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67話:コルの村〈2〉

前回と随分開いてしまいました。

ごめんなさい。

夜が更け、辺りの草が靡く音だけが聞こえる。

監視のために羊たちがいる柵の中で目を凝らしているが何かがいる様子はない。

羊の数は減っているはずなのに相変わらずぐっすりと寝ている羊を見ると不思議とこちらも眠くなってきてしまう。


「ふぁあー。何も来ないね」


メルビーがこしゅこしゅと目をこすりながら肩を預けてくる。

さらりとした紺色の髪が月明りで光る。

俺は一度大きな伸びをした後、メルビーの頭を自分のももの上にのせた。


「今は寝てていいぞ。何かあったら俺が起こすから」


「でも…わた、しも、おき」


頭を撫でるとメルビーの目はうつらうつらとしてきた。

あれだけ全力で走ったんだ。

いつもとは違った疲れが出ているだろうし、

今は寝かせてあげたい。


「おやすみ、メルビー」


最後に瞼を優しくおろしてやると、

それっきり目が開かなくなった。

その代わり規則正しい寝息が聞こえてくる。

俺はまた羊たちの方を向いたが先ほどと変わったところは何もない。


「リスタ、何か聞こえるか?」


隣で風に耳を澄ませながら“音”を聞いていたリスタは俺の声に反応し魔力を抑える。


「何も、平和そのものです」


「そうか」


リスタには遠くの“音“が聞こえる。

風あるところにリスタの耳あり。

俺には草木のざわめきしか聞こえないが、

リスタには遠くにいる動物の寝息を立てる音も集中すれば聞こえる、だそうだ。


「いいな」


「ん?」


ぼそっとリスタがつぶやいた。

目を開いたリスタの視線は俺の下の方を向いている。


「メルビーは寝ちゃったんですね」


「あぁ、たくさん走ったからな。それによく食べた」


「ふふ、元気なことです。でも…あた」


リスタがビクッとした。

額には心なしか汗をかいている。


「どうかしたのか」


「なにか、大きなものが来ます」


俺も[索敵]を使用する。

範囲は半径5㎞。

俺は東、つまり森の方角にそいつの反応を見つけた。


「メルビー、起きとけ」


「ん、何か来たの」


メルビーも俺たちの様子に気づいたのか直ぐに警戒態勢に入る。

やがて暗闇の中からそいつが姿を現した。


「これ…まさか」


「うそでしょ…」


リスタもメルビーも目を丸くしている。

それはまさしく蛇の王——。


「バジリスク」


シャアアアアッ!


リスタを抱え横に跳ねる。

メルビーも俺と同様バジリスクが吐き出した液体を避けた。

シュウと煙をあげながら植物が枯れていく。


「あれは毒です!それもかなり強力な猛毒です!」


リスタが叫ぶ。


「っつ!」


リスタを抱えている俺を狙い、奴の尻尾が降ってくる。

が、俺は紙一重で横にずれる。


「[斬撃]」


ギャアアア!


毒をまき散らしながらバジリスクが叫ぶ。


「浅いか」


[風矢ウィンドアロー]」


俺の斬撃もリスタの風矢もバジリスクの硬い皮にはじかれてしまう。


「私上に上がります![飛翔]」


リスタが空中へと上がる。

そこを狙ったかのようにバジリスクが牙を向ける。

きらりと紫色の液体が滴り落ちた。


「させるかっ!」


「[斬撃]」


首を狙い全力で殴る。

メルビーは追い打ちでその“爪“から本当の斬撃を放つ。


俺の斬撃はメルビーのものに比べると数段威力が劣ってしまう。

才能と言えばいいのか、俺は人間だから適していないのだ。

ましてや手に武器を身に着けているわけでもない。


切るというより殴るに近かったがその首の軌道をずらすことには成功した。

リスタは今、バジリスクが届かないであろう空中にいる

これでさっきよりも動きやすくなった。


「武器がないのがきついな」


俺は今もなお素手で戦っている。

素手だとどうしても限界が来てしまう。

今までの相手ならどうにかできたが今回は流石に。


[風刃(ウィンドカッター)]」


「[硬化]」


リスタの空中からの援護で大ダメージとまではいかないが少しずつ奴の肉が削げている。


メルビーは奴の尻尾を掻い潜り、硬化した爪で目を狙う。

が、それを毒で反撃されてしまう。


「くっ!」


空中で体を捻り躱すが皮膚の一部が溶けている。

すかさず俺が駆け付け回復魔法をかけるが、

奴も待ってはくれず、回復途中で上から噛みつくように邪魔をしてくる。

それを一瞥するがリスタの魔法では速さが足りない。

見る見るうちに口が大きくなってくる。


「[身体強化改]」


どおおん!


地響きで地面に亀裂が入る。

そのまま地面の中へと潜っていった。


「ありがとう」


「礼はあとだ。今は奴に集中しろ」


体の中の魔素を呼吸と共に放出し、

もう一度深く吸い込む。

——[気配察知]

目を閉じ、周りの魔力の流れを感じる。

リスタ、メルビーの魔力。

そして、


「横かっ!」


メルビーを抱えたまま、後ろに飛びのく。

と、奴の攻撃は避けたが後ろにいた羊に躓き転んでしまった。

まずい、奴に集中してて忘れていたがここはまだ柵の中だ。

周りには数匹の羊が物音に気付き走り回っている。


ぎゃああああ!


[風槌ウィンドハンマー]!…嘘、遅かった」


リスタが風の圧で口を殴るが、間に合わず、飲み込んでしまった。


「回復…してるの?」


「うそ、だろ」


飲み込んだかと思ったら体の周りに見慣れた光の玉が浮かび、

地道に蓄積してきた傷を回復した。


聞いたことがある。

バジリスクは不死の蛇

その尾を切ってもなくならない

見つかったならもう終わり

気づいた時にゃ腹の中

パクリと一口ごっくんごっくん

次はだれが腹の中


不死なんかない。

たとえここが異世界だとしても“死なない”魔物なんていないとレグが言っていた。

こいつの正体は回復力が異常に高い蛇だ。

今まで想像上の生き物とされてきたのは多分森に棲んでいるからだと思う。

魔の森にはまだまだ解明できていないことがたくさんある。

ランクSでも帰ってこれるか分からないとされるのはこういった魔物がいるからではないだろうか。


「なら」


俺は走り出す。


「一発で仕留めるだけだ!」


大気の魔素を右腕に集中させる。

リスタが作り出した風の層を蹴り、

宙高く上がる。


「[挑発]!」


メルビーは自身に奴の気を引きつけ、

俺はその脳天目掛け拳を振り下ろす。

その時、奴の体中から液体が汗のようににじみ出てきた。

が、


「くたばれっええ!」


しゅう、と音を立て右腕が溶けていく。

それと同時に魔素で強化した拳は奴の脳を突き抜け、


ドンっ


回復する間もなく、

絶命した。


「やっと、倒せたね」


リスタが空中から静かに下りてきた。

絶命したバジリスクが残した被害はひどいものだった。

戦闘の中で吐き出した毒が辺りの植物を腐らせ、溶かしている。

そして俺の実力が至らなかったせいで一匹の羊が食べられてしまった。


「これは…、まさかバジリスクですか…?」


「あぁベルさん、そうです。バジリスク、本当にいるとは思いませんでしたよ」


「今までもこのバジリスクが羊たちを食べてたのでしょうか…」


ベルさんの顔にはバジリスクを倒せた安心と羊たちが食べられた悲しみが現れている


めぇー


一匹の羊がベルさんの足元にすり寄ってきた。


「また、一からやり直していきます。今度からは私たちがこの子たちを守れるように。

お父さんとお母さんは、ううぅいなくなっちゃったけど…わた、しが、

守っていかなきゃ」


語尾につれてかすれていく声。

この牧場を作ったのは彼女の両親だ。

毎日愛情をこめ、

辛いときがあっても羊と、村の皆で支え合ってきた。

その二人の想いはベルさんにしっかりと受け継がれている。

これからもなくなることはないだろう。


「ベラ、これからは頼むよ」

「ベラ、俺たちがいるから大丈夫だ!」

「ベラ」

「ベラ」


村の皆が彼女を囲い込んで暖かい言葉をかける。

そんな彼ら彼女らの想いが羊にも伝わったのか、牧場の至る所から集まってきて同じように彼女を囲んだ。


「守れて、よかった」


「そうですね」


「あぁ、そうだな」


これでクエストは完了だ。

メルビーもリスタもよく頑張った。

俺はそっと二人の頭に手を乗せた。


——っ!


「構えろ!」


暖かい雰囲気で満たされていた空気が一気に苦しくなる。

肺が痛くなるようなほど空気が“毒”されていく。

森の木々が次々と倒され、俺たちが倒したバジリスクの傍でそいつは止まった。


「な、んで」


死ぬ。

そう思ったのは何年ぶりだろうか。

そいつを前にした途端体が固まったかのように動かなくなった。

例え俺のコンディションが全快だったとしても勝てる気がしない。

これが伝説なのか。


「バジリスク…」


誰かが呟いた。

それは件のバジリスクではない。

今森から出てきた、

倒れているバジリスクの数倍の大きさを誇るバジリスクのことだ。

そいつはギョロと目玉をこっちに向ける。

俺は何とか自分を言い聞かせ、自分にできる限界の魔素を体に貯める。

口を大きく開いた。

来る。


「へ…」


俺たちに向けられていた口はそのまま倒れているバジリスクの方を向き、

そいつに向かって毒の液体を吐き出した。

かけられたバジリスクは骨も残さず溶かされてしまった。

それを見届けたバジリスクはそのまま俺たちには見向きもせず、

森に帰っていった。


「なんだったんだ」


「あれは…試練、だと思います」


リスタが思い出したように口を開いた。

彼女が言うには、バジリスクの親は自らの子を一人前に育てるために一度試練を課す。その内容は分かっていないが近隣の村を襲ったり、魔物を狩ったりと色々な憶測がされている。そして一つ分かってるとすれば子が試練に失敗すると自らの毒で溶かすという。


「これはこの前ルーファちゃんから聞いたことなんですけどね」


「でもなんで私たちのことを襲わなかったんだろう。だって子供の仇だよ?」


「そうだな、分からないが襲われなかったからいいんじゃないか?

あれと戦ってたら間違いなく死んでたし、この村は一瞬で壊滅だ」


何はともあれ。


「今日はもう寝ましょうか。村の宿泊所にご案内します」


多分今は2時を過ぎている。

戦闘音で村の皆も起きてきたが、

緊張が解けたからか皆一様に眠そうだ。

今後のことはまた明日考えよう。

魔法とスキルの違いがよくわからないので、

今までの文を直そうと思います。

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