63話:ケリフの悩み〈5〉
もう4か月ですね。
そろそろアクセスが10000を突破しそうです。
本当にありがとうございます。
二人のデートは順調に進み、
最後には夕焼けを並んで見て終わったらしい。
俺たちはケリフの緊張が解けたことを確認した後はすぐに寮に戻った。
何かの拍子でバレて二人のデートを邪魔するわけにはいかないから。
戻った後からケリフが何かへましてないか無性に心配になった俺たちだったがそれは杞憂だった。
夕飯時に帰ってきた二人の間には、
行く前よりも打ち解けたようなムードが漂っていた。
これは俺の勝手な勘違いかもしれないが、
距離が近かったようにも思った。
どちらにせよ今日のデートを失敗という者はいないだろう。
エルカさんの首にかけられていたネックレスはケリフがプレゼントしたものだろうか。
あいつ、最近は金欠だとか言ってたくせにな。
どうも好きな人の前では見栄を張りたくなるタイプらしい。
「ケリフさん、うまく行ったみたいですね」
食事が終わり、
寮の広間でくつろぎながらあの二人の様子を見ているとカエラが話しかけてきた。
風呂上りなのかシャンプーのいい匂いが漂ってくる。
「そうだな」
「いいですね」
「そうだな」
俺の生返事にカエラは頬を膨らませて、
「もぉ、でもうらやましいな」
「はは、エルカさんに嫉妬か?」
「そんなこと、ない」
その言葉には何かを含んでいるような気がした。
悲しそうで、苦しそうで、俺はそんな儚い彼女を失ってしまいそうな気がした。
しかしそんな表情もどこかに吹き飛ばして微笑んだ。
「エルカもずっとネックレス触っちゃって…。
そんなに気に入ったのかな」
言葉通り彼女は首元にあるネックレスを目を細めながら触っていた。
「大人っぽく見えても意外と乙女なんだな」
「そうだよ、女の子は皆乙女なんだよ」
「カエラもか?」
俺はそんなことを聞いてしまった。
「私?そうだなー…乙女、なのかな」
「どうだろうな。でもいつもスフィアと楽しそうに恋バナしてるじゃねえか」
ソファの後ろから乗り出して俺の隣に腰かけた。
「よいしょっと。なんで知ってるの?」
このソファーはそこまで大きくない。
それ故に近くなるのは必然といえよう。
俺は伸びをする振りをしながら立ち上がった。
「リスタが良く話してるからな。いつもあの二人楽しそうでいいなって。
だからあいつも話に入れてやってくれないか?いつもうらやましそうに話してくるからさ」
「そうなの?話しかけてくれればいいのに…」
鼻を鳴らして顎に手を置く。
「そうはいかないんだよ。あいつにも色々あるんだよ」
あいつにも…まだ恐怖があるのだ。
ここまで誰にも自分の本当の姿を見せていない。
心の中では信じようとしてるのかもしれないけど、
体が人に対する恐怖を覚えている。
「アーグがいれば話しかけてくるのにね。ね、やっぱりリスタちゃんと何もないの?」
「何もって言われてもな…。俺たちは家族なんだぞ?」
俺はたしかにリスタもメルビーも、シルだって家族だと思っている。
自分で言ってて笑えてくる。
家族には恋しないってか?
そんなものは嘘だ。
誰であっても恋心を抱いてしまうものだ。
「ふふ、家族、ね」
「そうだ。家族には恋はしない」
「そう、だよね。…うんっ!なんか辛気臭くなっちゃったね」
「そうだな、それじゃああれ、見せてくれるか?」
「あれ?分かった。中庭行こっか」
カエラは勢いよく立ち上がり、俺はあとに続いて外に出て行った。
カエラのあれ、が見れるのは久しぶりだな。
楽しみだ。
すっかり暗くなってしまった中庭には人の気配はなかった。
この世界に科学はない。
月は朧げに光り、俺たち二人を優しく照らしている。
まるで、世界に取り残されたような。
あの星空の下に雪といたときのようだった。
「今日は、星がきれいですね」
カエラは驚いたような表情をしていた。
でも、いつもの調子に戻した。
「ふふ、あの時も言ってたね」
一回目はカトニス王国で。
二回目は親睦会の夜。
そして今、カエラと再び星を眺めている。
「ここの星は本当にきれいだ。この星をバックにしてカエラの舞が見れるのは最高だ」
「それじゃあそこに座って」
俺は木の下に腰を下ろした。
カエラは少しだけ前に進むと、息を吸った。
赤、緑、青の光の玉が宙を舞う。
星が煌めき、光が踊る。
カエラを囲むようにふわふわと、たまにビュンと。
白く、雪のような指は艶めかしく舞い、腰の振りから足先までその洗練された動きは俺の目を引き寄せた。
体を這うように玉が滑らかに進み、
指から空へと離れていく。
そのうち炎が咲き誇り、風が髪を靡かせる。
音楽は聞こえないはずなのに、
木がざわめきどこかで鳥が鳴いている。
——俺はカエラの姿に見惚れた。
いつも明るく、彼女の周りには笑顔の花が咲き乱れ、たまに見せる大人っぽさは儚く、
俺の中では何かの感情が動いた気がした。
でも今はそれが何かなんてどうでもよくて、カエラをずっと目で追っていた。
「それじゃあ二人一組になって」
アイネス先生が教壇の上で今日の授業について話している。
今日の授業は魔力容量の向上だ。
この前に魔力石を使った物とは別の方法で魔力を増やす。
生命には体に魔力を保持しているのはこの前アイネス先生が教えてくれた。
そしてそれは体内で生成されるというのもリスタが教えてくれた。
体内では常時魔力が流れている。
それを強制的に増やすことで流れる容量が増える。
つまり簡単に言うと使える魔力が増える。
ただそれだけだ。
でもそれほどのものだ。
こんなに簡単に言っているがそうできるものではない。
他人の魔力に慣れていない人がやれば拒絶反応で倒れてしまう。
そして最悪魔力が流れなくなり、体の一部が膨張、破裂してしまう。
それにしても二人一組というのはいい思い出がない。
「あ、シュルガト君は私とやろうか?」
俺の背中に乗っていたシルは吐き捨てるように、
「うぅ!」
と呻き、威嚇した。
絶対にやらないそうだ。
「はは、そんなに怒らないでくれ。
確かに君は私と同じくらいあるからね」
「それじゃあアーグ!俺とやろうぜ」
「やろうか」
「あぁ」
ケリフが俺の前に立って手を差し出してきた。
俺は手を伸ばし、ケリフ…の後ろにいるヘンクとペアを組んだ。
「俺は…?」
「お前は、分かるだろ?」
俺は向こうを指さした。
その指の先にはおろおろとしている一人の女子がいた。
「エルカさん…」
「ケリフさん…それじゃあやりましょうか」
「はいっ!俺はあまり魔力はないけど、お願いするな」
「任されましたっ」
ここ数日の間でケリフはエルカさんに敬語を使わなくなった。
その分距離が近づいた証拠だ。
エルカさんは刀を使う。
そして刀に自らの魔力を流して戦うのが主流なそうで、
リスタとかに比べれば少ないが、ケリフにしたら十分すぎるほどの魔力量だろう。
初めは無理するのは良くない。
段々と、慣らしていけばいいのだ。
俺とヘンク
リスタとメルビー
カエラとスフィア
ソラとルーファ
エルカさんとケリフ
皆ペアを組めた。
授業の開始だ。
「私で残念かな?」
「なんでだよ。お前はレースさんじゃなくてすまないな」
ラブラブだもんな。そう付け足してヘンクの手を取った。
「それじゃあ行くよ」
体の中に異物が流れ込んでくる。
その異物からはビリビリしたような感覚を与えてくれる。
雷が走るようなそんな感じだ。
「うっ、中々痺れるな」
「まだまだ序の口だよ」
流れ込んでくる量が増えてくる。
体の痺れが増す。
シルとは違った感覚に陥る。
「もっと行こうか。私の雷は痺れるかい?」
「あ、あぁ。でも…まだまっ、ぅだ、だ。お前の魔力はこんなものか?」
いつもの仕返しとばかりに少しだけ煽っただけなのだが、
簡単に乗ってくる。
体が雷に打たれたようになり、ついに耐えられなくなり手を放してしまった。
体が魚のようにビクンビクンとしている。
「まあまあだったな」
いや、正直辛かった。
「そうか、ではもう一度やろうか?」
「今日はやめておこう。お前の魔力がなくなったら大変だしな。
次は俺の番だ」
「そういうことにしておこうか」
俺は自分の魔力を流し込む。
「…暖かいな」
「え…気持ち悪いとかないのか?」
「ないな」
まじか。
「それはアーグ君の体質が回復に特化してるからじゃないかな?」
アイネス先生が俺たちを見ていたようだ。
「確かに、気持ち悪いどころかすがすがしい暖かさだ」
「だから回復体質なんて呼ばれてよく魔力タンクにされることがある」
「へぇ、魔力タンク…。魔力タンクっ!?何俺蛇口なの?」
「回復体質の人の魔力は他人を癒す力を持っている。
だから軍事利用されることも多いかな。まあ私はそんなことしないから安心してくれ。
よし、他のみんなも終わったみたいだね」
何人か顔が青くなっている人がいる。
よし、俺が魔力タンクとなってやろう。
初めに比べたら成長できたのかな。




