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69話:合宿〈1〉

お隣の天子様にいつの間にか駄目人間にされていた件って知ってますか?

とても良い話なのでぜひ読んで見てください。


翌朝、アイネス先生に呼び出され長室に行った。


「さて、急に呼び出してすまないが君たちには一度この国のギルドに行ってもらう」


俺、リスタ、メルビーが座るソファーの前でアイネス先生が紅茶を飲みながら資料を見ている。そこには過去のバジリスクによる被害や生態について様々なことが記されている。


「それはまたなぜ?」


「うん、まぁ今回の当事者って事が一番だけどギルド長がどんな奴がバジリスクを倒したのか見たいって言っててね。これから世界を回る旅をするなら今のうちに人脈を増やしておくのもいいと思って。私からの好意と感謝かな」


「感謝ですか」


「そう、子供とは言えバジリスクを倒してくれたのはこの国にとっても大きい。被害が最小限で済んだのは君たちのお陰だ。それに、君たち白金の授業のカリキュラムでは明後日から四週間ほど他の国の同学年の人たちがどういった戦いをするのか見に行くだろ?そこでサマのギルド長からランドのギルド長に手紙を渡してほしいらしくてそれを君たちに頼みたい」


そうだった。来週から「目で見て盗め!みんなの強化合宿!」と言った他の国の観光を兼ねた合宿に行くのだ。

その道中には俺たちのランド王国もあり、そこで一泊する予定になっている。


「私は良いよ、断る理由もないしね」


「そうですね。これからのことを考えたら人脈は欲しいです」


「よし、じゃあ任せてください」


俺たちの返事を待っていた先生は今日の放課後頼むといい、そのまま紅茶を飲み干した。



「あっ、アーグ君たち!今日はどうしたの?」


真っ白な耳がぴょこぴょこと揺れ、ギルド内の男の目がこちらを睨む。

確かにあんなにきれいな人が俺みたいな若い男に声をかけていたら不思議だし、

嫉妬する。

俺はその視線をかいくぐるようにあははと苦笑いをしながらカウンターの前に立ち、


「今日はギルド長に用があってきました。今のお時間大丈夫ですか?」


「ああ!君たちのことだったのね。それならもう準備はできてるよ。じゃあついてきて」


彼女の揺れる尻尾を目で追いながらその後ろについて行った。

後ろから刺さる視線が痛いのは男の目だけではない気がする。


「…モフモフ」


耳元でシルがささやく。

俺は彼女が久しぶりに人前で声を出したことに驚いたが、あのモフモフには声を出さずにはいられないだろう。


「ふふ、ダメよ。この尻尾は私のお婿さんになってくれる人にしか触らせないの。

そうね、君が私のお婿さんになってくれるなら触り放題なんだけどな?」


挑発的に尻尾が揺れる。

とても魅力的な提案だ。

でも、後ろからの視線…いや物理的に痛い。

げしげし蹴るのはやめろ。メルビー。

おい靴のかかとを杖でひっかけるのやめろ。リスタ。

シル!…寝てるな。



「入りますよ」


ギルド二階の一番奥の部屋。

そこへ足を踏み入れた俺は予想と違ったことに驚いた。


「あら、もう来たのね。そちらに座ってもらえる?」


サマのギルド長は女性だった。

露出のやたら多い服でそこから伸びる四肢が白く美しい。

腰には一本、細剣が掛けられている。


「こんにちは。今日はバジリスクと手紙の件で来ました」


「わぁ、お菓子がたくさん…じゅるり」


「おいメルビー」


机には美味しそうなクッキーや果物が置いてある。

よだれを垂らしながらそれに手を伸ばすメルビーを見て面白かったのかギルド長はクスリと笑った。


「食べてもいいわよ。あまり汚さないならね」


「はーい!」


って言ってるそばからクッキーがボロボロしている。

が、それが空中で止まり、机の横に置いてあるゴミ箱に飛んでいった。


「風の魔法かしら?そんなに上手に扱えるなんて、アイちゃんの教え方が上手なのかな?」


「アイちゃんとはアイネス先生のことですか?そうですね、魔法のほとんどはランド王国でタナマさんと言う方に教えてもらっていたので、アイネス先生には魔力量でお世話になりました」


「タナマちゃんか、確かにあの子ならできそうかもね」


タナマさんと知り合いなのか。

それにアイネス先生をアイちゃんとは。

でも一つ言っておかなければならない。


「リスタの魔力操作はリスタが努力した結果です。そこは忘れないでくださいね」


それを聞いたギルド長は少しぽかんとしたが、すぐに笑顔になった。


「はいはい。大丈夫だよ。私にもその気持ち分かるから。自分の大切な人の努力は知ってもらいたいよね」


そう言って愛おしそうに細剣を撫でた。


「さて、前置きはこれくらいにして。本題に入ろうか」


「私は戻りますね」


ラビステさんは仕事に戻った。

そして俺たちはバジリスクと戦ったときの状況について詳しく聞かれた。

ここまでギルド長としか言っていなかったが、

名前はセフィラ。


「これで一通りです」


「これまた不思議だね。あいつらは普通森のにいるからこんなことにはならないはずなんだけど…。それに数の調整もできてるはずだし」


「数の調整?」


俺は気になってしまったので聞き返した。

メルビーは食べ終えてしまったクッキーの皿を見て肩を落としたので

俺は仕方がなく収納袋から新たにクッキーを出す。

メルビーの好物はクッキーらしい。


「そう、あいつらは森を食べてるから増えすぎると森がなくなってしまう。だから数を調整するためにランクSの冒険者にはたまに手伝ってもらっているんだ」


そうだったのか。

確かにあの再生力を持った大人のバジリスクで溢れかえったら大変だ。


「それでもう一つの件だが、この手紙をジャックに渡してほしい」


ジャック、その名前にシルがぴくりと反応した。

俺は寝ているときにぴくっとなるあれだろうと思い、無視してその手紙を受け取った。

その数二枚。

一枚はちゃんとした感じがあるが、もう一枚はものすごく適当な感じだ。


「あぁ、これはうちの母親がジャックにって」


「母親ですか?」


「そう、母親」


ん?


「セフィラさんの、母親ですよね?」


「そうだね」


「ジャックさんの母親?」


「あぁ、そういうこと。ジャックは私の弟だよ」


「はぁ、なんとなく似ているとは思いましたが…」


「そうかな?あと、君のお父さんとも知り合いだよ」


「…世界は意外と狭いのかもしれませんね」



その日の白金寮。

カエラの部屋では合宿に向けて着々と準備が進められていた。


「スフィアはもうできたの?」


「うん。カエラもあとは小物だけかな?」


「そうだね」


スフィアは図書館から借りてきた本を紅茶片手に読んでいる。

時折吹いてくる風が紅茶の香りを運びカエラの喉が渇く。


「まだ明日もあるからこれくらいにしておこうかな?さーて、私も紅茶でも飲も」


「ちょっと待って、私がいれるよ」


「じゃあお願いするね」


普段からどちらかの部屋にいる二人は互いの部屋についてよく知っている。

キッチンも例外ではない。

こなれた手つきでポットを出し、水を生成する。

普通の人は生活魔法や魔石を使って火を起こすが、

スフィアは生活魔法はおろか、水系統の魔石以外は使えない。


魔石と言っても魔物から出るものではない。

鉱山で産出された鉱石のことも魔石と似ているから魔石と呼ばれる。

売店ではよく生活魔石なんても呼ばれている。

これを使えばその系統に応じた魔法を少ない魔力で起こせる。

例えば火の魔石。

これは魔力を流すと、流した人が心で念じた温度で保ってくれる。

時間はその人が流した魔力の量次第だがさほど変わりはない。

例えば水の魔石。

これは魔力を流すと、水がでる。

こちらは魔力の量に応じた量だ。

こちらの世界には科学なんてない。

だから生活魔石は需要がある。


カエラはスフィアが生成した水に手をかざし、それを温める。

寮でいつもどちらかの部屋にいるのはこういったことがあるからだ。

スフィアはお湯が沸かせないからお風呂に入ろうともできない。

昔から彼女達はこうして過ごしてきたからどうってことはない。


「はいどうぞ」


「ありがとう…うん、美味しい」


スフィアは準備で固まってしまった腰を伸ばし、一息つく。

天井を見つめていたカエラはふと顔を前に向けると、スフィアが見ていた。


「私の顔、何か変かな?」


自分の顔を触ってみるが特に変なところはない。

それでもスフィアはくすくす笑っている。


「そうじゃないよ。昔を少しだけ思い出してカエラはずっと変わらないなってね」


それもそうかもしれない。

私は前世の記憶を引き継いでいる。

だからこっちの世界では生まれたときからこの性格で、そう変わることはない。

対してスフィアは変わったと思う。

もしかしたら初めからこういう性格だったのかもしれないけど、

こうして素で笑いあえることはうれしい。


「そういえば今回合宿に行く国って、“あの国”だよね?」


「あの人どうなってるのかな」


「あの時は騒いで追い出されてたけどね」


「もうちょっと静かになってるといいんだけど…」



「そうだカエラ」


「どうしたの?」


スフィアがにやっと笑ってる。

これはヘンなことを考えてるときの顔だ。


「合宿中アーグとどうするの?」


「どうするって…何を?」


分かってる。

スフィアが何を言っているのか。

でも自分の心に聞いてみるけどそれが本当なのか分からない。

今は…。


読んでくださりありがとうございます。

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