55話:ルーファの悩み〈1〉
今日は短めです。
夕飯時、ルーファは食堂に姿を現すことはなかった。
「あれ、ルーファ君は来ないのかな」
俺たち白金はクラスの親睦を深めようということで、
夕飯はいつもこの食堂で一緒に食事をすることになっている。
しかし集合の時間になってもルーファだけが来ない事に疑問を抱いたヘンクが口にしたことで、放課後からいないと分かっていた面々は不安が表に出た。
「わ、私さっきルーファの部屋よってきたけど居なかった…」
カエラが震える声でそう言った。
アイネス先生にも聞いたけど先生は呼んでないから分からないって。と続けて言い、
俺の胸の中の不安は増す一方だ。
窓の外ではしとしとと雨が降り始めている。
メルビーも心配なのは同じで、食事には一切手を付けていない。
それから五分ほど待ったがルーファが食堂に姿を現すことがなく、
俺は我慢が出来なくなり[索敵]を使った。
「見つけた…」
俺の言葉に皆が静まり返った。
と思ったらメルビーが前の机から乗り出すように、
「どこ!ルーファはどこにいるの!」
そう叫んだ。
その声には焦りが見え、他のクラスメイトも食い入るようにこちらを見つめている。
俺はメルビーの言葉に少しだけ気圧されたが、もう一度集中し場所を探る。
熱い、燃えるような中に怯えて怖がるような反応がある。
この学園の敷地内ではなかった。
少し離れた北西の…ここは確か人気があまりなかったはずだ。
俺はここに入学したての頃、メルビーに連れられサマ王国を一周したから大体の地形とそこがどのような場所かは把握している。
ここはサマ王国には珍しく寂れたような活気があまり見えなくて印象によく残っている。
そこまで分かったところで疑問に思う。
この学園では日没後の敷地外への外出は基本禁止だ。
通り道である門にも監視がいて塀も高く、飛んで出ることは不可能。
ではなぜルーファはそこにいるのか。
疑問を頭の中で考えていると、メルビーがしびれを切らし、
「あぁもう!アーグ遅い!早くして!」
ついには俺の肩を前後に揺らした。
考えにふけっていた俺はその衝撃ではっとなり、皆に今分かったことを伝えた。
それを聞いた面々はさらに不安な表情を浮かべた。
当然だ。ルーファは出かけたら帰ってこないほど悪い人ではない。
ましてやこんな時間に出られるわけがない。
「行こう!」
そう口にしたのはカエラだった。
「行かなきゃ!何かあってからじゃ…遅いよ…」
そこまで口にしたカエラは何故かどこか悲しそうだった。
しかし、それには気づいていなかったのかケリフが「でも」と続けた。
「どうやって外に行くんだよ。今から行くには先生に許可もらわなきゃだろ」
そうだ。外に出るには先生、その中でもアイネス先生だけが日没後の外出許可を出せる。
「それじゃあ遅い。俺は塀を乗り越える」
俺はすぐに席を立ち、飛び出した。
塀なら俺の身体強化で何とかなる。
しかし、俺の袖が引っ張られ派手にしりもちをついた。
「アーグ、私も行きます。私なら飛べますからね。だから冷静になって」
自身満々にそういったのはリスタだ。
俺はそれを聞いて少しだけ焦り過ぎたと思い、一度深く深呼吸をした。
頭が覚めていくのがわかる。
「私も!連れてって!お願い、アーグ!」
「リスタ、行けるか?」
カエラは飛べなくても行く!と言っているが。
「二人なら大丈夫で「私は!」す」
リスタの声をメルビーが遮った。
「私も行きたい!」
俺は少しだけ考え、答えを出した。
それは、
「ダメだ」
「え…」
メルビーは一気に落ち込んだ顔になった。
「メルビーにはアイネス先生に伝えてもらう。ルーファに何かあったのかもしれない。
メルビーならすぐ行けるだろ?」
そこまで聞いたメルビーはまた元気を取り戻し、外へと走っていった。
それに続いて俺たちも外へと走り出した。
「じゃあ行きます」
リスタは俺とカエラの肩に捕まった。
「[飛翔]」
体が風で浮き上がる。
門からは遠いい位置。
ここならバレることはない。
塀の上に辿り着き、乗り越えようとしたその時。
「痛ったああ」
俺たちは何か壁のような物にはじき返された。
当然、そこには何も見えなかった。
俺は何が起こったかわからなかったが、ここは地上十メートル。
二人を抱きかかえ、[身体強化]を足だけに集中させる。
着地。
頭から落ちる事は免れたが俺の足にはひどく思い衝撃が走った。
ボキリと何かが折れる音がする。
「いっつ…[回復]!」
緑色の暖かな光に足が包まれ、痛みが引いて行く。
そんな余韻に浸っている余裕もなく、カエラがつぶやく。
「あれ…多分魔力障壁だ。しかもアイネス先生が作ったものだからかなり、いやすごく硬い」
それは死の宣告の様なものだった。
これを超えなければ辿り着けない。
かといって門からはすぐに出ることが出来ない。
———終わった。
そう思ったその時、俺たちの頭上を何かが飛んでいった。
それは月の光に照らされきらきらと銀色に反射し、
パリン
魔力障壁の破片と一緒に俺たちの目の前に降り立った。
その少女は少しだけずれた仮面をもとの位置に直し、
「ん」
一言だけ、そう告げた。
リスタはすぐに立ち上がり、先ほどと同様に肩に手を置いた。
そして俺は去り際、
「ありがと」
「ん」
俺たちの付いた場所は灯りがところどころにしかなく、
カエラの魔法でやっと互いの顔が見えるようになるほどだ。
俺の反応は今目の前にある豪華な家の地下からしている。
これまた豪華な門の前には二人の門番と思われる男が立っている。
そいつらは空から下りてきた俺たちに少しだけ驚いた表情を見せたが、すぐさま俺たちを睨み、やりに手をかけた。
「なんだお前ら。ここはガキが遊びに来るところではない。
痛いのがいやならすぐに立ち去れ。おっと、そちらの二人は残ってもらおうか」
またこれか。
俺は頭が痛くなった。
この家は見るからに貴族の。
それもかなり上位の者の家だ。
たしかにこの二人は美人で可愛いから分かるけど同じ男としてはいい加減嫌になってくる。
理性が足りないのか女性を下に見ているのか。
近づいてくる二人の顔にはいつか見たにやにやが浮かんでいた。
カエラとリスタは怯えているのか震えている。
そして二人の肩に手が伸びた瞬間、
俺の怒りが抑えられなくなった。
と思ったら目の前の二人が吹き飛んだ。
「気持ち悪いです」
「その顔、虫唾が走る」
俺は苦笑いし、怯えが少し増えたルーファの反応に不安が高まった。
そして外の異変に気付いた兵たちがわらわらと溢れてくる中、
カエラとリスタは笑顔を俺に向けた。
『ルーファのことは頼んだよ』
俺はああと答え、門を蹴り開けた。
読んでくださりありがとうございます。




