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81話:合宿〈13〉

この後どうしよう。

俺達が席につくと同じくしてルーファ班が中に入ってきた。

オークの様な体躯を持つゴーレムは彼女達の姿を見つけると威嚇するように雄叫びを上げ、ルーファは体をピクリと震わせた。

だがその目には確かな炎が宿っている。

ギラリと相手を人睨みし、また歩を進めた。

俺の少し横からはソラがルーファのことを応援している。

ルーファは胸の前で小さくだが手を振り返し、その手が降ろされたとき開始の火蓋が切って降ろされた。


[雷槍らいそう]」


ヘンクから放たれた魔法は鋭くゴーレムの体を貫いた。

しかし穴が開いたそこには再び砂が流れ込まれる。

魔力石に当たらなかったようだ。


「はぁっ!」


カエラが手をかざすとゴーレムの頭上に青色の玉が現れ、大量の水が滝のように落ちてきた。

その水を砂が吸い込み、濃い茶色へと変色していく。


「あれは何をしているんでしょう…」


隣のスフィアが呟いた。


「いやそれよりも今彼女は詠唱をしていなかったように見えたぞ」


ヴェノムが食い入るように手すりに乗り出した。

今にも落ちそうになっているヴェノムを必死に引っ張りながら、俺はそうかと思い出す。

なぜ今ヴェノムが詠唱をしたことに驚いたのか。

それはこの世界の人たちの中では詠唱が魔法を発動するうえで重要というのが当たり前だからだ。

俺がこの世界に来る前、つまりレグと初めて会った日、俺は魔法について教えてもらった。

この世界の魔法はイメージが大事だと。

だが世界の共通認識は歴史が流れるにつれ、いつの間にか魔法に名前を付け、詠唱することが発動条件にすり替わってしまったのだ。

それにより魔法の威力が落ち、魔物に対抗できない人たちを守る騎士や冒険者が死んでいってしまう。

人口の減少もそれが原因かもしれないが、レグが直接世界に干渉することはあまりできないため、その現状を打破する手段がないとか。

こんなことを言っていた気がする。

その証拠にヴェノムや俺達とは闘技場の反対側にいるファセットさんやレイも驚いている。

俺はやっとのことでヴェノムを席に座らせると、さっきスフィアが言っていた質問に答えた。


「あれは多分脆くしてるんだ」


「もろく?」


「そうだ。例えばスフィアは水を操ることが出来るだろ?」


「うん。そこらへんにある水でも操れるよ」


そう言って手の上に水の玉を作る。

空気中に含まれている水を集めて、こんなことが出来ているのだ。


「そう、自然にある水なら俺でもスフィアと同じように操ることが出来る」


俺も彼女をまねて手のひらに水を集めた。

だがスフィアは首をかしげている。

俺は説明をつづけた。


「そこでスフィア、俺が操って集めた水をスフィアは操れるか?」


手をスフィアの前に差し出すと、彼女はまだ頭にハテナを浮かべた表情で俺を伺った。


「…操れるよ?」


きょとんとした表情でそう、告げられた。

それを示すかのように俺の手のひらにあった水はふよふよと彼女のもとに浮かんでいくと、彼女の手のひらで止まった。

俺は間抜けな顔をしていただろう。

自然とこんな声が漏れだした。


「…へ?」


「え、アーグどうしたの?私おかしいこと言ったかな?」


え、いや、あれ?俺がおかしいのか?

そう思い、スフィアが最初に操っていた水を動かそうとする。

しかし、それは当たり前のように動かない。

俺はしっかりと自分の魔力をその水の玉にあてたのだ。

だが動かない。自分の思った通りに動いてくれない。

…当たり前だ。


「そもそも他人の魔力が干渉している物体は動かせるはずがない」


そう、だから俺はスフィアの魔力で操った水の玉は動かせないし、逆にスフィアも俺の水の玉を動かせるはずがない、はずなのだ。

そこで俺の言葉を聞いていたヴェノムが話に入ってきた。


「アーグ君の言っていることは正しい。もしアーグ君の作った水の玉を長時間放置していたら別の話だけどね」


その場合、俺の作り出した水から俺の魔力が抜け、何者でもない、空気中の魔素として存在するからだ。


「うーん、まあ私がなんで操れるかは分かんないし置いておこ。それよりなんで脆くなるの?」


スフィアの中でこれはあまり重要ではないらしい。

それどころかもう答えを知っているような、そんな感じだ。

でも彼女の言う通り今考えたところで俺が考え付くことでもないだろう。

だから俺は説明をつづけた。


「つまりあのゴーレムは自然の砂や土を操ってるんだ。人間と同じようにかは分からないが多分ほとんど同じだろう。あの魔力石が魔力を放ってね。でもそこにカエラの魔力が干渉している水が入り込む。魔力が干渉していると言ってももとはただの砂だからね、水を吸い込んでしまう。そうするともう見ての通りだ」


スフィアの視線が俺からゴーレムへと向かう。

その先にあったのは何とか砂を操り、体を作り直そうとしているが立っては崩れ落ち、立っては崩れ落ちと既に形を保てなくなっているのが分かる。


「わぁ…」


口を開き、感嘆の声を漏らしている。

それを見て少し笑いそうになるが、ルーファが炎の玉をを作り出したことでそんなこと吹き飛んでしまった。


「うゎ、ここまで熱気が飛んでくるよ」


彼女の言葉通り、直径1mほどの炎の玉から発せられる熱が遠くにいる俺達の元まで飛んできている。

それは周囲の空気をも巻き込み、ルーファの手の動きに合わせるようにゴーレムをめがけて飛んでいった。

その瞬間、

バンッ!

という轟音と共に爆発した。

その爆発は周囲の砂を吹き飛ばし、スピードを持ったまま飛んでくる。

スフィアは俺達の周りに水で結界を貼り、俺はそれに重ねるように魔素を固めた。


数秒経った頃、反対側にいたリスタが闘技場内の土煙を風で吹き飛ばしたおかげで視界が見えるようになった。

どうやらあちらも防御は間に合ったらしい。

魔素を霧散させ、スフィアが水の結界を解いた。

肝心のゴーレムはと見てみると地面に大きな穴がある以外跡形もなく消えていた。

もしかしたらカエラが脆くしなくとも勝てたのかもしれないが、念には念を入れることが大事だ。

ゴーレムが砂を操って魔力石を守ってたら破壊には至らなかったのかもしれないと考えたらカエラの功績はたたえたほうがいいだろう。


爆発をさせた本人はと言うとあわわわわと口を開きながら驚いている。

この中で一番驚いてるのは彼女だったかもしれない。


読んでくださりありがとうございます。

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