14 圧倒的攻撃力
ーー奇人グウ・ソグォリアーー
肩に青いカラスを乗せ牧師の様な服装をした変わった騎士だ。戦いぶりなんて見たことないけど、聖騎士をやるほどだから実力もかなりのものなんだろう。
巨大なモンスターを引き連れて広間にやってきたってことは考えたくはないけど、このダンジョンであったことはこの人の仕業だってことだよな……
「追放された者同士で仲良くダンジョン巡りだなんて暇人はいいねぇ」
蔑む様な目で俺達を見て語ってきた。
この人は何をしてくるかわからない。今まで以上に要注意だ。まずいな、巨大モンスターもいるって言うのに……
「まさか聖騎士様が直々にここに来るとは知らなかったぞ。久しぶりだなグウ!」
この2人知り合いなのか? トカッツさんは全く気を抜いてはない。話しかけてはいるが攻撃に備えてる。
「我が同志トカッツよぉ、こんな形で会うなんてなぁ……一緒に騎士になった時には思いもしなかったがこれも運命か」
「私はこの試練を乗り越えてみせる……」
「乗り越える?」
巨大なモンスターがサーベルを振り上げた。
「君はただ死ぬだけだよ」
サーベルが振り落とされる。
これだけわかりやすい一撃ならいくら強い相手でも回避できないことはない。
俺もトカッツさんも斬撃射程から身をずらした。
グシャ
という音とともにサーベルが地面に減り込み、それに合わせて衝撃波が飛んできた。
「うっ!」
衝撃波で体が飛ばされ倒れ込んだ。
「サレムさん!」
「大丈夫、飛ばされただけだ」
すぐに体勢を立て直してモンスターに向けて構える。
かすり傷ができた程度、これくらい大したことない……
ただあのモンスターの攻撃は要注意だな。サーベルを普通に避けるだけじゃ斬撃の衝撃波に巻き込まれる。
「あの2人のステータスは?」
危険な相手だ、さてどの程度の強さなのか……
ラピスは頷いて、ステータスを表示させた。
[ステータス]
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名前 グウ・ソグォリア
攻撃 406
防御 806
魔力 1004
精神 278
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名前 デイラ
攻撃 888
防御 1056
魔力 10
精神 10
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うわっ……両方強っ……4桁があるじゃないか……
トカッツさんでも勝てないんじゃないか……
この中に防御5の俺がいるのはかなりやばいだろ。息吹きかけられただけでやられるんじゃないか……?
とりあえずトカッツさんもさっきの攻撃でダメージはなさそうだ。
このモンスターだけでもやばいのに……
チラッとグウに目を向けると見下すように冷たい目でこちらのことを眺めている。
トカッツさんが俺に近寄り話しかけてきた。
「グウは『テイム』の加護を受けている。この巨大なモンスターを操ってるのも奴だ」
「ってことは倒すならグウからの方が?」
「いや、グウ自身もかなりの剣術を持っている。それに加えてモンスターがいると分が悪い。先にモンスターを倒すべきだ」
「わかりました」
ここを切り抜けるためにはなんとしてもグウから逃れないといけない……
「サレムさん……ご無事で……」
ラピスは祈るように手を合わせてる。
「神様でも神頼みってするんだな……」
「そ、そんなこと言ってる場合じゃ!」
フフ……まだ気持ちに余裕はあるな……
俺はトカッツさんのフォローにまわる。さっき教えてもらったことを出し切ってみせる!
トカッツさんは間合いを取りながら、モンスターの出方を伺っている。
ここは集中だ、冷静に冷静に……
極限まで感覚を研ぎ澄ませる。
モンスターの腕が動いた、来る!
先の一撃とは比べ物にならないくらい素早くモンスターが動き、サーベルを水平に振り回した。
俺とトカッツさんを同時に始末するつもりだ。
トカッツさんは攻撃に対応して飛び跳ねていた。
ダメだ、飛ぶのはまずい……
飛んで回避することを狙ったグウがトカッツさんの頭上にいる。
フォローだ、グウからトカッツさんを守る。
斬撃を躱すのと同時にグウに向けて飛んだ。
「チェックメイトだ」
グウの剣がトカッツさんに向かう。
トカッツさんはグウに気付いてもいないのかずっとモンスターに顔を向けている。
バチィィィィッ
なんとか間に合った。
トカッツさんを斬ろうとするグウの剣をはじき返した。
俺の低防御力でもグウの剣に向けた攻撃、パリィなら可能だ!
弾かれた剣を見てグウは目を見開いていた。
「信じていたよ、守ってくれるとな」
その隙にトカッツさんはそう言ってモンスターに向かっていった。
まさかグウに狙われてることを分かってたのか?
それでも俺を信頼してモンスターに向かった……
トカッツさんがモンスターの間合いに入る。
よし! モンスターはさっきの一撃で体勢を崩してる!
グァキィィィィィ…………
渾身の一撃に思えた攻撃はモンスターの硬い鎧に弾かれた。
「ムゥ……頑丈だな、やっかいだ……」
せっかくのチャンスだった……4桁の防御の前ではいくらトカッツさんの600台の攻撃力でも通じないのか……
「トカッツ……いくら君の『剛剣術』の加護でもこの鋼鉄魔人『デイラ』の体には傷がつかないんだ」
「やはりそうか……伝説の魔人『デイラ』……そんなものまでテイムしてるとはな」
このモンスターさっきのステータスに『デイラ』って入ってたな……伝説のモンスターだったのかよ……
だからこそこんな高いステータスだったのか。
「大丈夫ですサレムさん!」
ん? ラピスか、大丈夫って何が?
「自信を持ってください、サレムさんなら大丈夫です!」
大丈夫って言われても……
俺の攻撃力がいくら高くてもトカッツさんですらキズもつけれないほど硬いモンスターじゃ、反撃でもされたら瞬殺だし……
あっ、油断してた、デイラがまた攻撃を……
サーベルが振り落とされたが、ギリギリで気付いたおかげで回避できた。
今度は俺だけを狙って来たみたいだ。
「うっ……」
あいかわらずすごい衝撃だ……これだけでも苦しくなってくる。
「気を抜くな、ずっと死と隣り合わせなんだぞ」
トカッツさんの激励が身に染みる……確かに今のだけでもやられてしまいそうだ。
クソ、ラピスが妙なこと言うから……
「サレムくん、次は君が攻撃してくれ、私がフォローにまわる」
「えっ、俺の攻撃なんて……」
「大丈夫だ、君ならやれる」
トカッツさんもラピスと同じようなことを……一体なんなんだよ。
どうなっても知らないからな……
やれるだけのことはやってやる、攻撃に意識を……
剣を持つ右手に力を集中させる。
デイラが振りかぶった。
構うもんか、それより前に一撃を入れてやる!
「スマイル! 貴様力を隠していたな!」
グウがすごい形相で迫って来た……
今はデイラの方だ、グウはトカッツさんがなんとかしてくれるはず!
気持ちは決まった。
これが攻撃9999の威力だ!
ドスゥゥゥゥゥゥゥン
デイラの上半身だけが地面にずり落ち地響きを鳴らす。
自分の右手を見つめていた。
トカッツさんが傷すらつけられなかった相手をこの俺が……?
「これが俺の力……」




