15 非情な戦力差
伝説の巨人と言われたデイラをたったの一撃で倒せてしまった……
俺自身が一番驚いている。ここまで強くなってしまったことに怖さすら感じる……
「貴様……危険だな……」
グウの声だ。トカッツさんうまく足止めしてくれたお陰でデイラを倒せ……
「ああぁ………」
ラピスの声が震えてる、何が……?
「トカッツさん……」
グウの足元で血を流して倒れている。血は腹あたりからか?
「聖騎士と騎士長の戦力であればこうなって当然だ、スマイル……貴様が俺の剣を止められたのがおかしいんだ」
これがステータス差の現実なのか……
グウの言葉なんて入ってこない。それよりもトカッツさんにまだ息はあるのか?
かなり出血しているしすでに息があるのかすらわからない……
「ガハッ……」
トカッツさんは血を吐いて苦しそうにしているが、まだ息があるみたいだ。
急いで駆け寄ろうとするとき、胸あたりに衝撃が走った。
「痛……」
何かが刺さったような鋭い痛みだ。
目の前をバサッと青い物体が上昇していく。
これはグウの肩に乗っていた青いカラスだ。
こいつが突き刺さって来たのか。
「こんなところに来なければ死なずに済んだのにな!」
グウも俺の前に現れた。
「どけ!」
こいつなんかより、トカッツさんのことだ!
「胸を突かれたのになぜ動ける!? まあいい貴様もトカッツと同じようにすぐ殺してやる!」
グウが剣を俺の腹に向けて突き刺そうとして来た。
ジャマだって言ってるだろ!
ビキィィィィィ!
「剣は騎士の魂だ、引いてください」
グウの剣を切り落としてやった……
奴は刃の折れた剣を怒りと驚きの混じった顔で確認している。
「この俺が……スマイルごときに……」
青筋が顔中に入り怒りに満ちている。
折れた剣を投げ捨てグウは俺から離れた。
「覚えていろ……次は確実に殺してやる……ソラ行くぞ」
捨て台詞を吐いてグウはこの場を去っていった。
『ソラ』と呼ばれた青いカラスも追いかけるようにグウと共に去っていった。
「今度こそ周りに誰の気配もなくなりました……」
ラピスがホッとしたように息を吐き俺に告げた。
トカッツさんは……
急いで倒れるトカッツさんの元へ行き声をかけた。
「トカッツさん頑張ってください! ノーナちゃんが待ってますよ!」
この人はこんなところで死んじゃいけない人なんだ……
トカッツさんは薄目を開け俺に返事する。
「サレムくん……素晴らしい攻撃だったぞ。私など初めから超えていたんだな……」
苦しそうなかすれる声……
「マリア、ノーナ……済まなかった……やはり無理するべきでは無かった……」
やめろよ……ここで死んじゃうような事言わないでくれよ……
トカッツさんはそのまま目を閉じた……
「ウソだろ……トカッツさんのことを待ってる家族達がいるんですよ。こんなところで死んじゃだめだ!」
俺だってまだ教えてもらいたいことがあったのに……
騎士団は何を考えてるんだ……こんないい人を追放して、騎士の宝と言っても過言じゃないくらい真っ直ぐな人なのに……
ノーナちゃんになんて言えばいいんだよ……
胸が、痛くなる……
そういえばグウのカラスに胸を突かれたのに痛くないな……
あれ……傷が塞がってる?
そういやあの攻撃だけでも俺なんて死んでもおかしくなかったはずじゃ……
「あの……お2人の傷、治してるはずなんですが……」
えっ、だからか……ここまでの長い戦いもずっとラピスが治していてくれたから無事でいれたんだ。
ん……? 今2人って言ったよな……
ってことはトカッツさんも……?
「…………っ」
おいおいおいおい!
トカッツさん、空気に入り込んじゃって目を閉じちゃってるじゃねぇか!
この手のタイプの人を変な感じにさせるんじゃないよ!
「……」
まさか死んでないなんて思わずにトカッツさん困ってるぞ!
変な汗かいてきてるじゃねえか……
どうするんだよこれ……
◆
「変に突っぱねてしまって済まなかったな、大変世話になった」
トカッツさんが白々しく目を覚ましたときのことは本人のためにも忘れよう……
とにかく無事に達成できて何よりだ。
トカッツさんはギルドにクエスト達成を報告するため戻るらしい。
話がてら俺もギルドの根城の掘建て小屋までついてきた。
「ノーナちゃんに今のことをちゃんと説明してあげてください。すごく悲しそうな顔で俺に頼みにきたんです」
「そうだったな。本当ならもう少し落ち着いてから話をするつもりだったんだが、君に言われるのなら仕方ない。帰ったらしっかり伝えるとしよう」
よかった、これで少しはノーナちゃんも安心してくれるかな。
「トカッツさんはなんでこんな若い奴らばっかりの俺から見ても良いとは思えないようなギルドに入ったんですか? さすがにもっといいところがあったんじゃ?」
掘建て小屋では今も下品な笑い声が上がっている。こんな品性もなくトカッツさんのことを大事にもしてないところに所属する意味なんてないだろ……
「先にも言った通り私は身に降りかかることは全て試練だと思ってる。試練で楽をしては意味がないからな。ここは私が知る中で最も評判の悪いギルドだったから選んだんだ」
なんて人だ……意識が高すぎるだろ……
「全部分かっててあえてここを……」
「騎士にとってギルドはいいイメージはないが、中に入ってみなければ本質はわからないからな。私はそこに入りそのギルドを知り変えてみたいと考えている」
「あいつらを?」
トカッツさんは聞いてないかもしれないけど、いなくなってからもトカッツさんの悪口をゲラゲラ笑いながら話してた奴らだぞ……?
「じゃあ私は戻って報告するとしよう。私を死んだと思ってるギルドメンバー達にな」
トカッツさんはギルドのいる掘建て小屋に戻って行った。
「パワフルな人ですね、トカッツさんて……」
「ああ……」
なんでだろう、不思議とトカッツさんならできてしまうような気がしてくる。
「「えっ!? お、おっさんだ!」」
はは……さっそくギルドの奴ら驚いてる……
「ただいま帰った。無事クエストは成功だ」
「ウソだろ……本当に無事だったのかよ……」
「ああ、キッチリと達成だ! これで文句はないだろ?」
「は、はいっ! いや、え、えーっと達成したからって浮かれるなよ。お前はうちの下っ端なんだ!」
「もちろんだ。これからもどんな依頼もこなしてみせる」
ギルドの奴らかなりトカッツさんにビビってるな……
こんなに強い人だって思ってなかったんだろう。




