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60話:ケリフの悩み〈2〉

61話目です。

センターでしたね。

センターを受けた皆さんお疲れ様でした。

私にはまだ残っていると思うと憂鬱で仕方がないです。

「私によい考えがある」


舟の乗組員はヘンク一人。

どうやら定員までは余裕があるようで俺たちを乗せ、


「それでは出かけようか」


寮へと足を向けた。

いつもの帰り道とは反対方向の寮へ向けて。

俺たちは特段考えがあるわけでもないので乗り掛かった舟だと割り切り、

ここはひとつ、ヘンクについて行くことにした。


この学園は日本の学生のように制服が決められている。

学園側が支給してくれるので平民にはありがたい限りだ。

それに加え付与魔法により汚れが付かない仕様と素晴らしい特典つきと来た。

付与[清潔]が全クラス共通だが、

一つだけクラスを見分ける方法がある。

それは制服の胸のあたりにある刺繍だ。

白金は龍の刺繍が施されている。

龍はこの世界でも最強の部類に入る魔物で、

知性もあり能力も高い。

その寿命の長さはとにかく長いということだけ知られているが詳しくは分からない。

古くから伝わる本に書かれていたと特徴と合う姿をした龍が何十年かに一度見られることがあるからそういわれているらしい。

しかし繁殖能力はあまりなく、昔のある賢者が言い残した文書には一個体一羽の子しかなさないと。

たしかにそこら中が最強種と言われる龍で溢れかえっていたら簡単に世界が滅びそうだしな。

そして白金がこの刺繍になった理由は至極簡単。アイネス先生曰く、かっこいいからと。

なんだか適当な理由で付けてるんだなと思ったがかっこいいから許す。

そして金の胸にはこれまた男心をくすぐるようなかっこいい刺繍が施されている。

こちらは空想の生き物とされているバジリスクだ。

未だ誰もその姿を見たことはないとはいえ、蛇の王とされているだけあってかっこいい。

もしかしたら姿を見ているものがいるのかもしれない。

ただ、生きているのかは別として。

でも俺はいると思う。

魔物で溢れている世界だ。

蛇の王がいてもおかしくわない。

だって龍がいること自体が俺にとっての夢物語なんだからな。

そして向こうにある寮から歩いてくる生徒の胸にも金色の糸でバジリスクの刺繍が施されている。

そう、金クラスの生徒だ。

俺たちはヘンクから詳しい理由は聞いていないが金クラスに知り合いでもいるのだろうか。

俺も知り合いはいたが…先日牢屋行になった奴が一人だけだ。


生徒の集団が横を通りすぎた。

何故か黄色い声援を上げている。


「おいおいアーグ聞いたか?」


隣を歩くケリフが小さな声で耳うちをしてくる。

当たってる。当たってるから!

もう、当ててるんだよ?

って相手が女の子だったらなるんだろうが相手は残念。ケリフの筋肉でした。


「…お前なんか変なこと考えてるだろ?」


「いや、そんなことはないぞ。ちょっと、少しだけ人体についてだな」


「そうか、っと、それより今のきいたか?あの声援は俺に向いてなかったか?!

俺一人と目あったんだよ!…あーこれならエルカさんも…」


お前の方が変なこと考えてるじゃねえか。

まあ妄想に浸ってるところ悪いが現実を見てもらおう。

俺はケリフの頭を前へ向かせた。


「…あぁ」


納得したような顔をしたケリフだったがそれも当たり前だ。

目の前にはイケメンの塊みたいなやつがいる。

それに加えて一国の王子と来た。

生前どんな徳を積んだらこんな人間が生まれるのかと思ったが多分世界を二回くらい救ったんだろうなと自己完結した。

ケリフも納得したようで肩を落としている。

そんなこいつを俺はなだめるように肩を叩きながら、


「大丈夫だケリフ。お前も視界には入っていたから」


「それ全然フォローになってねぇ。逆に入ってなかったら俺は何なの?

存在してないの?」


「あれ…変な声が聞こえる」


「おいっ!俺はここにいるよな?返事をしてくれよ親友!」


「俺はいつからお前の親友になったんだ。俺は断ったはずだ。うちのリスタで変な妄想しやがって」


「アーグ…俺はその方角にはいねえよ…。こっちを見てくれよ!」


「はいはい。他のクラスの寮なんだからもう少し静かにしてくれ。着いたぞ」


俺がケリフと冗談を交わしているうちに寮へ着いたようだ。

白金とあまり変わらないくらいの大きさだが一部屋に二人で住んでいるらしい。

俺もシルと二人で暮らしているから分かるが別に窮屈に感じない。

それどころか少し広すぎて使わない部屋があるくらいだ。


「さて、少しだけここで待っててもらえるかな?」


ヘンクはそう言い残し、俺たちの返事も聞かず寮の中へ入っていった。

数分後、出てきたヘンクは一人の少女を連れてきていた。

彼女が出てきた途端、周囲の男子からは「おぉ」という歓声が上がり、

女子からは「きれい…」という尊敬の声が上がる。

つまりはそれくらいの美貌を持った少女だということ。

かくいう俺もそうだがケリフも見とれてしまっている。

俺はそっと耳を近づけ「そんなみんな失礼だろ」と言うと、

「う、浮気じゃないよな!」とか言って焦りだした。

そもそも付き合ってないんだから浮気解かないだろと思ったがヘンクが目の前まで来てしまった。

女性と一緒に。

ん?俺の頭には疑問符が浮かんだ。

何故か距離がどことなく近い。

いや、近いというどころの騒ぎではない。

少女がヘンクの腕に絡んでいるのだ。


「ただいま。彼女がケリフ君に良いアドバイスをくれると思うよ」


彼女と言われた少女は顔を腕にすりすりしている。

その容姿とのギャップが相まって幼く見える。


「それはありがたいが…その女性は誰なんだ?

なんかすごいことになっているけど」


その二人の姿が何と言ったらいいか、絵になっていて美しい。

注目の的になっている。

その視線に気づいたヘンクは移動しようかと笑い、人気の少ない庭の端っこに移動した。

そこでやっと俺の質問を答えてくれた。

いつもの他人を見て面白く笑っている彼とは違い、少し恥ずかしそうに彼女と呼ばれた少女の頭に手を置き、少女もこちらを向くと、


「私の許嫁だ」


「はい。ヘンク様の妻です」


「まだだろ?」


「まだ、ですよね?」


「はは、いつも言っているんだけどね」


ヘンクの顔は赤くなったままだ。


「私の名前はレース=クリセル、未来のヘンク様の妻です。それで、ケリフさんはどちらの方ですか?」


「それは俺だが…許嫁とか妻とかいきなりすぎて頭が追い付かない」


「まあまあ、それは置いておこう。今はケリフ君の恋が先だろ?」


「おいヘンク。それじゃあ謎は一生解けなくなっちまう」


「アーグ!お前どういうことだ!」


「あ、なんだ?冗談だろ。いちいち本気にするなって」


レースさんはまたヘンクの腕を掴むとふふっと笑った。


「あなた方は仲が良いのですね」


「そうですか?確かにこいつはバカですけどね」


「おいそんな話してないだろ」


でも俺たちは周りから見たら親友に見えるんだなとか隣でうんうん言ってる。

俺もこいつと話すときはあまり気を使わなくていいという点では無意識に友と思っているのかもしれない。

それにどことなくあいつにも似ていて…。


「でも一番うらやましいのは…」


レースさんはヘンクをトロンとした眼差しで見つめると、


「ヘンク様と一緒に居られることです」


ガバっと抱き着いた。

隣から「うわぁ」と聞こえる。

それからはぁ、とため息が聞こえると、


「なぁヘンク。お前はのろけを俺たちに見せたかったのか?それともあれか、

俺に対する自慢か?」


「いやそんなつもりはなかったのだが…。

結果的にはそうなってしまったな。すまない。

私はどうしても彼女には甘くてね」


その顔には幸せそうな顔がにじみ出ていた。

幸せそうな顔を見てるとこっちまでむず痒くなる。

が、心の内でどこか寂しく思っている俺がいる。


「それは二人の所でやってくれ。それに今はケリフのことが優先だろ?」


俺はそんな幸せを横に、今やるべき最優先事項を進める。

俺たちはそのために来たんだから。


「親友よぉ…」


隣から涙をすする音が聞こえるが無視して進める。


「それで、レースさん。こいつに恋のアドバイスをしてやってくれないか?」


「俺からも頼む!叶わなくてもいい、だがエルカさんともっと仲良くなれるなら!

アドバイスをお願いします!」


ケリフは土下座をするほど必死だ。

そんなケリフにレースさんは歩み寄ると、


「叶わなくていいなんて…そんなものなんですか、あなたのエルカさんへの恋は?」


「ち、ちがっ」


「じゃあ」


言葉を遮る。


「叶えましょうよ。あなたの全力をもって」


この人の顔には自信が宿っている。

自身の恋を叶えた女性はこうも強いものなのか。

俺は密かに笑った。


読んでくださりありがとうございました。


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