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77話:合宿〈9〉

高校の友達と花見に行こうと予定を立てているんですが、行けるかわかりませんね。

スフィアを一度保健室へと運び、俺たちは再び闘技場に集められた。


「スフィア君のことは心配しなくても大丈夫です。ただの魔力欠乏ですから。直に目を覚ますでしょう」


直に、なんて言っているがスフィアの魔力量を考えると起きるのは少しあとになりそうだ。

でもせっかくの合宿を寝て過ごすというのも悔しいだろう。

俺が夜にこっそり回復しに行くとしよう。


「ならいいんだけど、あの扉は一体何だったんだ?」


レイが皆考えているであろう疑問を問う。

俺も間近で見ていたがあれが一体何だったか検討もつかなかった。

スフィアの魔力だけに反応し、シルだけが読めた文字。

個人的に調べるのも面白いかもしれない。


「私も分からない。今まで壁だと思われていたところが開くなんてね。ギルドにも確認したが、過去に一度も開いたことはないそうだ」


「俺も一緒に行ったが反応なかったからな」


「まあ今はギルドに任せるのがいいだろう。私たちには他にやることがあるからね」


「そうだな。それじゃあ今からタレストで行っている対人戦の訓練だ」


班を2つずつに分け、武器はなしで攻防戦をする。

そのつどハルマ先生が的確な指示を出しているので、元々飲み込みの早いサマの生徒は終わるころには体の動き、流れがスムーズになっていた。

それでも魔法を使う生徒は数段劣るが、これを繰り返し、実践で試していけばさらに力を伸ばせるだろう。

日が暮れ、辺りが暗くなった頃訓練が終わった。

皆体力には自信があったはずなのに、ハルマ先生が表には出さないが、実は張り切っていたそうでもうくたくただ。


「お前らこれでばててるなら明日からついてこれねえかもしれないな」


ハルマ先生が一瞬だけニヤッと笑った。


「あれは、はぁ、楽しんでますね…」


隣のヴェノムが耳打ちする。

汗でシャツが張り付いて、何とは言わないが、色気がすごい。


「そう…なのか」


俺は目のやり場に困り、目を閉じる。

いや、実に目の毒だ。


「ふふ、アーグ君も男の子なわけだ」


「なんのことですか?俺はもう行きますね」


まずい、この状況を引きのばされたらスフィアかカエラ辺りに何か言われる…。

俺は目を閉じたまま立ち去る。

が、足を引っかけられ倒れたところでヴェノムが俺の背中に乗った。


「敬語を使うなんて焦りすぎじゃないか?もっと話そうじゃないか」


地面に顔をつけている俺の耳元に口を寄せ、まるでASMRのようにささやく。

背筋がぞわっとする。


「そ、そんなことはない。ヴェノムそろそろ降りてくれないか?」


制服とはいえ、俺はシャツ一枚だ。

ヴェノムのぷにっとした柔らかな感触が直接と言っていいほど感じられる。

このままでは色々まずい。

俺が力を入れるが何故か動けない。


「それは重いと言っているのかな?女性にそんな言い方はないじゃないか。それと体の重心を抑えれば私でも簡単にアーグ君を抑えられる」


「そんなことは言ってないだろっ!いいから降りろっ!」


それでもヴェノムは変わらず俺の背中に乗り続ける。

闘技場にはいつの間にか俺とヴェノムしかいない。

皆疲れているから構う余裕もないのだろう。


「ひぃっ!」


足を俺の頭に絡める。

つまり俺の後頭部には…あぁ!考えたら負けだ!


「アーグ君は相当疲れているみたいだからこの元気が出る薬を飲ませてあげよう」


口に何か瓶に入った液体を口に流し込まれた。

俺は為す術もなくそれを受け入れてしまう。

そこでヴェノムに隙ができた。

俺は[身体強化改]でヴェノムごと持ち上げる。


「きゃっ」


勢いをつけすぎて宙を舞うヴェノムを両手で受け止める。

いわゆるお姫様抱っこと言うやつだ。

顔が近い。

白磁のような肌が紅色に染まり、目はあちこち回る。

そして、目が合う。


「あ、その…降ろすな…?」


「うん…」


足からゆっくりと地につける。

ヴェノムが胸の前で手を握りしめる。


「じゃ、じゃあお風呂に案内するからついてきてくれるかな」


「あ、あぁ、頼む」


ヴェノムに連れられ学園内にある生徒御用達のお風呂に着いた。

お風呂というよりか銭湯のような感じだ。

生徒達の中で担当がいるようで、魔法によって生成された水を、魔法でお湯にする。

だから肌に良いとかの効果はないが、十分な疲労回復が見込める。


「それじゃあ私はこっちだから。楽しんでくれ」


「ありがとな。じゃ」


右と左に分かれ、俺は右の男子専用に入っていく。

まだ早い時間だが、かなりの生徒がいる。

俺は来客用のロッカーを使い、服を脱いだ。


「おおこれは…」


目の前に広がる大きな風呂に、外につながる扉が4つ。

それぞれの扉に白金、金、銀、銅と書かれている。

俺はそのうちの一つ、白金に入った。


「よお、遅かったな」


中には先に帰っていたレイたちがいた。


「ちょっとヴェノムにな」


「あー、あれは大変そうだったな。まあ疲れてたから助ける気力もなかったけどな。まさかそこまで気に入られるなんてな」


「アーグはいいよな。あんなきれいな人に構われて」


「お前にはエルカさんがいるだろ。あれはきつい。ヴェノムは俺をおもちゃだと思ってる」


さっきだって変な液体を飲まされたし…。


「まあそんなことはどうでもいい。今はこの湯で体を休めろ。明日もハルマ先生は張り切るだろうからな~…」


「しっ…、静かにしろ!」


急にケリフは叫んだ。

その声で皆シンとする。

すると、壁の向こうから何か聞こえてくる。


「……」


「これ誰の声だ?」


「だから静かにっ!」


壁に耳をつける。


「ファセットさん胸大きいっ!」


「そうか?カエラはきれいな形をしてると思うぞ」


「触ってもいい?」


「ま、まあ少しなら」


「やった!では失礼して…。す、すごい。これはなかなか」


カエラの指がファセットの胸に沈み込む。

指の動きに沿ってその二つの大きな胸は形を変える。


「そ、そこまでにしてくれ。恥ずかしい」


カエラはその手をはずし、代わりに宙に掲げた。


「[水球]」


弧を描き、生成された水球は壁を越え、星の輝きをその中に映した後、


「うわっ!冷たっ!」


「分かってるからね!」


「バレてたのかよ!」


「リスタには何でも聞こえてるの!」



その夜、俺は一人保健室に向かっていた。

相変わらずスフィアは眠ったままで、俺はベッドの横の椅子に腰かけた。


「ここからは海が見えるんだな」


窓の外には月の浮かんだ海が広がっている。

月光を受けた海は青色の光を反射し、スフィアの顔を青く染める。

水色の髪が相まって、宝石のような美しさを作り出している。

まるで白雪姫のようにこのまま起き上がらないのではないかと思うほどだ。

王子のキスを待っているのか?

このままキスをすれば…。


「俺は何を考えているんだ」


かぶりを振って邪な考えを吹き飛ばす。


「早く終わらせるか」


俺の体に通う魔力をそのままスフィアに流しても適応しない。

魔力は空気中にある魔素を呼吸と共に体内に取り入れ、体の中にある魔力を生み出す器官が魔素を魔力へと変換することで生まれる。


「保健室内の魔素を濃厚にする…」


一呼吸で取り入れられる魔素の量を増やすことで魔力の回復を強制的に早める。

シルから聞いた魔力欠乏を起こしたときの対処方だ。

ちょうどスフィアの最大魔力量を考え、起きたときに呼吸が苦しくならないように調整する。

その時、保健室の扉が開いた。

カエラが立っていた。


「うっ…何この空気…ちょっと苦しい」


カエラが今日は魅力的に見える。

濡れた唇が蠱惑的で引き寄せられる。


「カエラ、今はこの部屋に入らない方がいいぞ」


「な、なんでアーグが…?」


「それは俺のセリフだ…早く、出て行った方が…いいぞ。あれ」


「ちょ、アーグ!?どうしたの?」


頭が…ぼぅっとする。

カエラが、カエラが、カエラが…きれいで…。


「アーグなんでこんなに熱いの!熱?ちょっと、部屋連れてくよ」


カエラが近くて…なんで女の子はこんなにいい匂いがするんだ。

このまま…。

まずい、このままじゃ、カエラを。


「シルの所に…連れてってくれ。シルなら」


「分かった。シュルガトさんの所ね」


「あと、出来るだけ離れてくれ」


俺はカエラから離れ、壁伝いに歩く。

目の前がぼやけて見づらい。


「ダメだよ。ほらこんなに倒れそうになって、肩つかまって」


カエラはそれでも近づき、俺を支えてくれる。

どうしても柔らかい女の子を感じる。


「カエラ…カエラ。俺は…」


廊下にガタンと人の倒れる音が一瞬響き、静まりかえる。

俺はカエラを押し倒した。


読んでくださりありがとうございました。

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