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61話:ケリフの悩み〈3〉

今日「夏へのトンネル、さよならの出口」を読んだんですけど、すっごい良かったです。

夕飯時、そこにはいつもとは変わった光景があった。

一つ、レースさんがいたこと。

彼女曰く、まずは本人とお話しがしたいとのこと。

ヘンクの許嫁兼未来の妻と彼女が大きな声で叫ぶものだから食堂が一時大惨事になった。

ヘンクのあたふたする姿はレアだから脳内に焼き付けておいた。

そしてもう一つ、ケリフがエルカさんの隣の席に着いた。

これは物理的に距離を縮めましょうとレースさんが半ば強引に二人を座らせたのだ。

エルカさんも初めは驚いていたが、

二人でも出かけるほどだ、嫌ということはなくすんなりと了解した。

それに比べるとケリフは顔を赤くしながらレースに文句を言っている。

それでも嬉しかったのか食事が始まると仲良く話していた。


隣にいるカエラが肩をとんと叩いてきた。


「アーグ、ケリフ何してんの?」


カエラはニンジンを頬張りながらケリフを見ている。


「何って?」


「ケリフ今日はテンション高いなって。いや、理由は何となく分かるんだけど今までと違うから」


カエラは鋭いな。

確かにあれだけ普段とは違った取り乱した姿を見たらそう思うのかもしれないが。


「そうだな。あれはあいつなりに一歩踏み出したんだよ」


直接的には言わなかった。

ただ、これでもカエラなら分かると思う。

思った通り、カエラは「恋か…」なんて口からこぼしながらじゃがいもを頬張った。

そういえば、


「カエラは許嫁とかいないのか?」


カエラは一瞬驚いたような顔をしていたが、しかめっ面になった。


「私はあまりそう言う人はいないかな。

お父様もお母様も私には自分で好きな人を見つけなさいって言ってくださったし。

それに私は今まで魔法とかの勉強で忙しかったから」


「そうか…」


そう言う人はいない。

何故かこの言葉にドキリとした。


「そういうアーグはどうなの?」


「俺か…」


どうなんだろう。

俺はこの世界で15年近く生きてきた。

しかし好きな人と言われて出てくるのは雪の顔だけだ。

それでも胸のどこかにもやっとするのは何かあると思う。

だけど今の俺には分からない。


「リスタとかメルビーはどうなの?」


「どうって言われてもな。あいつらのことは好きだ。

ただそれは家族とかそういう好きであって恋愛ではない。

何というか、二人を見ていると守らなきゃって思って」


好きと言ったとき、カエラの方がぴくっとした気がした。

それにスフィアの視線がこっちを見ている気がする。


「アーグ!私も好きですよ!」


リスタが斜向かいから叫んできた。

リスタは風、空気を通して遠くの音でも聞くことが出来る。

戦闘の際は助かる技術だが今の話が聞かれているとは何ともむず痒い。

俺はリスタに笑顔を返し、カエラに向き直った。


「本当に?」


どうやら疑っているようだ。

確かに最近でもたまに俺の部屋に来て一緒に寝たりもするが決してやましい思いは抱いていないので口には出さない。

さっきからスフィアの視線が痛い。

たまに目に海水が飛んでくるのはなんでだろう。


「あぁ、本当だ。俺は家族としてあいつらが好きなんだ」


「そ、じゃあシルさんは?」


カエラは俺の膝の上を指さしながら言う。

俺の膝の上に何がいるのかというと、

分かると思うが現在進行形でシルが寝ている。


「シルがどうしたの?」


いや、この流れならどんな質問か分かるが家族という点ではシルも一緒だろう。


「手!」


「手?」


俺は流れるように自分の手を確認した。

そこには当然肩から腕が生え、手がついている。

そこで気づいた。


「あぁ、これか。なんかいつもの癖でな。無意識にやってた」


俺の手は意識とは別に勝手にシルの頭を撫でている。


「それに手を離すと…」


ガシっと腕を掴まれる。

シルが寝たまま動くのだ。

仮面をしているので表情は見えないが多分寝ている。


「シルは俺の師匠だからな。特に恋愛には発展しない。

それに俺はこいつのはだ…」


「はだ?」


やばい。口が滑った。これはまずい…スフィアの手元に青色の光が集まっている。


「はだっくしょんっ!…話すのが好きなんだ」


膝の上がプルプルと震えている。

シル…起きてるな。

まあこれでごまかせただろう。

カエラも、


「本当に?まあいいや」


そういって今度はオークの肉団子を頬張った。

よし。顔が濡れたからタオルで拭こう。

目が痛い…。


「それじゃあ」


カエラの声が少しだけ高い。

心なしか目も輝いているように見える。

これはスフィアのせいかもしれないけど、そんな気がする。


「アーグに好意を抱いている人はいないんだね?」


「家族とかそういうのを除けば…そうなるな」


「そっか」


そういえば、恋バナなる物をするのは前世も含めて初めてかもしれないな。



「えーと。私が分かったことだけまとめますね」


場所は変わって俺の部屋。

日はとっくに落ちていて、こんな時間に女の子が男子の部屋に来るなんてと思ったが、

ヘンクもケリフもいるので何かするわけがない。

俺の膝ではシルが船を漕いでいる。

俺の手は元気になでなでを開始しており、

レースさんも初めは驚いた表情をしていたが、

ヘンクに上目使いで何か話していた。

「あとでな」と小さく聞こえたのは気のせいだろうか。

飛び切りの笑顔を見せたのち、彼女は口を開いた。


「お願いします」


ケリフはどこか緊張した様子だ。

それもそうだ、ここでもう脈はないですねなんて言われたらこいつは立ち直れないだろう。

誰かの喉が鳴る音が聞こえる。


「まず、あなたのことが嫌い、というのはありえません」


「よっしゃあああああ!」


「うるせ」


まだ嫌いではないとしか言ってないぞ。


「あなたと話しているエルカさんは終始笑顔でした。

決してその場の迎合ではなく、彼女の自然な表情だったと私は思います。

あれは嫌いな人にはできません。いくら彼女が良い人だからと言っても、です。

これは見てて思ったことなのですが、彼女はいつもあまり自分からは離さないのではないですか?」


そうかもしれない。

ルーファほどではないにしろ、

彼女から話しかけてる様子はあまり見たことがない。

今日あったばかりなのにそれが分かるなんてすごいな。


「そうだな、エルカ君はあまり積極的な性格ではないね」


ヘンクが答えると「やった」と小さくガッツポーズをした。

それほど好きなんだろうな、なんて思ったり。


「それが何かあるんですか?師匠」


ケリフはレースさんを師匠と呼ぶ。

俺でいうシルみたいなものだ。

それの恋愛バージョン。


「彼女は寡黙な方ですが人との話自体は嫌いではないと思います。

それどころか人の話を聞くのが好きなんだと思いました。

だから終始話しっぱなしのあなたとは馬が合うんではないでしょうか」


「そうか…。よしっ、エルカさんと沢山話すぞ!」


「その心意気はいいですが、あなたがアーグさんとしているような話はしないでくださいね」


「アーグとしているような話?」


俺はレースさんの言いたいことを理解した。

確かに彼女のような淑女からこんな話を出させるのは男として終わってるってものだ。

俺は分かっていないケリフに小声で伝えた。


(下品な話はするなって話だよ)

(あぁ!)


俺に言う分には構わないがリスタやメルビーに変な単語を教えるのはやめていただきたい。

それにこれは前世の話だが、

クラスの上位カーストのヤンキーのような連中が女子と下の話で盛り上がってるのを見て正直気持ち悪かった。

あの時のクラスメイトの顔ときたら忘れられない。

俺はそんな話でしか盛り上がれない残念な連中と割り切ったが、

どんどん生生しくなる話に俺は教室からでたのを覚えている。

嫉妬とかそういうのではなくてはっきりと気持ち悪かった。

確かに思春期の男子と女子だから多少の…いやこの話は長くなりそうだからやめておこう。


「分かった!でもエルカさんとは普通の話をしてるだけで楽しいからな」


「それはいいことです。男性は全員が全員悪いというわけではないのですね」


「え、それって…」


「それじゃあ!」


ヘンクがあからさまに話を割ってきた。

でも今の彼女の顔を見たら深堀りする気にはならなかった。


「ケリフ君はどうすればいいんだ?」


「そうですね…」


少し考えた末、導き出されたのは、


「明日彼女をデートに誘いましょう!」


読んでくださりありがとうございます。

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