「は、はい……」
下手に巻き込むことになったら庇いきれない……
俺とトカッツさんだけで白門を相手にするなんてそれでも無謀すぎることだけど……
「サレム君わかってるな、目的を達成するためにはここを抜けることが最低条件だ」
トカッツさんがアッシュ様に剣を向け構える。
俺も……恐る恐る剣を向ける。
こんな日が来るなんて考えたこともなかった。
アッシュ様と戦うなんて……
訓練であればすごい光栄なことだけど、いざ殺し合いになったら恐怖しかない……
面と向かうとすごい威圧感だ……
見た目だけなら普通の優男にすら見える出立なのに、剣を構えるアッシュ様はまるでオーラでも出ているように構えている姿だけで押されて吹き飛ばされようになる。
「失礼!」
トカッツさんが先制を仕掛けた。
相変わらず素早く無駄のない剣だ。
一瞬で距離を詰め、脳天に向け一振りを入れる。
キィィィィン
挨拶がわりの一太刀はアッシュ様に簡単に弾かれた。
でもそれは計算内だったようで、すかさず剣を横になぎ払った。
ブォォォン
その一撃すら簡単に回避されてしまった。
あまりにも無駄のなさすぎる動きだ……
トカッツさんだって全然弱くはないはず、でもまったく敵う気がしない……
今だって反撃をしようと思えば簡単にできるのかもしれないけど、あえてしないで守りに徹しているんだ……
俺だって……
勝ち目はなくたって、足止めくらいなら!
「うおおおぉぉぉぉ!」
渾身の力を込めた俺の一振りはヒラリと交わされた。
体勢を崩した俺はその場に膝をついた。
「くそ……今度こそ……」
次に挑もうとした俺の目前に剣先が向けられていた。
「無駄なことはやめろ……動き出してしまったものは一個人で変えられるものじゃない……」
いつものどこか寂しげなアッシュ様の顔がより寂しげに見える……
「サレムさん! 壁越しにいましたよ、言われたことはやっておきました!」
ラピス、こんなこんなタイミングだけどよくやってくれた!
「アッシュ様……俺みたいな無能騎士だった奴には考えていることすら想像つきません、けど、俺だってこの国を救いたいという思いはあります」
「なに?」
当たりさえすれば!
「行きます!」
強く剣を握った……
「無駄だ」
アッシュ様が俺の攻撃を備えて身構える。
これが俺の渾身の一撃だ!
アッシュ様は俺の攻撃を読んで、すっと身を引いた。
構うもんか……俺の目的はこれだ!
ズダァァァァァン!
グレンがいるはずの壁に大きな穴を開けた。
「サレム始めからそれが狙いだったのか?」
はじめてアッシュ様の驚いた表情を見た。
そう感じた矢先、アッシュ様は穴の開いた壁に向け、手をかざした。
崩れた壁の残骸が浮き上がり元の位置に戻っていく。
「何これ、せっかく開けた穴が閉じていっちゃう!」
あっという間に壁が穴を開ける前の形に戻ってしまった。
「残念だったな、意表を突かれたがグレンはこの奥で拘束している、壁を開けても拘束を解かなければ救出はできない……そしてもうこの壁は二度と開けさせない」
「アッシュ様の加護か……」
壁を元に戻したり、グレンを引き戻したり随分便利な加護を持ってるな……まともに戦ったら相当厳しいんだろうな……
でも、グレンの救出とは別問題だ。
「グレンが壁の奥で野放しにされてるなんて思ってませんでした、だから先に手を打った」
「壁を破壊する前に何ができる、一瞬で壁は塞いだはず、その間に拘束を解いて逃すほどの技量はここにいるものにはないはずだ」
「確かに壁はすぐ塞がれたのでグレンが中に居たかすら確認できていません。でもわかるんです……」
そうだろグレン、壁が開いた瞬間にアッシュ様が壁を塞ぐことができたんだ、同じ騎士団長なら同じように……
ボウッッ!!
「ギリギリだ……本当にギリギリだった!」
目の前に火花が上がった。
そしてこの声は……
炎が徐々に大きくなり人の形を整形しはじめた。
「ぷはぁ!」
グレン! やっぱりさっきの一瞬で穴から抜け出せてたんだ!




