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68話:毒蛇王

俺ガイル面白い。

例のバジリスク事件の朝。

村の牧草の一部は毒で溶かされていたがそれ以外は無事だったようで、

これからの羊たちの世話に支障はないそうだ。

羊の数は随分と減ってしまったが、村の皆で頑張れば今まで以上に良いものが作れるだろう。

ある程度牧草の整備が終わり、

俺たちは牧場の丘の高くなっているところにバジリスクによって帰ってこなかった人たちのお墓を作った。

彼ら彼女らの遺体はないが、それでも、少しでも安らかに眠れるように俺たちは願った。

とても見晴らしがよく、村や羊たちを一望できる最高の場所だ。


「俺が、もっと早く来てれば…」


口から出てきたのはそんな言葉だった。


「アーグは何も悪くないです!」


「アーグ…自分を責めないで」


リスタとメルビーが背中をさする。

それでも、俺はもっと自分にできることはあったんじゃないかと思ってしまう。

この世界には誰かを守るために生まれてきた。

大切な誰かを。

ただ、自分に誰かを助ける力があるのに目の前でなくなっていった命に俺はどうしようもない罪悪感が生まれる。


「アーグが来たからこの村は助かったんですよ?」


「俺の力だけでは無理だ」


「アーグが行こうって言ったから私たちは来たんだよ。

だからこの村はアーグが助けたの」


二人は俺の前に立ち、しっかりと俺の目を見つめる。


「でも…俺は」


胸の中で渦巻く罪悪感がぬぐえない。


「でもじゃないよ」


「ほら、あれを見てください」


俺の手を引き、丘の上から村へと視線を移す。

そこには村の人たちが羊を撫で、壊れた柵をなおし、

——笑っていた。


「アーグが守ったんです。この村を、この笑顔を」


「アーグ、アーグは超人人間じゃないんだよ。

失敗だってするし、分からない事だってある。

自分のせいで助からなかった人がいるなんて、自分の力を過信しすぎなんだよ。

確かに亡くなった人はいる。

私だって助けられなくて悔しいよ。

ここの危険を知っていたら。

もっと早く気付いていれば。

たらればを言ったってなにも変わらない。

変えたくてももう…遅いんだ」


メルビーの目には涙がにじんでいる。


「昨日の夜、私が音を聞いていればと何度考えたでしょう。

アーグだけじゃないんです。

私も、メルビーも悲しくて、悔しいんです。

神様は意地悪ですね。

でも多分、神様も泣いていると思います。

皆々(みんなみんな)同じです。

でもそれを乗り越えていくのが命ある者の使命なのではないですか?

亡くなった方もいつまでも自分のことを思っていられると思い残しができてしまいます。

だからお墓を作ってお別れをするんです。

いつまでも泣いていないよう、お別れです。

でも忘れないように、たまには顔を見せるんです。

アーグ、あなたは亡くなった方に感謝されていますよ。

だって、」


リスタがそこまで言うと、村の人達が集まってきた。

そして、


「アーグさん!リスタさん!メルビーさん!ありがとうございました!」

「兄ちゃん、俺も若えのには負けられんな!」

「お兄ちゃんたち、ありがとうございました!」


皆口々に感謝の言葉を述べる。

リスタとメルビーは俺の手を取った。


『笑顔を守ってくれてありがとうって!』


「っ…、そうだな」


俺は涙を拭った。



昼ごはんは村で頂いた。

村の農家さんの自家製だそうで、

とても新鮮でおいしかった。

あぁ、食事中確かこんなことがあった。


「ところでアーグさん」


「どうしたんですかベラさん」


「先ほど牧草を整備しているときにバジリスクのいた場所にこんなものが落ちていたのですが、これはアーグさんたちのでしょうか?」


そう言ってベラさんが取り出したのは黒い布切れの様なものだった。

当然、俺たちには見覚えもなく、違いますとだけ言ったがどうも引っかかる。

バジリスクのいた場所には奴の親と思われるもう一匹のバジリスクが毒を吐いたはずだ。

そしてその場所は跡形もなく溶けた。

だけどそこに布切れが落ちていたのはどういうことだろうか。

運良く液体を免れ解けなかったのか、いやそんなことはない。

少なくともバジリスクがいた場所にかからなかったところはない。

まあ考えても仕方のないことなので頭の片隅に入れておこう。



「てなことがあったんだよ」


俺は寮に帰ると真っ先にベッドで寝ているシルに昨日今日であったことを話した。

シルは今まで長い時間森で過ごしてきた。

ならバジリスクについて何か知っていると思ったのだ。


「…ん」


「分からないって…まぁしょうがないか。でもこれはなんだ?」


いつもは俺がシルの頭を撫でるはずだが今日は俺が撫でられている。

優しく、やさしく。


「…でも…あいつらは森を食べる」


「森?」


シルは知っているかぎり、

バジリスクと言うのは本来森に生息している。

そこまではいい。

そして森を食べるというのはつまり、

森の木を食べることだそう。

だから肉、羊や人間を食べることはないという。

今回のことで俺はてっきりバジリスクは肉食と思っていた。

地球で本に出てくるバジリスクも人を食らっていた記憶がある。

魔法などがある点、常識が違うのは分かっていたが。

草食と言うなら親バジリスクが俺たちを食わなかった事と繋がるだろう。

もしかしたら自分の子供が狂っていて、それの後始末に来ただけなのかもしれない。

まだ謎は分からない。



俺はその日、アイネス先生にも同じことを話した。


「うーん。バジリスクは伝説上の生き物と思われているのは滅多に森から出ないから誰も姿を見たことがないんだ。

そして現に私も一度しか見たことがない。

古くからある書に伝説の生き物として書かれているから皆伝説と思うようになっているけどこの世界は魔物がいる世界だ。

どこにどんな生命がいるか分からない。

適当に作った魔物もこの世界にいるかもしれない。

あの森がいい例だな。

あの森には不思議なことが多々ある。

まだ誰もその全貌を見たものはいない。

だからどんな魔物がいるかもわからない。

私はドラゴンはたくさん見たことがあるんだけどね。

肉食のバジリスクというのは見たことも聞いたこともない。

もしかしたら、何者かの関与があるのかもしれないね。

うん、これは一応王様に報告しておこう」


「お願いします」


「ところで、バジリスクの何か欠損箇所とか取った皮膚とかないのかい?」


「あー、それならリスタがバジリスクの牙を持ってますよ」


リスタは何かの証拠になるかもと、

毒を風で完全に取り去って収納袋に保管している。


「そうか、じゃあギルドで買い取ってもらってもいいかい?」


「まぁ、リスタが良いって言ったらいいですけど。

なんでですか?」


「ギルドは魔物の鑑定を行ってどんな性質があるかとか、色々な事を調べてくれるんだよ。

それにバジリスクを討伐したとなるとランクも上がるだろうし。

そっちの方が今後のためにもなるだろう」


なるほど。

ギルドはそんなこともしているのか。

それに、と付け加えるようにアイネス先生が。


「私も見てみたいからギルド長の所に行くつもりだし」


そういえばアイネス先生はかなりすごい魔法使いだった。

この件はアイネス先生に任せることにした。


読んでくださりありがとうございます。

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