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54話:定食のために

55話目です。

「メルビー、北東30m。リスタは上から援護」


サマ王国の南に位置するこの森はかなり危険な狩場として知られている。

魔の森なんて呼ばれ方もしているが、深くまで入らなければ俺たちでも十分に戦うことが出来る。

しかしそれ故ハイリスクハイリターンだ。

出てくる魔物の強さはかなりの物だ。

しかし、皮や肉、鱗、特に魔石は高値で取り引きされる。

一度狩りに出れば、三日分は食費が稼げるだろう。

他の平民の生徒たちは森と王国の間に位置する平原でスライムや一角兎を狩り生計を立てているそうだ。

今俺たち三人が狙っているのはオーク。

茶色の体に隆起した筋肉が特徴で、知能が極端に低いがその筋肉から繰り出される一撃は即死レベルだ。

盾で防いでも盾ごと吹き飛ばされ、悪ければそれまた即死だ。

生まれてくるものはおすだけで、オーク同士では交尾ができない。単体でもまた然り。

その反面、繁殖能力が高く、他の生物、魔物でも人間でも性別が雌であり、それなりに頑丈な体なら誰でも生ませることが出来る。

人々の中でも生まされたといった例はよく耳に入る。

単体ならランクCの冒険者で倒せるかどうかくらいの強さなのだが、

大抵の場合は群れでいるため討伐も難しい。

ギルドではクエストとして貼られない日はこないほどなのだ。

俺たちのランクはC。

俺は自己評価をちゃんとする男だ。

ランクCの中でも俺たちは強い方だ。

なんならBの冒険者と戦っても勝てると思う。

別に自意識過剰というわけではなく、それほど環境と師に恵まれ、その上で努力を惜しまないといったこともあり、そんな理由で強くなれたのだと思う。

だからと言ってこれで終わり。

なんてくだらないことを言うつもりはない。

今もこうして己の力を伸ばせるように努力しているのだから。


「[身体強化]!」


「[飛翔]」


メルビーが走りだし、リスタは風のように飛んだ。

どちらも「風」といった言葉がよく似合う。

それほどまでに早い動作、そして思考だ。

敵は醜悪な見た目をした悪魔が三体。

二体三の不利な状況だが、そこは状況をしっかり整理することで補う。

相手は幸い知能が低い。

メルビーが音に気づいた三体のうち、一匹に狙いを定めてその首にナイフを突きたてる。

こちらを振り向いたときには一匹の命は絶たれていた。

一匹が死んだとわかった途端、他の二体はその手に持っていたこん棒をオークもろとも叩きつけた。

死んだ仲間はもういらないか。潔いことだ。

しかし叩きつけられたオークを見るとメルビーは既にいなかった。

それどころか上からの攻撃が迫っていた。

こん棒を伸ばしたその手を巻き込むように風の刃が飛んでくる。


[風刃ウィンドカッター]」


ばああおあおおお!といった声に周囲の取りが飛んでいく音が聞こえる。

二体のオークの目には怒りと焦りの色が滲み出ている。

速さについて行けないと本能が悟ったのか、手当たり次第にこん棒を振り回す。

それがもう一体のオークに当たるとそいつはなんだ!と言わんばかりにこん棒を振り返す。

こうなったらおしまいだ。

メルビーの口が微かに動く。

それに頷いたリスタは左の一体を、メルビーは右の一体を担当した。

やっぱりリスタの風を使った耳はすごいものだ。

風があれば聞こえると言ったが、戦闘の最中に相方の声を瞬時に拾い、行動するのだからものすごい技術だ。

そして一対一に持ち込んだ二人はそれぞれ失敗することもなく、

攻撃を正確に急所に当て、バタンとオークが倒れた音で戦闘は終了した。


「お疲れ様」


俺は二人に三人専用の収納袋の小さい方から出したタオルを渡し、

代わりに大きい方の収納袋にオークをしまっていく。

二人ともかなり集中していたようで、木陰で仰向けになっている。

俺はオークを持ち上げ、三体ともしまい終わり、彼女達の所に戻ろうとしたが、

[索敵]に反応が出た。

方角は今度は北西。距離は100mといったところか。

魔石の反応的に今回もオークだろう。

最近の俺の[索敵]は一度会った相手なら何か分かることができるようになり、

距離も3㎞までなら測ることが出来る。


「二人ここで少し休んでてくれ、俺はちょっとだけ出かけてくる」


小さい収納袋から今度はスフィア特性のキンキンに冷えた水を取り出し、メルビーに渡そうとしたが、メルビーはそれを手で遮り、額に浮かんだ汗をタオルで拭きながら立ち上がった。


「私も行く。まだまだ元気いっぱいだからね!」


メルビーの目にはやる気が満ち溢れており、リスタもそれに続くようにタオルを俺に投げつけた。


「私もアーグに負けてられませんからね!」


俺は二人を見て、危なくなったら俺が守らなくちゃなと思いながらもそんなことは起きな

そうと笑い、「行こうか」と走り出した。



ギルドでの換金を終えた俺たちは寮へと向かっていた。

今日の成果は金貨が3枚と銀貨が5枚だ。

て言っても俺たちが換金したのはゴブリンを5体、オークを5体、

他の魔物を3体だ。

収納袋に残ったオーク三体は食堂のおばさんに渡す予定だ。

換金の際カエラが解体をしてくれるのは本当に助かる。

それを専門にしている人よりも早く正確にできるからな。

その報酬はメルビー定食から頂いてるからいいのって言っていた。

ありがたい限りだ。


「明日のメルビー定食は何だろな」


俺は帰りの道で何となく口にした。


「やっぱり角煮がいいかな!でもでも新しいのも嬉しいかも!」


メルビーは口から涎を垂らしながら明日の献立を妄想している。

それをカエラがハンカチで吹きながら何気なく話に乗ってきた。


「私も楽しみだけど…朝からはちょっときついかな。

もっとさっぱりしたものを食べたいし」


リスタもそれには同感のようで、俺の手を掴み、ずいっと寄ってきた。


「アーグ、私は鳥系の油身が少ないのがいいです。ね?いいですよね?」


しかしメルビーはそれに反対のようで、むすっとした顔リスタを睨んだ。


「リスタは魔法が使えるからいいじゃん!私は飛べないし、どうやって倒せばいいの!」


魔法が使えない事が悔しいのか、カエラに泣きついた。

カエラはよしよしと言いながら思いついたように次の話題を持ち出した。


「そういえば今日授業終わってからルーファのこと見てない?

分からないところ聞こうと思ったんだけど会えなくて」


それを聞いて俺は即答した。


「俺たち三人は放課後すぐに森に出かけたからな、会ってないよ」


それを聞いていたリスタは俺から離れ、顎に手を置き、


「図書館は行きました?ルーファはいつもあそこにいるってアーグが…」


しかしカエラもそこには既に行っていたようで、それに加え寮の自室にもいなかったそうだ。

まあ夜になれば帰ってくるでしょということでその話は終わった。

俺は3㎞までは[索敵]を使えば分かる。

だが極力それは日常生活で使いたくないのだ。

プライベートに入られるみたいで嫌だろ?

少しだけ不安感を抱きながら、途中で会ったケリフとエルカさんもどうやら知らないようで。

ケリフはエルカさんとデートだと思っていたらしく、

少し不機嫌そうになっていた。

エルカさんがどう思っているか分らんがな。

その後は6人で寮へと向かった。

俺はメルビーとリスタとカエラはエルカさんと話しながら楽しく帰った。

ケリフは後ろでブツブツ言っていたが何となく気持ち悪かったので話しかけなかった。


「はい、確かに受け取ったよ。

メルビーちゃん、明日の定食も楽しみにしててね!」


オークを受け取ったおばさん達は早速今日の夜と明日の仕込みがあるようで、

各自仕事に戻っていった。

あの後一度寮に戻ったのだが、結局ルーファは自室にいなかった。

何故かものすごく胸騒ぎがする。

そんな俺の心情を察したように、天気は曇りへと悪化していった。


読んでくださりありがとうございます。

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