80話:合宿〈12〉
短いですごめんなさい。
ソラ班と変わるように俺たちは中へと足を踏み入れた。
さっき彼女達によって倒されたゴーレムは、またアオさんの魔法によって周囲の砂をかき集め体を形成している。
素早さに特化した人型のゴーレムは口から砂を垂れ流し、獲物を今か今かと待ちわびているように見える。
ソラ班が出した記録は24秒。
正直いてかなりきつい試合になるだろう。
でも負けるわけにはいかない。
その気持ちはスフィアもヴェノムも同じで、目を合わせると大きくうなずいた。
「やってやろうじゃねえか」
俺を中心に左はスフィア、右はヴェノムの順で歩を進める。
そしてゴーレムとの距離およそ50mの所で足を止めた。
顔はないのに砂の奥の瞳が俺を見据えている。
俺も視線を返し、口角をにやりとあげた。
大気中の魔素を周囲に集め、[身体強化改]で足と拳を強化する。
体を流れる空気が重くなり、熱くなる。
「はぁーっ…!」
大きく深呼吸をし、はいの空気を交換すれば俺の体はいつでも準備万端だ。
ちらとスフィアを見ると緊張からか肩が少し震えているのが見えた。
息も荒い。
そんな彼女に俺は一言だけ声をかけた。
「俺とヴェノムと、そしてスフィア自身を信じろ。俺はお前たちならできるって信じてるぜ」
スフィアははっと驚き、でもすぐに強くうなずいた。
ヴェノムもあぁと力強く肯定し、俺は顔を前に向けた。
相変わらず砂をよだれのように垂らしている。
それが足から吸収され、また体の一部となる。
辺りはしんとなり、遠くから潮の音だけが聞こえて来る。
俺達とゴーレムの間に青さんが立った。
そして大きな声で叫んだ。
「始めっ!」
地面を蹴り、走り出す。
ゴーレムがものすごいスピードでこちらに向かってくる。
だが刹那の思考の中で何かに気づく。
——さっきの奴と違う?
ソラの試合で相手をしていたゴーレムとは風格と言うかオーラと言うか、何かが違うように感じられた。
まるで、魔素を吸収した俺みたいだ。
「っ!」
たったそれだけ、刹那の思考をした俺の目の前には拳が飛んできていた。
間一髪でエビ反りの形でそらし、それを避ける。
スピードを保持したままの俺は拳の下を通り抜けた。
「くそっ!」
あんな状況から反撃なんか出来るわけもなく、俺はゴーレムの後ろ側に空気の層を作った。
それを足場にして思い切り踏み込む。
後ろを振り返るゴーレムのへそのあたりに手を突っ込む。
指先に魔力石の感触が伝わる。
が、すぐに逃げられる。
ゴーレムの砂が崩れ落ち、俺は虚空を殴りつけた。
「逃がすかぁあああ!」
魔力石が地面に落ち、ゴーレムと共に地中へ逃げようとしている。
虚空を殴りつけた俺の拳を思い切り曲げ、地面にたたきつける。
拳をあげると、めり込んだ砂の中に魔力石が粉々になっている残骸が見える。
手の甲は魔力石を殴りつけたときにめり込んだのか抉れており、多分激痛だろう。
だが[身体強化改]のお陰で全く痛くない。
他の二人を見るとどうやら俺が最後だったようだ。
左のゴーレムの心臓にあった魔力石は小さな何かで打ち抜かれたように穴が開き、右のゴーレムはヴェノムの持つナイフの先に魔力石が刺さっていてこと切れていた。
正直ゴーレムがあんな返しをしてくるとは思わなかった。
シルとの特訓がなかったらあのスピードにはついていけなかったと確信できる。
終わった、そう思うと同時に段々と手の甲が痛くなってきた。
そろそろ[身体強化改]の効果も切れてきた。
俺は[回復]で手の甲をもとに治し、二人の元に向かった。
「お疲れ様。二人ともすごかったな」
「そうかな?ありがと、それよりアーグ手大丈夫?」
スフィアが眉をひそめながら俺の手を引いた。
ひんやりとしたスフィアの手が柔らかくて、顔が熱くなるのを感じ治したから大丈夫と一言告げ手を引っ込める。
俺の反応を怪しいと思ったのか、さらに眉をひそめたスフィアがむーと唸る。
不覚にも可愛いと思ったのは内緒だ。
「それにしてもアーグ君の最後の動きはすごかったね。私には対応できない速さだったよ」
「そう言ってもらえると嬉しいな。でも俺が最後に終わったから二人の戦いを見れなかったのが残念だ」
「ふふ、次は見れるといいね」
「私もアーグ君に負けないようにしないとな」
俺達の記録は13秒。
ソラは悔しそうに唸った。
「むぅ、我の班が負けてしまったか…。だが勘違いはするなよ!今回は我の班が負けてしまったが次は我の班が勝つ」
「ああそうだな。でも俺達も負けるつもりはない」
次の試合はルーファ、カエラ、ヘンク班対、ケリフ、ラスター、ヴァリス班だ。
ゴーレムの型はオークを1.5倍の大きさにした感じで、その体格の大きさのせいで魔力石がどこにあるのか見えなくなっている。
だがその代わりスピードは遅い。
ルーファ班の魔法や、ケリフ班の力をうまく生かせばいいタイムを出せるだろう。
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