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19 白騎士団長『アッシュ・ド・ベルナレク』

「久しぶり……と言うほど日が経った訳ではないが、ずいぶん懐かしく感じるものだ……」


 アッシュ騎士団長は話を聞くためか俺を大聖堂に案内してくれた。

 図らずも目的は達成できたが、状況は最悪だ……


――アッシュ・ド・ベルナレク――

 白騎士団長、通称白門と呼ばれる白騎士団のトップだ。

 44歳と白騎士団を総指揮する者としては若い年齢だが、冷静な状況判断と実力で大っぴらに文句をいう奴は聞いたことがない。

 人としては末端の俺の名前も覚えてくれているし、気さくって言う雰囲気ではないが割と話も聞いてくれる。話しかけづらいと感じたことはない、人としての敷居が高いタイプではなかった。


 話せばわかってくれる人だとは思うけど、さすがに忍び込んで城の重要な場所に行こうとしていたのはまずいよな……

 さすがの騎士団長も見た目こそ冷静だけど、腹ワタが煮えくりかえっていることだろう……


「すみません……こんな形で会うことになってしまって」


「ここまでの侵入は簡単だっただろ? サレム、君がいなくなってから騎士団はボロボロだ……」


「俺がいなくなったせいで……?」


 確かにここまではなんの苦労もなく入れてしまった。むしろ心配したくらいに……

 でもそれが俺と何か関係があるのか?


「多くの騎士が蔑みの目で見ていた男一人が追放されただけでまさかこれほど連携や伝達が滞るなんてな……私自身も驚いている……君がいた十年ほどで騎士団は随分と腐ってしまっていたらしい」


 自虐し、蔑むように笑みを浮かべ騎士団長は呟いた。


「ここに来た理由はなんだ? 分かっているだろうが一応処刑覚悟で来てはいるんだろうが」


 どうする……本当のことを言うべきか? 言って分かってもらえるのかな……


「あの……俺は、その……何かを盗みにきたとかではなくて、事情があってここに来たって言うか……」


 そういやなんで騎士団長は一人で大聖堂になんていたんだ? この人こそ何か用があってここにいたんじゃ……


「そうだろうな。サレムは追放されたとはいえ盗みを働くような者ではないことくらい理解してるつもりだ」


「ありがとうございます……俺だって忍び込むなんてマネしたくはなかったんですが……この大聖堂くらいしか心当たりがなくて……」


「心当たり? なんの用があってこんな場所にくる必要がある? その変な姿勢とは関係があるのか?」


 げっ……そうか。ラピスを背負ってるけどラピスは他人には見えないから俺の格好だけ変に見えるんだった……


 言い訳も微妙だし覚悟を決めるか……

 言うことでラピスを危険に晒すことになったりしないよな……


 ラピスはこんな状況なのに寝ている……よっぽど具合が悪いのかもしれない……


「あの……実は俺……」


 アッシュ騎士団長に加護を受けられなかったのではなく女神ラピスと契約していたことや、そのラピスが具合が悪くなり心配で藁にもすがる思いでここまで来たことを説明した。

 見えもしない相手の話だ。嘘だと思われても仕方がない……

 こんなとこまで来て嘘までついて逃げようとするととられたようならその場で切り捨てられても仕方ないくらいのことだろう……


「女神と契約か……聞いたことはないな……」


「やっぱり信じて貰えませんよね……」


 アッシュ騎士団長は人差し指で口を抑えるような仕草で考え込んだ。


「にわかに信じがたいのは確かだ。だがそんな虚言をついたところでサレムに得はないはずだ……丸腰できて加護を受けれなかった恨みをはらしにきたと言うのも考えづらい……ならば女神がいるととることを妥当とするべきか……」


 なんかすごい考えてる……


「俺はただ、神様に関係することで唯一心当たりがあるのがここってだけで……」


 アッシュ騎士団長は大聖堂の中央にある、加護を受けるための魔法陣が描かれた床の間へ移動した。


「昔の話だがな……これでも私も神官の端くれだったんだ」


「騎士団長が?」


 そんなことがあるのか?

 元神官が騎士になってそこで騎士団長にまで登り詰める? どんなサクセスストーリーを歩んでるんだよこの人……


「元々騎士の家系だったからな。神官で一生を終えるつもりでいたはずが家庭の事情で無理やり騎士に転職させられてやりたくもない騎士団長だ……」


 自虐風自慢か……? さらっと言ってるけど俺には全て不可能なくらいすごい家系で、勉強家で、努力家でもあるんだろうな……

 天上人すぎて嫉妬すらできないぞ……


「昔神官だったせいか今でも大聖堂にいると心が落ち着くんだ……」


「だから大聖堂にいたんですね」


 アッシュ騎士団長を中心に魔法陣が白く光り出した。もしかして俺のために何かやってくれるつもりか?


「やはりダメだな……」


 えっ? 早!? なんか一瞬何かやろうとしたけどすぐ終わったぞ……

 もうちょっと頑張れたんじゃ……?


「大聖堂に神が降り立つのは年に決められた数回のみでそれ以外はここはいない。試しに確認してみたがやはりいないようだ」


「今はそれを確認してくれていたんですね……それじゃもう打つ手なしか……」


「そんなことはない……城をしばらく抜けたところにある帽子山を知ってるか?」


「もちろん。帽子を被ったみたいにかわいい形をした山ですよね?」


「そこは神官が最後の修行に使い、頂上は神の通り道と言われる場所だ」


 そこならもしかして……


「ありがとうございます。そこへ行ってみます!」


 ここに来て良かった。もしかしたらそこでラピスを治す方法が見つかるかもしれない……

 急いでここを出ようとした時だった。


「サレム」


 厳しい声で騎士団長に呼び止められた。

 よく考えたら入ったらいけない場所に俺は来ていたんだった……

 このまま処刑されてもおかしくないんだった。いくら楽に話をしてくれたと言ってもここでじゃあさよならってわけにはいかないよな……


「すみませんでした! 俺はどんな処罰も受けます。ただラピスを治してからにしてもらえませんか!」


 このまま処罰されたら誰にも看取られないままラピスは孤独になってしまうかもしれない……そんなのかわいそうだ。


「処罰? 何を言っている……」


 あれ、違ったみたいだ……


「今は充実しているか?」


 なんだその質問……なんでも屋はやっているけどそんなに儲かってはないよなぁ。報酬はノーナちゃんの銅貨一枚くらいしかないしな……


「はい、自分なりに精一杯やっています!」


 それでも馬鹿にされながら悶々を生きていた騎士での暮らしより充実してるのは間違いないか! ラピスもいるしな。


「そうか……」


 なんだろう、騎士団長は少し寂しげな顔をしたように見えた。


 そのまま騎士団長に引き止められたり、処罰をされるようなことは本当になく行きと同じくすんなり城を抜けることができた。

 帽子山……そこへいけばラピスを治せるかもしれない……


 少し胸に引っかかることがあった。


 騎士団長の質問……

 あそこで俺が「充実してません」と答えたらどうなっていたんだろう……


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