52 灼熱の男
「おい! あれ赤門だよな!?」
「神聖な式典に飛び入りしてきたぞ……」
会場が異様な空気になっている……
オスリーがトアテラの発表をした直後にグレンが飛び入りしてきたからだ。
舞台上に立ってないから心配してたけど、まさかこんなことを計画してたなんて……
「俺はこんな騎士団は認めねえ!」
グレンの持ち前の大声がコロシアム中に響いた。
なるほど、この場でトアテラの異常性を訴えれば国王にも、国民達にも一気に知れ渡る。
グレンはそれを狙ってこの時まで待機してたんだ。
グレンは国民達からも人気の騎士団長だ、顔の知れてる赤門と滅多に顔を出さないオスリー、観客はどっちの言葉を間に受けるんだ……
舞台上では聖剣騎士達がグレンを取り囲んだ。
そこにはアッシュ白騎士団長や他の青、黒の騎士団長も加わっている。
囲まれた状況を気にすることなくグレンは強気で話を進める。
「ここにいるみんな聞いてくれ! こんな新しい騎士団なんてデタラメだ!」
ざわっと会場がより以上などよめきを起こす。
「いいか、これを計画した騎士団総長オスリーは、選ばれなかった騎士達を……」
「そこまでだ!」
『黒門』クロムが話を遮った。
一気にコロシアムが、静かになる。
どうするんだ……
騎士団のごたごたなんて国民に見せて大丈夫なのかよ、今後に関わるんじゃ……
「わかってるんだろ黒門さんよぉ!」
口調は俺と会った時とそんなに変わらないけど、顔は比べ物にならないほどの真剣さだ、ちょっと鬼気迫るものを感じるほどの迫力がでてる……
そんなグレンにクロム様は負けじと熱量高く応じた。
「貴様の狙いは読めているぞ赤門グレン! 突然現れ場を混乱させ、その隙に国王を手にかけようとしている!」
はっ!?
グレンが国王を?
思わずトカッツさんの顔を見た。
「そんなはずがない」と言いたげにトカッツさんが首を横にふっている。
あのグレンがそんなことをするはずがない、ありもしないことをでっち上げてるんだ。
騒然とするコロシアムのなか、聖剣騎士達は動き出した。
クロム様とアッシュ様を含めた数名がグレンを取り囲み、その他は『青門』ミーニャを先頭に国王の守りにつく。
準備してたみたいなスムーズな動きだ……
まさか、ここにグレンが来ることを想定してたんじゃ……
国王は護衛の壁の奥でオスリーに連れられ舞台から離れようとしていた。
「待てよ! 俺が話をしたいのはアンタとなんだ!」
それに向けグレンは大声で呼び止めた。
追いかけようと向かっていくグレンの前に二本の剣が差し向けられた。
アッシュ様と、クロム様がグレンを止めた……
クロム様とグレンが何か話してるようだけど、俺の位置からじゃ聞こえてこない……
きっと「邪魔するな」とかって言ってるんだろうけど。
ボワッ!
グレンが炎をまとい臨戦態勢に入った。
マジかよ……話がこじれたのか?
こんな場所で戦うつもりかよ……
「俺の目的はオスリー総長と話をすることだけだ! 邪魔なんだよ!」
グレンの声はデカくてよく聞こえてくる……
戦うんじゃなくて薙ぎ払ってでもオスリーと話をするつもりって感じか。
グレンが上空へ飛んだ、上から一気にオスリーの元まで行くつもりだ。
炎をまとったグレンは打ち上げ花火のように一気に向かっていく。
その時、グレンを包む炎が剥がされるように離れていった。
炎の衣はグレンを離れ吸い寄せられるようにクロム様に向かっていく。
ギュォォォォォォ!
近くまできた炎はそのままクロム様の伸ばした手に吸い込まれるようになくなった。
「あれ、グレンさんが元の場所に戻ってる……?」
シロナが声を聞いて確認するとグレンは飛び跳ねる前の場所に戻っていた。
近くではアッシュ様が剣を構えている。
もしかして、アッシュ様に元の場所まで戻されたのか?
前に俺が城に潜入した時にも同じようなことが起こったよな……
「白門! なんで邪魔をする! アンタだって気付いてるんだろ!?」
グレンがアッシュ様に大声で問いかけているが、反応はしてるようには見えない。
今のやりとりの間に国王とオスリーは姿が見えなくなった。
最悪の展開じゃないか……
グレンは目的も果たせずに聖剣騎士達に囲まれてる……
助けに行ったって俺なんかがひとり行ったくらいじゃ……
グレンと聖剣騎士達が見合う中に青門ミーニャ様が割り込み近寄っていった。
言葉を発するそぶりもなく、ミーニャ様はグレンの前で揺れ動く。
グレンの手足が大きな石の塊のようなもので固められ身動きが取れなくなってる。
これがミーニャ様の加護か……?
トカッツさんはグレンの姿に苦い表情を浮かべた。
「手詰まりだな……新騎士団を止めるために意を決したのだろうが完璧に読まれていた」
グレンも抵抗をやめ、手をだらりと下ろした。
このままじゃ……グレンが危ない!
前のめりになった俺の肩をトカッツさんが強く抑えた。
「ここで君が動いたところでグレン団長の二の舞だ……」
「でも、このままグレンは……」
「すぐに殺されはしないだろう、とにかくここは抑えるんだ」
グレンが他の騎士団長達に連れられて運ばれていく。
「お前ら! 目を覚ませ!!」
グレンは最後に城中に響くほどの大声で叫んだ。
グレンの思いも虚しく、状況は変わることなく連れられコロシアムから姿を消した。
あっけなく終わってしまった……
あのグレンがなす術なく拘束されてしまうなんて……




