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51話:まだ…怖いよな

今日はコミケに行ってきました。

初めての参戦だったので行動がたどたどしいものでしたが全て回ることが出来たので良かったです!

やっぱりイラストを描ける人ってすごいですね。

心地良い風がどこか遠くからか、はたまた近くか草木の香を運んでくる。

鼻を通り抜ける香はいつかの村を思い返させるようなそんな匂いがした。

スズメの子が親を呼ぶ声が聞こえてくる。

その声を境に辺りの緊張が一気に高まるのを感じた。

ダンっ

地面の土が掘り返される。

姿勢は低く、相手のつま先から頭のてっぺんまでを見据え、最適解を探す。

そこだっ!

右こめかみ。

走りながら次の行動を想像し、拳を突き出す。

一直線に伸びた拳は相手の片手だけで簡単にあしらわれ、

お返しと言わんばかりに右わき腹に蹴りを入れられる。

肺から空気が一気に抜ける感覚に陥り同時に草の上を転がり飛ばされた。

しかし飛ばされる直前に視界の端に見えたそれを見逃していなかった。

転がりながら大気の魔素を集め、


「[身体強化改]」


途端に体が軽くなるのを感じ、横にはねのける。

ドンっという激しい衝撃と共に、自分が寸刻前にいた地面が理不尽な力によって沈降し、

何か巨大な何かが落ちたのかと見るものを恐怖に陥れる、そんな穴ができていた。

しかしそんな感想を言っている暇はない。

次は自分がああなるかもしれない、相手を探す。

が、肝心の相手がいるはずの場所にいなかった。

背中に一筋生ぬるい汗が流れる。


「…っ!」


体を無理に捻り、後ろから飛んできたそれを避ける。

[気配察知]

継続スキルとも呼ばれるこの気配察知は、

持っていれば常に発動され、その名の通り気配を感じとる。

スキルの取得方法は何度も言っている通り、

一つは日頃の鍛錬や性格、環境によってふとした時に得られるものだ。

一つはアーグのように魔獣との戦闘によって相手から略奪という形で奪い取る物だ。


とんできた拳を空中でつかみ取る。

感覚がない。

手でつかみ取ったはずの拳と共に、相手の姿が空気中に霧散し消えてなくなってしまった。

地面に着地、頭にチョップを入れられた。



「シル…新しい技を出すのはなしだろぉ」


緑のベッドに寝っ転がりながら目を閉じ、肩で息をしながら話し始める。

アーグを見下ろすようにシュルガトはのぞき込み、

透き通るような声で答えた。


「そんなルールはない」


目の焦点がどこにあるのか、

表情の一つも見えないその仮面に見下ろされるとこんなきれいな青空にしたでも少しばかりか恐怖を感じてしまう。ましてや今倒されたばかりだ。

そう思い腰を起こし、胡坐あぐらをかく。

今度はスズメの親が子に餌を持ってきたのか、帰還を知らせる鳴き声が聞こえてきた。


「最初の一発はいけたと思ったんだがな」


先までの特訓を振り返り、感覚を確かめるようにゆっくり拳を突き出す。

見た目は何かのスポーツ選手のような恰好の、白と黒をベースにしたジャージを着ている

最近のお気に入りなのか特訓で付いた土をはたはたと手で払い、

彼女は俺が胡坐をかいてできた足の間にお尻をすっぽりとはめ、

仮面をパタパタとした。

ちなみにこのジャージは俺が作ったこの世界でただ一つの物だ。

魔獣化した蜘蛛が生成する糸を集め、

サマ王国特有の赤いスライムの体液を[錬金術]によって混ぜ合わせ、

それを使ったものがシルの来ているジャージだ。


「隙を共通にするのが強者だ」


俺の頭にはハテナが浮かんだ。

隙を共通にするなんて意味が分からない。

互いに弱みを見せあえばいいのか。

いやそんなのは強者とは呼べないだろう。

俺がその言葉にどんな意味を込めて彼女が言ったのか思考を巡らせていると、

彼女がそれを読み取ったのか、口を開いた。


「今は分からなくていい。戦闘を経験し、思考し、鍛錬を積み、ある時にわかるようになる」


俺はあまり納得がいかないまま特訓で温まったからだを風が冷やしていく感覚に身を捧げる。

春の日差しは心地よく、

その上このそよ風で眠気が誘われる。

胡坐の上で俺に身を預けていた彼女も既に寝息をすやすやと立てている。

今日は休日だ。授業はない。

このまま寝てしまうのもいいのではないか、そう思い、夢の世界へと入っていく。

バコンッ

頭を鈍器のようなもので殴られた。

いや痛いなおい。

眠りを妨げられた怒りと後ろを振り返ると、そこには頬を膨らませたリスタが立っていた。

その可愛さについ怒りが飛んでいってしまったが、鈍器つえで殴られるとは何事かと思い、声を出そうとしたそれよりも前にリスタがキンキンするような声で叫びだした。


「今日は一緒に街に行くって約束してたよね!

それがなんで他の女の子を股に乗せて寝てんの!」


こら、女の子が股とかいうんじゃありません。

それ他の誰かが聞いたら勘違いしちゃうからね。

ぷくーっとさらに膨らんだ頬が痛くなったのか元の大きさに戻し、すりすりとしている。

確かに、そんな約束をした覚えがある。

しかしこんな朝早くから行くものか?

そう思いながらもリスタの目尻に涙が浮かんでいるのが見え、そんなことを言うのも失礼か、シルを抱き上げリスタに向かい合う。


「ごめん。今行こうとしてたとこ」


絶対嘘だよね!そう言いながらも表情が少し綻んでいて、こっちまで微笑ましくなる。



一度寮の自室に戻り、シルをベッドで寝かせた後、シャワーで汗を流していた。

あそこをこうしていれば…ぶつぶつ。

特訓を思い出しながら自分の改善点を探す。

シルの言っていた、

「隙を共通にする」

その言葉を頭で反芻し、自分の視点と絡め合わせる。

しかしあの時の隙をついた一撃は確実に入る物だったはずだ。


「アーグ、着替えここに置いておくよ」


リスタが脱衣所に着替えを持ってきた。

しかし考えにふけっているアーグにはその声が聞こえなかった。

彼の悪い癖だ。

シャワーを浴び終わり、脱衣所へと出た。

それすなわち、


「…へ?き、きゃああああ!」


アーグの息子が丸見えになっていたということ。

しかし、それに気づいたときは時すでに遅し。

リスタの悲鳴を聞きつけたシュルガトが脱衣所の扉を蹴り飛ばしながら入ってくる。

それすなわち、


「…意外と大きい?」


アーグの息子が丸見えとなっていたということ。


「す、すまん!」


そう言いながら風呂場へと戻っていった。



「なぁ、そろそろ機嫌戻してくれないか?」


シルは一度目が覚めてしまったということで俺の背中に乗っている。

かくいう俺はというと尻に杖でつくつくとされている。

その本人は勿論リスタだ。


「だって…お嫁前の乙女になんてものを見せてるんですか」


後ろを振り返ると顔を赤らめた彼女が杖を握りしめていた。

そんな顔をされると、こう…男心を刺激するものがある。

やはりといったところか。

ここはいつかの貴族がいるように、良い奴らばかりではないのだ。

あぁ、ランド王国が恋しい。

案の定ガラの悪い連中が近づいてきた。

ここじゃあ目立ってしまう。

俺はリスタの手を引き、路地へと駆けこむ。


「え、えっ?」


リスタはなんだかわからないといったような顔をしたが今はそれどころではない。

曲がり角に差し掛かったところでリスタに声を放つ。


「リスタ!上だ!」


その言葉を理解したのか、杖を構え、


「[飛翔]」


地上10mといったところか、屋根の上まで一気に飛び上がる。

曲がり角を利用したため、

追いかけてきていた連中もまさか屋根に飛び移っているとは思わず、

分かれるようにして走り去っていった。


「はぁ…リスタ大丈夫かっ!」


横にいたリスタは震え、呼吸も荒くなっていた。

額にはうっすらと汗をかき、目も焦点が合ってないようにあちらこちらと回っていた。


「ん」

後ろから声が聞こえ、そちらを向くと仮面の少女が何かを促すように「ん」と、

ただ一言だけ発した。

俺はその意図を察し、

リスタを抱き寄せ、優しく頭を撫でる。

何も言わず、ただ優しく。



何分経ったか。日が30度ほど傾いた気がする。


「今日はやめておくか?」


胸に顔をうずめていた彼女はゆっくりを首を横に振り、

ささやくようにつぶやいた。


「もう大丈夫…うんっ!行こ!」


顔を上げた彼女の表情は先のような怯えたものではなく、

見るものを自然と笑顔にする太陽のような笑顔だった。

それを見た俺はもう心配がなくなり、腰を上げ三人で街道へと歩き出した。


読んでくださりありがとうございます。

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