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53話:メルビー定食始動

書けたので投稿します。

ふわっと食欲をそそる匂いが鼻の中に広がる。

ここは学園にある施設の一つ、食堂だ。

ここでは色々な物が食べられる。

麺類から米、サラダにパンまで、幅広い種類を網羅している。

ここのは価格がとても安価で、平民の生徒でも簡単に手を伸ばせる。

それ以外での食事の方法は町に行くくらいだ。

でもそんな食事に俺の目の間にいる少女は少々不満があるようだ。


「ええー!もっと多くしてよ!これじゃあ足りないって!」


カウンターをばんばん叩き、おばさん達に向かってわめいている。

お盆にのっているのは今日の定食の「オークの肉の角煮とオオハコのサラダ、スライムのゼリー」だ。

朝から角煮か、なんて思ったりしたが、メルビーは大盛にしたにも関わらず足りないようだ。


「メルビーちゃん。たくさん食べてくれるのはうれしいんだけど…他の生徒もいるからねぇ。一人だけ特別ってわけにはいかないの」


「そ、そんなぁ…」


メルビーは膝から崩れ落ち、目には涙が浮かんでいる。


「いつもごめんね」


おばさんも嬉し悲しといった感じで顎に手をやっている。

俺はそんなメルビーの横に立ち、肩に手を置いた。


「メルビー少し我慢しろ。そしたら後で町でなんか買ってやるから」


それを聞いたメルビーの顔はひまわりのようにぱあっと明るくなり、

うんっと頷きお盆をもって走っていった。

俺は自分の注文をするべく、おばさんにもう一つの定食を頼む。

俺には朝から油ものは胃が持たないからな。

そんな俺におばさんは笑顔でお盆を渡してきた。


「はい、定食ね。あとさっきはありがとね。

あの子いつもああなのよ。

たくさん食べてくれるのはうれしいんだけど…材料にも限りがあるしね」


これは俺も少し考えなければならないかな。

いつも我慢しろとは言ってるが別に食べるなって言いたいわけじゃないし。

逆に幸せになってくれるなら俺はいくらでも食べさせてやりたいし。

どうしたものか。

俺はお盆を持ち、メルビーの向かい側に腰かけた。

やぱっり俺はこの表情が好きだ。

ほっぺが膨らむほど口に放りこんで…あぁのどに詰まってるじゃん。


「ほら、これ飲んでください」


メルビーの斜向かい、俺の隣からコップが差し出された。

聞いたことあるな、そう思い横の人に顔をちらっと向けるとやはり俺の知ってる人だった。


「スフィアも来てたのか、水ありがとな」


向こうは俺に気づいていたらしく、にこっと笑い、いえいえと言って手を振った。


「何か、悩んでるの?」


その言葉に俺は少し驚き、頭を掻いた。


「いやまあ少し、な」


スフィアはメルビーの飲んで空になったコップに水を生成し満たした。


「私でよければ聞くよ。だって私も、聞いてくれたしね」


俺にコップを差し出し、水を注いでくれた。

俺はそれを口に運び、普通の水よりもおいしいなと感じながら答えた。


「見ての通りメルビーは大食いなんだが、どうしてもこの学食じゃ足りないらしくてな。

俺も食べさせてやりたいのは山々なんだけど、何しろ学生の財力ってものがあるだろ?だからどうしようかなって」


スフィアは味噌汁を一口だけ飲み、少しだけ考える素振りを見せた。

そして十秒ほどが経ったか、あっと何かを思いついたようだ。


「お金がかからないで、この食堂の材料も考えるとなると…」


「そんなこと出来るのかっ!」


俺はスフィアの肩を掴み、叫んでしまった。

その結果は火を見るよりも明らかだ。


「あ、アーグ…ちょっと、近いよ!みんな見てるし…後で言うから今は早く食べちゃお?ね?」


「アーグ…何してんの」


スフィアは俺とは目を合わさず、あたふたと右と左を目で行ったり来たりさせ、

メルビーのジト目で睨まれている。

そんな彼女達の姿を見てやっと自分が目立つ事をしてしまったと理解した。

確かに急に叫んで女の子の肩を掴む人がいたらそっちを見るにきまってる。

俺なら二度見どころか三度見はする。

そして直ぐに椅子に座り直し、箸を手にした。



そんなことがあり、俺の部屋で話をしようということになった。

シルは当然のように寝ている。

俺は一応部屋に招いた住人として紅茶を提供した。

この紅茶を入れるのが俺の数少ない特技の一つだ。

昔から安い紅茶でどれだけ美味しく入れられるか研究に研究を重ねたものだ。

その紅茶を飲んだスフィアは流石貴族。

飲んでいる姿一つ取るだけで絵になりそうだ。

元々の素材が良いというのもあるだろうが、飲む姿勢が美しい。

俺は彼女が座っている机の対面に座り、一口だけ紅茶を飲み話を切り出した。


「それで、方法ってのはどんなやり方なんだ?」


スフィアは俺みたいに変に緊張はせず、冷静に答えた。


「自給自足かな」


「自給自足…」


俺はその四文字をすんなりと理解できなかった。

そんな俺を見たスフィアは、ふふっと笑い、続けて説明に移った。


「まずはメルビーが魔獣を狩ってくる。そしてそれをギルドで換金はせず、食堂のおばさん達に無償で渡して、ご飯を作ってもらう。代金はメルビーが食べなかった分を他の生徒が食べる定食とかの材料にしてもらってそれを考慮してもらえば多分無料か、値段がかかったとしても定食よりも安くなると思うよ。どちらにも利点はあるからね。メルビーは食べたい分を狩ってきて料理をしてもらえる。食堂のおばさん達は他の食費が浮く。どうかな?」


俺はスフィアが言ったことをメモし、それを何回か目を通してこれはっ、と思った。

確かにこれなら俺も手伝えるし食費が浮いてくれる。

第一メルビーが自分で戦闘をして取った食糧ならさぞおいしく食べれるだろう。

自分で料理したものはうまいって言うしな。

自分で材料を取ったものもうまいはずだ。

それに戦闘を通して己の力になるだろう。

まさに一石二鳥だ。


「すごい良いよ!メルビーもどうだ?これならたくさん食べられるぞ」


俺は今までずっと静かに紅茶と格闘していたメルビーに聞いた。

メルビーは熱い紅茶でやけどしたのか、舌を出しながら泣き目になっていた。


「うぅ、はうい…へほほへはらほはかいっはいはへはへふへ」

(うぅ、熱い…でもそれならお腹いっぱい食べられるね)


メルビーも賛成のようだ。

そうだっとスフィアが手を叩き、


「メルビー定食っていうのはどうかな?メルビー専用のメルビーのためのってことで!」


「メルビー定食…良い!スフィアありがと!じゃあ早速行ってくるね!」


スフィアの生成した水を飲み、元気を取り戻したメルビーが部屋を飛び出そうとしたのを全力で止めた。


「待てって!まだ授業行ってないだろ!放課後な」


まったく、食が絡むと授業すらほっぽって行くのか。



そして放課後になり、また飛び出していこうとしたメルビーを引き留め、

俺はある物を渡した。


「はい、これ使ってくれ。いちいち持つのも大変だろ?」


「わぁ…でもいいの?」


「いいんだ。俺は荷物を持ってくる以外でそれ使わなかったからどうしようかと思ってたくらいだ」


「ありがと!大切に使うね!」


それを胸に抱え教室を飛び出していった。

俺が渡したものは収納袋だ。

母さんが一人一つ渡してくれたものだが俺には必要なかった。

俺が必要と思った物は三人で使ってる収納袋に入ってるしな。

特に荷物の置き場に困ってるわけでもないし。

今日の休み時間でクラスの皆とその話題を話したらカエラが解体を担当してくれることになり、俺も解体のことを考えていなかったからありがたかった。

その質問をしたのはルーファだ。

俺と違ってちゃんと考えていてくれる。

さて、俺も少しだけ手伝いに行くか。


「じゃあリスタ。行こう」


「うんっ!」


ちなみに食堂のおばさんは快く引き受けてくれた。

しかもメルビー定食の名前も好評だそうだ。

メルビーが満足したらその定食は無料で他の生徒も食べることができ、

おばさん達も腕が鳴ると張り切っていた。

これで俺たち三人の貯金も少しずつ増えていくことだろう。


読んでくださりありがとうございます。


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