4 攻撃9999!?
レッサーサイクロプスが巨大な棍棒を振り回しながら近づいてくる。
こんな危険なモンスターをなんで赤騎士団は放置してるんだよ……
完全にロックオンされている。もう逃げても無駄だろうし……どうしよう……
怯える俺の前にラピスがたった。
「こうなったのも私の責任です……ここは私が盾になるんでサレムさんは逃げてください」
えっ……、ラピス、責任を感じて……
「何を言ってるんだよ。なんとか一緒に逃げる方法を探すんだ……」
「話ができたのはついさっきでしたけど、サレムさんの優しい背中をずっと見れてうれしかったです……どうか、無事に逃げてください……」
ラピスの手が震えてる……俺が追放されたことまで含めてずっと気にしてたんだ……
臆病なラピスが勇気を限界まで振り絞って俺を守ろうとしてる……
レッサーサイクロプスがラピスに迫ってくる。
「逃げろ!」
ラピスが殺されるところなんてみたくない……
スカッ……
あれ………??
レッサーサイクロプスがラピスをすり抜けた……?
ラピスが申し訳なさそうに俺に振り向く。
「すいません……私、壁になれないんでした……」
えええええっ!?
そうか、女神のラピスは俺以外は触れる事も話すこともできないんだった!
って呑気に考えてる場合じゃねぇ。ということはさっきからこのモンスターが狙ってきてるのは俺じゃねぇか!
とりあえず剣を構えて。
げっ、もう棍棒を振りかざしてる……
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
技術とか何もない、子供のチャンバラのように剣をブンブンと振り回していた。
ドスゥゥゥゥン……
地響きと共に大きな音がした。
あれ……俺生きてる?
目の前には切り刻まれたレッサーサイクロプスが仰向けで倒れていた。
「俺がやったのか……?」
本来俺が倒せるようなレベルのモンスターじゃないはずだぞ……火事場の馬鹿力ってやつか……?
「私と直接会ったことで基本ステータスがアップしたんです」
「ん? どういうこと?」
「他の人でいう加護のようなものです。私と契約することでサレムさんとそのお仲間さんの能力はアップされるんです。今まで私は隠れてたんでその効果が一部しか発揮できなかったんですが、これはサレムさん自身の力だと思ってください」
「これが、俺の力……」
確かに俺と一緒に行動すると他の騎士達も今日は調子がいいって言っていたような気がするけど……俺をいじり倒したせいで気分が良くなってるだけくらいにしか思ってなかった……
それはそうと、すごい力だこれは……
ひとつ目巨人種のモンスターなんて聖騎士だってひとりで倒す事ができるかどうか微妙なくらいの強モンスターだ。
レッサーサイクロプスはその種では最弱ではあるけど、ただ振り回しただけの剣で倒せるなんて普通じゃありえない。
それにこれだけの高ランクモンスターなら、素材もいい値段で売れるんじゃないか?
しばらく生活するのに困らないくらいに金が手に入るかもしれないぞ。
いっそのこと、そこら中にある冒険者ギルドにでも所属して金を稼いだほうがいい生活ができるんじゃないか?
「おやおや、スマイル君じゃないか」
人の声、俺が戦っているのを誰かが見ていたか?
振り返った先にいたのは赤騎士団の騎士ラルフだった。
「ラルフさん、見てたんですね……」
「まさかこんな強敵をスマイル君が倒してしまうなんてなぁ」
いやらしそうにニヤついて話しかけてくる、嫌な感じだ。
「こんな危険なモンスターなんで放置してたんですか? ずいぶん前に報告してたはずですけど」
「見てたさ、危険のないようにな……レッサーサイクロプスはそんなに攻撃的なモンスターじゃないからな、刺激しなければ攻めてくる事もないんだ。どっかのバカは刺激したみたいだけどな」
「俺はとにかく、この畑の持ち主がずっと怖がってたんですよ。解決してやってくれればいいじゃないですか?」
「そんなこと白騎士団がやればいいだろ。うちは危険なモンスター討伐で忙しいんだよ」
その討伐をやってないから言ってるんだ!
って言いたいけど言えないんだよな……
ラルフはレッサーサイクロプスに近付き、さっと眺めた。
「ククク……こいつを俺が倒したとなったらみんな驚くだろうなぁ」
はぁ……? 何言ってるんだこの人……
「これは俺が倒したモンス……」
「なんだお前……俺に歯向かうつもりかよ……」
ラルフの周りに炎がまとわりついてくる。
炎はとぐろを巻き徐々に右手に集中し始め次第に棒状に整形されていく。
これがラルフの加護『炎棍』……
赤騎士団は討伐メインなせいか血の気の多い奴が多い。ラルフも何かあるとすぐこうやって威嚇してくるからやっかいだ……
「うっ……」
ラッキーでレッサーサイクロプスを倒せたけど、ラルフの強さは本物だ。戦っても勝ち目がない……
「じゃあ後は赤騎士団でこのモンスターの回収に来るから触るんじゃねぇぞ!」
俺に戦意がないことを確認すると、ラルフは炎棍を納め城に戻っていった。
去っていく背中を見ながらラピスは眉をしかめていた。
「なんですかあの人、勝手すぎます!」
「あんな奴ばかりではないけど、いるんだよズルい奴って」
10年もこんなこと続きだったからこれくらいじゃもう何も感じなくなったけどな……
「このモンスターはこのままでいいんですか?」
「いいんだ……後は赤騎士団に任せよう。それより依頼主に教えてやらなきゃな」
初の依頼だ。報酬額とか何にも決めずに来ちゃったけどあれだけのモンスターを倒してやったんだ。きっと感謝でいいものがもらえるだろ。
今は初の依頼達成を祝うとしよう!
◆
戻ってきて、さっそく依頼主に教えてやる事にした。
「すげえ……あんな強そうなモンスターを本当に倒したのかよ……」
依頼主も意外そうだ……本当に俺が討伐するとは思ってなかったんだろうな。
「でだ、依頼料のことなんだけど……」
そういうと男の顔色が変わった。
「いやぁ、まいったなぁぁ……あのモンスター近くにいて怖かったけど、別に害はなかったんだよなぁ」
あっ、こいつ依頼料を踏み倒す気だ……
「そう言われてもこっちは依頼を受けたから命懸けで戦ってきたんだぞ」
「いや、感謝はしてるんだ……でも別にあのモンスターがいてもいなくても困ることは無いっていうかなぁ」
ラルフも言ってたな、害のないモンスターだって。だから無理に討伐せずに監視だけしてたのか。なのにこいつただの冷やかしでこんなこと言いに来て……
さすがにそれはないだろ……
「あっ、ちょっと待っててくれ!」
俺の苛立った表情を見てか、男は慌てた様子で出ていった。
去っていく男の背中を見てラピスはまたご立腹だ。
「サレムさん、怒らないんですか? せっかく依頼を達成したのにあんなのないじゃないですか!」
「そうだよな……」
慣れてるんだ……なんて言ってもラピスには分からないよな。
それでも今日は気分がいいくらいだ。ラピスのお陰ではあるけどすごい力があることも分かったし、こうやって不満を共有してくれる相手がいることに。
そんな話をしているうちに男が慌てながら戻ってきた。
「悪りぃ……俺が今渡せるものはこれしかないんだ……」
手に持っていたのは、手作りのパンケーキだった。
きっと嫁さんとかが作った残り物なんだろうな、食べかけた跡が残ってる。
「ああ……その気持ちで十分だ、ありがとう……」
これ以上何か言ったところで、もう何もでてきやしないだろう。
「なんか、悪いな……次はもっとちゃんと依頼するから」
申し訳なさそうに男はいなくなった。
バタバタしてしまったけど、これでひとまず落ち着いた……
「サレムさん! 人が良すぎます!!」
あっ、まだだ……ラピスの気持ちが収まってなかった……
「いいんだこれで……このパンケーキうまいぞ、食うか?」
ラピスは唖然とした表情で目をパチクリさせた。
「すごいんですね……サレムさんて……」
「慣れてるだけだよ、それよりこれ旨いぞ」
「私食事とか取れないんです……」
「あ……っ、悪い、そうなんだ……」
女神様って食事も取らないのか……
ラピスは俺の口元を不思議そうに凝視している。
「美味しいってどんな感覚なんですか?」
「どんな感じ? うーん難しいけど……生きてるって感じなのかな」
「へえぇぇぇ、いいなぁ……」
食事を羨ましがられるなんて初めてだ……
ラピスって女神だけあってすごい力を持ってるけど、世間知らずで恥ずかしがり屋で案外大胆な不思議な子だ……
でも可愛い子と一緒にいれるってのは嬉しいな。
ステータスも上げてもらえるらしいしな……
「俺ってどれくらい強くなったんだろう?」
今日みたいに急に戦いになることだって今後も考えていかなきゃいけない。ラピスの基本ステータスアップってどれくらいのものなんだ?
「ステータスお見せしましょうか?」
ラピスが両手を広げると、魔力の光で文字が描かれた。
[ステータス]
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名前 サレム・ノヴァ
攻撃 9999
防御 5
魔力 0
精神 0
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「おお、すげぇ! こんなのはじめて見た、ってなんか極端なステータスだな……9999の攻撃ってすごいのかな?」
初めてすぎて普通がわからん……
「ええっとですね、ちなみに先ほどの騎士の方のステータスもお見せしましょうか」
[ステータス]
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名前 ラルフ・デファルナ
攻撃 72
防御 35
魔力 24
精神 12
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「へっ? こんなもんなの?」
ラルフの攻撃で72しかないのか……
「あの方は騎士さんにしては凄い方です。普通の騎士さんなら50くらいあればいい方だと思うので」
「えっ? ってことは俺は普通の騎士の200倍近くの攻撃力を持ってるってこと?」
「そうです」
ニコッとラピスが笑う。
ええええええぇ……
アップしたんですってレベルじゃないだろ……こりゃ上がりすぎだ……