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70話:合宿〈2〉

コロナ大変ですね。

うちの高校もしばらく休校になりそうです。

勉強でもしようかな(白目)。

合宿当日、学園側が用意してくれた馬車にそれぞれ乗り込んだ。

ランド王国からここに来るまでは一週間ほどかかった。

しかし学園の馬車はそこらの物とは一味違う。

馬車に[軽量]の魔法が付与されている。

それに馬たちには[疲労減少]、さらに馬車内には空調を管理する魔法が付与されているので快適に、そして早く進むことが出来る。

俺、シル、カエラ、スフィア、ケリフが同じ馬車で残りはもう一つの馬車だ。

リスタたちと離れるのが少し心配だったので、

昨日の空いた時間に現代の携帯のような道具を作った。

リスタが普段よく言う、風の音を聞くから応用したものだ。

詳しくは分からない、リスタの思考を通して俺が付与したからだ。

まあこの際どうでもいいだろう。


「リスタ、そっちは大丈夫か?」


「はいっ!楽しく過ごせてますよ!今はアーグが作ってくれたトランプ?で遊んでいます」


「アーグ!そっちに食べ物ってある?」


「はいはい、後でな」


「わーい!」


こうして離れていても話せるのだから。


「それにしてもすごいね。そんなものが作れちゃうなんて」


スフィアが不思議そうに覗いてくる。

こっちは魔法はあるが科学はないのだ。

携帯に驚くのも無理はない。

しかし、


「スフィア?そんなに近寄られると座りづらいというか」


「あぁ、ごめんなさいね。珍しかったからつい。…もしかして、恥ずかしかったとか?ふふ」


スフィアは目元を細めこちらを見てくる。

どうもスフィアには勝てそうにない。


「ノーコメントで」


俺は道具だけスフィアに渡し、膝の上で寝息をかいているシルに収納袋から出した毛布を掛けてやる。

それにしてもなんでこんなに寝ているのか不思議なくらい寝ている。

ただ、眠いから寝ているのかもしれないけど他にも何か要因はありそうだが今はこの寝息が聞こえるだけ幸せだろう。


「はぁ」


「なんだよ、ため息なんかついて」


ケリフは馬車が出発してからずっとこの調子だ。

せっかくこれから合宿だってのにいいスタートが切れない。


「エルカさんと同じ馬車に乗れなかった…」


「なんだそんなことか。もう少し静かにやってくれ」


「おいアーグ!そりゃ冷てーぜ!」


ぬるっと近づいてきて肩を揺すってくるが馬車なのでやめてほしい。

それに今は、


「シルが寝てるんだから静かにしろよ。そんなにエルカさんと話したいならスフィアに道具貸してもらえ」


「おう、その手があったか。おーい、貸してくれ」


俺から離れスフィアに近寄るケリフだったが、

早々に手で静止させられている。


「ダメ。今これは私がアーグから借りたの」


「俺にも貸してくれよ。アーグは良いって言ったぜ?」


「今殿下とエルカがいいところなんだから少し待って」


そういえば向こうにはヘンクがいたっけな。

ん?ケリフの顔がみるみるうちに青くなってる。

まるでこの世の終わりみたいな顔だ。


「おい…それはどういうことだ?

ヘンクとエルカさんがいいところ?

向こうでは何が起きてるんだ!貸せ!」


ケリフが鬼の形相でスフィアから道具を奪おうとする。

が、


「女の子に優しくしない男の人は嫌われますよ?」


「くっ…!俺はどうすればいいんだ。二人が遊んでるって…」


はぁ、ケリフの焦りっぷりは分からんでもない。

が、今回は考え過ぎだ。


「あっちは今ゲームしてるんだよ。お前の考えているようなことはない」


「…知ってたけど?俺がエルカさんのことを疑うと思うのか?そんなわけないだろ。はは」


目があちらこちらへと動いている。

何がははだよ。お前の大胸筋がうずいているから分かるぞ。

親父も嘘つくときは大胸筋がぴくぴくしていたからな。


「カエラさん、その目は何ですか?」


「い、いや。何でもないよ。あっちはトランプやってるんだよね?」


「そうだな。あ、もしかしてカエラもやりたいか?」


「え?そういうわけじゃ…いや、やっぱりやりたいかも」


「それじゃあやるか!」


その後4人でトランプをした。

前世でも雪とよくやっていたな。

あの時は二人だったけど、今は4人もいる。

雪には悪いがトランプは人数が多い方が盛り上がりそうだ。



「た、助けてくれ!」


しばらく走っていたが、急に進行方向から叫び声が聞こえてきた。

ここは森だが、魔の森とは別の森で比較的弱い魔物が生息している地域だ。

走ってきた商人らしき男の後ろ数十m先から何匹かの生体反応が感じられる。

人ではない。魔物の物だ。


「こちらへ!」


俺は馬車の後ろ側へ商人を誘導し、前に出る。

が、アイネス先生に止められた。


「A班の皆、やってみようか」


A班、リスタ達のことだ。

ちなみに俺たちはB班。

リスタ達は驚いていたが、魔物の姿が見えると直ぐに先頭態勢に入った。

前にはソラ、メルビー、エルカさん。

後ろにはリスタ、ルーファ、ヘンク。

敵はオークが4匹にゴブリンが2匹、さらにブラックウルフが2匹だ。

なんとも不思議な組み合わせだ。

普通魔物は同じ種の魔物以外とは共に行動をしない。

と言ってもいるものはしょうがない。

今は彼ら彼女らが全力を出せるように祈るだけだ。


「メルビーとエルカはブラックウルフを!ソラはゴブリン!残りは私たちがやる!」


ヘンクが後ろから指示を出す。

中々に良い目をしている。

素早さの速いブラックウルフは魔法だと発動時間との間にロスがある。

その点、エルカさんやメルビーは物理的な攻撃なのでその心配はない。

そしてゴブリン2匹はソラ一人だけで処理できると判断したのだろう。

ソラの攻撃方法は不思議だ。

こう、空間がよじれるような、そんな感じだ。

そしてオーク。

体がでかい上に素早さがあまりない。

これなら後衛の魔法で処理するのが一番効率がいい。

これを一瞬のうちにやったヘンクは過去に経験があるのだろう。


エルカさんとメルビーが走り出す。

エルカさんの手には刀が握られており、

メルビーは拳を握っている。

流石に“爪”は使えない。

このことを見越して昨日のうちに一応注意はしておいた。

クラスメイトとは言え、彼女が爪を使って狼人族と知られてしまうのはまだ少し抵抗がある。

まあメルビーは爪を使わなくても十分に強いことは俺がこの目で見たから安心している。


ブラックウルフが二人に噛みつきにかかる。

メルビーはそれを超える跳躍で飛び越える。

が、エルカさんは避けられない。

そして避けてもいない。

刀身を真っすぐに向け、目を閉じた。

噛みつかれる。

…なんてことはない。

まるで糸を切るかのように滑らかに、

ブラックウルフはするりと切られた。

その体は二つに分かれ、エルカさんの横を左右に飛んでいく。

一方のメルビー。

空中で半回転し、下を通り過ぎるブラックウルフの頭を地面にたたきつける。

[部分身体強化]によって強化されたメルビーの腕からはハンマー以上の破壊力が生み出される。

ブラックウルフの攻略は完了だ。


巫女服に身を包むソラは一歩も動かない。

ゴブリンが冒険者から奪ったのか、その手のナイフをソラの心臓へ向けて突進している。

心臓を狙っているのはその魔物の本能かは分からない。

だがその目は食べ物を狙っているそれにしか見えない。

対するソラ、ただ空間を見つめ口を開く。


「[断絶]」


静かに。

走るゴブリンは空間のねじれによって斜めに体が滑り落ちていった。


「…あじけない。我も体術をもっと磨いた方がいいか…」


ゴブリン討伐、完了。


オーク討伐はリスタが放った[風刃]が思いのほか大きく、

4体一気に首から上を切り飛ばしてしまった。

リスタはやってしまったという顔をしていたのでルーファもヘンクも苦笑だ。

肩を落として馬車に帰っていった。

これはあとでなだめてやらなくては。そう思った。


戦闘の終わった俺たちはアイネス先生のいる一番後ろにいる馬車に行くと商人と楽しそうに話していた。


「おっと、話し込んでしまっていたな。今回の戦闘は少し簡単すぎたようだね。

それに、ヘンク君とルーファ君はやる前に終わってしまったし、次の機会は二人が率先して戦闘に参加しようか」


そして商人も前へ出てきてきれいなお辞儀をした。

恰好はとてもそこらの貴族にも変えなそうな豪華な…ではなく、

商人にしては動きやすそうな、

それにさっきこっちに走って来たときはもっとふくよかな体系をしていたような気がしたが。


「助けていただきありがとうございました。

いやー、それにしても見事な動きでしたな」


「ありがとうございましたと言いたいのはこちらですよ」


アイネス先生は商人に笑いかけた。


「まあ急なお願いでしたがね。

あの頃の私の血が沸き立った気がしますよ」


「それは、どういうことですか?」


恰好といい、アイネス先生との距離といい、何か腑に落ちない。


「私が魔物を集めるよう頼んだのですよ」


「へー、魔物を集める…。集める?」


「はは、私は昔冒険者をやっていてね、アイネス先生に生徒の戦闘経験を積ませるためにお手伝いをさせていただいたのです」


ははー。そういうことか。

どうりで良い体をしているわけだ。


その後も何度か先生の知り合いが魔物を連れてきて俺たちが処理をした。

馬車に掛けられていた魔法のお陰か、3日後にランド王国についたのでした。


読んでくださりありがとうございます。

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