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11 トカッツさんの意思は硬い

 ギルドが集まっていた掘建て小屋から、さらに街の反対側に歩いていったところでトカッツさんは足を止めた。


 黒い空間がある。こんなところにダンジョンがあったのか。

 ダンジョンを管理するものも看板も出ていないから野良ダンジョンだろうな。案外とあるものなんだな……


「トカッツさん!」


 騎士の慣しに従うなら上の序列の相手には『様』を付けて呼ぶべきなんだろうけど、世間じゃおかしいから『さん』付けだ。


「ん? 君は……?」


 トカッツさんは俺のことがよくわからないみたいだ。


「えーっと説明が難しいんですけど、俺はちょっと前に白騎士団を追放されたサレムっていいます。 今は色々やってるんですけど……トカッツさんに対しての依頼が来たんでここまできたんです」


「君も騎士団を……? 妙な縁だな、私も同じく追放されたんだよ」


 自虐するように嘲笑いながら俺に返事した。


「いやトカッツさんほどの人が俺と同じだなんてこと……」


「同じだよ、今はこうやって地道に働いてる」


 トカッツさんは元とはいえ青騎士団の騎士長の中で最も聖騎士に近いと言われるくらい有名な人だ。

 話すのは初めてだったけど、そんなに威張ってる感じもない。この人なら話を聴き入れてもらえるかもしれない。



「それで私への依頼とは何なんだ?」


「娘さんからです。 最近パパとママが変わってしまったと言ってました」


 トカッツさんの表情が険しくなった。


「家庭の問題だ、君には関係のない話だろ」


「俺もそう思います! でも聴いてしまったからには何もしないわけにはいきません!」


 家族の話で急に雰囲気が変わった。触れたらまずい部分だったか……


「君がうちの家庭に手を加えると……?」


「いや……そう言うわけじゃないですけど……」


「心配は無用だ。私は自分の力で家庭を守ってみせる」


「ひとつ教えてください。ノーナちゃんには騎士じゃなくなったことを言ってないんですよね?」


 トカッツさんの表情がさらに険しくなった。まずいな、失言だった……

 さっき聞いた話だけでも伝えないと、トカッツさんの命に関わる問題だ。


「今はだ……時期が来たら言うつもりだ」


「ギルドの人から今日のクエストの話は聞いているんですか?」


「思い出したぞ、君は白騎士団の加護を受けられなかったとかいう者だな……気持ちに添えなくてすまないが、私は受けた依頼を確実にこなすだけだ」


 そういうと俺に背を向けダンジョンに進み出した。


「その依頼本当に大丈夫なんですか!?」


「これでも腕には自信があるつもりだ」


「それはそうですけど……」


 ダメだ……聴き入れてもらえそうにない……


 それ以降俺に顔を向けてくれることはなく、ダンジョンの中に消えていってしまった……


 ラピスが不安そうにダンジョンの奥を見つめている。


「どうしましょう……このままじゃあの方、危険ですよ」


 ギルドの奴らはトカッツさんのことを見捨てているんだ。俺がなんとかして止めなきゃあの人は……


「行こう、心配だ……」


 何か裏がある……このまま放っておけるわけがない。

 

 ダンジョンへ飛び込んだ。




 あれ……明るい。 前のダンジョンは真っ暗だったのに今回のダンジョンは照明が付いている。

 しかも見たことのない模様が刻まれた石材できっちりと作られている建物の中みたいだ。


 ダンジョンにも色々なバリエーションがあるんだな。


 それはともかくとして、トカッツさんの姿はもう見えない。先に進んでしまったみたいだ。


「ラピス、トカッツさんがどこにいるのかって調べられるか?」


「すみません……ここにはたくさん生き物がいるみたいで、どれが先ほどの方なのか判別できません……」


「たくさんの生き物ってモンスターだよな……?」


「はい、そう呼ばれてる生き物達だと思います」


 やばいな……そんな危険なところにひとりで行かされてるのか。

 トカッツさんがどこに行ったのかも分からずじまいじゃ手詰まりじゃないか……時間はないけど、進んでみるしかないか。


「サレムさん、あそこに……」


 ラピスの指差す先には真っ二つに切り裂かれたモンスターが転がっていた。

 これはウォーキングアーマーか。全身を鎧で固められたゴツいモンスターだ。騎士ひとりでは倒すのが困難なくらいには強い相手だぞ。トカッツさんに襲いかかって返り討ちにあったのか。


「たくさんモンスターがいるんだよな?」


「はい、このダンジョンはすごく多いみたいです」


 ならもしかしたら……


 朽ち果てたモンスターの周りを見渡すと奥に倒れたモンスターがいた。

 やっぱりだ。あちこちにモンスターがいてそれがトカッツさんに襲いかかってきてるんだ。ってことは逆に倒れたモンスターを辿っていけばいる場所がわかる!


「サレムさん、危ない!」

 

 はっ、モンスターだ!

 二足歩行の猫型のモンスター『デスキャット』が爪を立たせて両腕を広げ迫ってきてる。


「シャァァァァァァァッ!」


 けたたましい雄叫びと共に殺意満々でこっちに向かってる。


 慌てて剣を構えて相手の攻撃に備えた。


 レッサーサイクロプスに比べれば勝てない相手じゃないはずだ……集中だ。


 デスキャットの右手が振り落とされ向かってきた。

 狙いは俺の頭だな……


 サッと身を屈めて右手を回避する。まだ気は抜けない、すぐ左手が来るはず。


 予想通り左手が爪をギラつかせ迫ってきた。今度の狙いは腹か。この体勢じゃ回避できない。


 ギィィィィン


 剣で左手を弾くと、金属のぶつかり合うような高音が響いた。


 金属並みの強度を持つ手を持ってるのかコイツ……


 でも、見えるぞ……


 デスキャットの攻撃はまだ終わらない。

 

「悪いな」


 時間はかけてられないんだ……


 デスキャットが再び腕を振り上げた時には、俺の剣は振り終わっていた。


 バクっという乾いた音と共にデスキャットは頭から左右半分に分かれ地面に倒れた。


 改めて実感できた、この強さは本物だ。

 レッサーサイクロプスを倒せたのも偶然じゃなかった。


 初めてこんな強くなることができた……

 もっと早くこの力に気付くことができれば俺は……


 あっ目の前にもう一匹デスキャットが!?


 しまった自分のパワーアップに酔ってて気付かなかった。

 さっきの奴よりもでかい、やばいやられる……



 その時、俺の後ろから火の玉が飛び、デスキャットを火で包んだ。


「油断大敵ですよサレムさん」


 ラピスの魔法か、助かった……


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