33 ようやく来たか!
最近よくダンジョンに行くなぁ。
白騎士時代にはあり得なかったことだ、環境が変わればこんなものなのかな……
「今回のダンジョンは近場で良かったですね!」
ラピスがなんだか嬉しそう、はしゃぎながら話しかけてきた。
街の路地にひっそりとできたダンジョン、今回の依頼はここにあるアイテムの採取だ、このダンジョンなら俺でも場所くらいは知ってる駆け出しの冒険者が腕試しに入るような簡単なところだ。
はっきり言って楽勝、こんなところに行くだけで金貨を5枚も手に入れられるなんてな。
マジメな仕事の依頼ってことでシロナには帰ってもらった。
一緒に来たがっていたけど、騎士が関わってるし変に目をつけられたら今後シロナが騎士になれなくなってしまうかもしれないしな。
同じく騎士や街人の目があるからリューガルも留守番しててもらうことにした。
という訳でなんだか久しぶりのラピスと2人きりだ。
帽子山の一件以降ずいぶん賑やかになってしまったから新鮮だ。
「騎士団長っていうからすごく威厳のある人なのかと思ってたらすごく元気な方でしたね、意外でした……」
『赤門』グレン様、はじめてちゃんと話をしたけど、聞いたことがある通りの豪快な人だった、俺なんかにこんな依頼をしなくても他に頼めそうなアテはありそうなんだけどなぁ……
「他の騎士団長はあんな感じじゃないよ……まぁ青騎士団長は俺よりも年下で若くしての大出世だからある意味目立ってるけど、みんな落ち着いてるかな」
「じゃあグレンさんが変わった方なんですね、悪い人には見えないですけど」
「グレン様もそんな歳じゃないだろうし、マジメなんだろうな……そうじゃなきゃ認められないだろうし」
俺にはあまりにも縁のない話だ……
どうすれば騎士団長になれるのかなんてことすら考えたこともなかった。
「あの……サレムさん……」
なんか急にラピスがかしこまった、どうしたどうした……悪いことでも起きたんじゃないだろうな……
「私が倒れてしまった時のことずっとお礼も言えてなくて、気になってたんです……」
そういえばそうだった……
「あれからリューガルが住み着いたりで、バタバタしてるもんな、楽しいけどラピスは病み上がりで無理になったりしてない?」
俺の問いかけにラピスは横に顔を振った。
「ううん……全然そんなことないんです……りゅーちゃんと一緒にいれて嬉しいですし、シロナちゃんもいい子そうですし……」
「そっか……ならよかった、ラピスの体調がまた悪くなったら大変だもんな、これからはそうなる前に言ってくれよ」
ラピスはほほをピンク色に染めて下唇を噛み締めていた。
「はい」
今度はニコッと俺に笑いかけてきた……
どんな心境なんだかわからないけど、悪くは思われてなさそうだ。
そんなことしてるうちにもう到着だ。
街の中をちょっと進んでいった廃墟の並ぶ路地を少し入った場所に楕円形で人ひとりがちょうど入れそうなくらいのダンジョンの入口が見える。
公営のダンジョンだけあって黒騎士団がダンジョン前に立って警戒をしてる。
今までの野良ダンジョンとは違って管理もしっかりしてそうだから無理もなさそうだ。
「さぁ、行こう」
「はい!」
サクッと終わらせてさっさと帰ろう!
たまにはこんな依頼があってもいいだろ、日頃頑張ってる俺へのご褒美的なものだと思うとしよう!
「おっ、ようやく来たか」
んっ?
なんか声が……
まさか……この声は……
「準備はできてるな? じゃあ行くとするか!」
「いやいや! ちょっ、ちょっと待ってください!」
グレン様!? なんでダンジョンの前にいるんだよ???
「どうした? 何かあったか?」
「なんでグレン様がここに? もしかして一緒にダンジョンへ行くつもりなんですか?」
「ダメなのか?」
えええええええぇぇぇぇ…………
訳わかんねぇよ……なんで依頼をしてきた人と一緒にダンジョンに行くことになるんだよ!
「まあまあ、サレムさん……強い方なんだとしたら一緒に来てもらえるのは心強いんじゃないですか?」
そうは言ってもなぁ……相手は赤門だぞ……
緊張で心臓が飛び出るだろ……
「なぁ別に俺が一緒じゃダメなんてことないんだよな!?」
「あっはい、すみません、大丈夫です!」
バカ……俺の小心者!
勢いで返事しちゃったじゃないか……
「よし、じゃあさっさと行こうぜ!」
完全にグレン様ペースだ……
一気に一緒に行くことにされてしまった……
いや、待てよ、いくら赤門と言っても他の騎士団の管轄に入ってくのはまずいんじゃ……
「よぉ、ご苦労!」
めちゃくちゃ普通に警戒の黒騎士に向けて挨拶をした!!
「えっ!? グレン様? お疲れ様です! どうなさったんですか?」
ほら……黒騎士もびっくりしてる……アポ無しでいきなり行くのはまずいって……
素直に俺にやらせてもらえればいいのに……
黒門に怒られるんじゃないか……?
「黒門から聞いてるだろ? まさか知らねぇハズねぇよな、今日俺が来るって」
「えっ!?」
絶対知らないって顔してる……
なんだ予め騎士団長同士で連絡取ってたのか、でもそれなら安心だ。
「じゃあ行かせてもらうぜ、こいつは俺のツレなよろしくな!」
「ええぇっ!!? ってお前はスマイル! なんでお前が……」
やば……俺のことバレてる……
そんな矢先にグレン様が黒騎士に詰め寄る。
「文句ないだろ? 俺が決めたことだ」
警戒の黒騎士はずっとあんぐりと口を開けたまま、俺らがダンジョンに入っていくのを眺めていた……




