47話:また一難?
テスト前回よりもよくなってました。
ありがとうございます。
ガラガラ
一人の青年が入ってくる。
「はい皆さん。席についてくださいね。
席と言ってもどこでも…すでに決まっているようですね。
私は知っての通りこの学校の長である、アイネスという。
そんな驚いた顔をしてどうしたんだいアーグ君。
そんなに嫌かね?」
「そうではないんですが…長が担任をするなんてめずらしいなと」
本当はまたいつ殺しにかかってくるかわからないから構えてるだけだ。
「そうかそうか、今年は面白そうだから私が担任を持たせてもらうよ。
国から魔導士の称号をもらってるけど、
対人戦もできるからそこらへんは心配しないでくれたまえ。
まあいざとなれば他の人を呼べばいいしね、あはは」
「アイネス先生」
「どうした?何か質問かな」
ケリフが手を挙げたと思ったら、
…どうせくだらない。
「先生って彼女いますか!」
ぶっ!
思わず吹き出してしまった。
ヘンクが。
「ふむ、初対面でそういうことを聞けるほど肝っ玉が据わっているのはいいが、
どうか察してくれ」
アイネスさんは少し怒りを顔に浮かばせた。
しかしケリフはそれに気づかないのか言葉を続ける。
「なんでですか?先生だったらいい人の一人や二人いそうですけどね」
「…」
ほら怒るぞ。
「あっはっは」
静寂を破ったのは意外にも怒りをあらわにしていた本人だった。
「やはり君たちは面白い!長年この学校にいるが君たちみたいな子供たちは初めてだ」
「せんせーい!私もいいですか?」
メルビーがケリフに続いて声を上げる。
「どうぞ」
「アイ先生のおすすめの食べ物は何ですか!」
メルビーらしい。
「そうだね、君は下で売っているスライムの飲み物を知ってるかい?」
「はいっ!シュワシュワして美味しいやつ!」
「うんうんそうだね。実はあれ、ここの教師の一人が作ったんだよ。
私はあれに色々なフルーツを入れて飲むのがおすすめだね」
「へー、アーグ!今度また行こ!」
「あぁ、そうだな」
「そうだ!今日はこの後何もないし、皆で行ってきたらどうだい?
親睦を深める意味を込めてさ」
「いいねー!」
アイネスさんの提案に皆が賛成する。
「ルーファ君もいいね?」
アイネスさんは微笑みながら問う。
それに対しルーファは、
「わ、分かりました…」
「それじゃあ今日はこれで終わり!皆また明日会おう」
そして午後に皆で集まることとなり、
各自一度自分の荷物を寮に運ぶこととなった。
その時ケリフがエルカさんの荷物を自分から持つといい、
勝手に死にそうになっていたのを俺はちゃーんと見ていた。
「どうしてお前がいる」
寮の部屋につき、開口一番に放った言葉がこれだった。
白金クラスの寮の部屋は教室と同じくらいの広さでさたに豪華な造りになっている。
そのうえ一人一部屋と来た。
それが無料で支給されるなんて、と俺は思いながらここまで足を運んできた。
はずだった。
そして部屋に入った俺の口から垂れてきたのはそんな言葉だった。
俺の胸に抱いた一人で自由に暮らすという希望をあっさり壊したのは彼女。
キングサイズかっ、と突っ込みたくなるほど大きなベッドに寝転がり、
窓から差し込む春陽をその自慢の銀髪できらきらと反射させ俺の目をくらませる。
「ん」
一言と一緒にその手にはぴらぴらと一枚の紙が握られていた。
持っていた服やら生活用品やらお金やら、俺の私物を壁際に置き、
その手紙と思われるものを受け取る。
「これは…」
そこに書かれていた名前は俺がさっきまで会っていた人物の物だった。
「アイネス
シュルガト君と一緒の部屋で暮らしてね。
これは長としての願いだから異論は認めませ~ん」
なんだこのふざけた手紙は。
まあいい。要するに俺はこの部屋でシルと暮らせばいいと。
なんだよ、前と変わらないじゃないか。
「はあ、シルと暮らすのは良いとして。
荷物はどうしたもう片付けたのか?」
「ん」
指さした方向には乱雑に積まれたバックの数々。
いやどっから持ってきたの!
来る時はこんなのなかったよね!
「んん」
そうか、アイネスさんが用意したのねなるほど。
そうして俺はシルの洋服も一通り片付けることが出来た。
片付けている間に一応この部屋全てを回ってみたが、
やはり教室一つ分となるとかなりの大きさに感じた。
前世の俺と雪だったら20人は一緒に住める。
勿論俺1雪19だ。
…それはいいな。
おっと、片付けている内にいつの間にか約束の15分前だ。
「シルも一緒に行くか?
みんなで下に食べ歩きに行くんだが…」
「うん」
そういって彼女は俺の背中に乗ってきた。
そこはもうシルの定位置になっている。
慎ましやかに育った二つの存在を感じながら、
俺たちは部屋の扉を閉じた。
「なんだあれ…」
学校と下の町を分ける境界線に立っている門の付近に一つの人だかりができていた。
そこにいる人たちは口々にこう言う。
なぁあれって…。
止めたほうがいいんじゃないか、だってあの人ってあの人だろ?
俺たち平民には何もできないよ…。
俺は妙な胸騒ぎがして人波を分けながら内側へと入っていく。
そこにいたのは男が数人。
その中でリーダーと思われる男が真っ赤に燃えるような髪に妖艶な唇を持つ一人の女性を壁へと追い詰め、いわゆる壁ドンの状態になっていた。
しかし俺には過去に一度この光景を見たことがある。
「あいつ…っ!」
俺は一気に波をどけ、その男と女性、サラムの間に割って入る。
「おい、離れろ喜色悪い」
そいつは俺の顔を見るや否や、
「貴様…!お前のせいで俺は白金に入れなかったんだぞ!」
何を言っているんだ。
俺はこいつと会ったことはあるが何か受験に支障が出るようなことはしていないはずだが。
「聞けばお前あのリックさんの息子なんだってな。
それも長の友人ので英雄ともいわれているあのリックさんのだ。
貴様のような親の七光りで入る奴のせいで私が白金に入れなかったのだ!
それに私の遊びを二度も邪魔をした。
その罪は重い!父上に頼んで貴様を罪人とする!
その前に…おい」
そいつの掛け声とともに人の波を殴るように入ってきたのは一人の大男。
「私は失敗から学ぶ男でな。こういう時のために用意しておいた用心棒だ。
ランクはA。いくら貴様が首席と言えど泣いて謝る姿が目に浮かぶなぁ!やってしまえ」
そして何の躊躇もなく腰に掛けてあった鈍器に手をかけ殴りかかって来る。
ここで鋭利な武器を使ってこないところがまたいやらしい。
しかし流石Aランク。この肉体をどうやったらこんなに早く動かせるのか、
かなり前から思っていたことだが…あの人たちに比べれば月とすっぽん。
いや太陽とすっぽんか。
「えっ」
俺はサラムを抱きかかえたまま横に飛んで避ける。
あっ、やわらかい…。
いかんいかん。
「シル、頼む」
「ん」
サラムをいつの間にか俺の背中から降り、波の中で見物していた彼女に預ける。
なんたって彼女が一番安心できるからだ。
俺は大男と向かい合う。
しかし、
「はっはっは、貴様もバカだな!
こんなに華奢な女にこいつを守らせるなんて酷なことをする。
お陰で俺の手持ちが一人増えたぞ!」
そうしている内にも大男は攻撃の手を止めない。
ひょいっひょいっと避ける俺を見て大男も次第に頭に血が上ってきたのか、
攻撃が大振りになってくる。
そうなれば俺のもんだ。
「この女がどうなってもいいなら今すぐ避けるのをやめるんだな!」
貴族の男はシルの首に剣を突き立てる。
こいつは…さっきから女性を何だと思っているんだ…。
キンッ
金属が折れるような甲高い音が鳴る。
それと同刻俺の拳が大男の割れた腹筋にさらに溝を作る。
「あ?」
貴族の男は音が鳴る方を向き、唖然とする。
何故ならそこにはあるはずの物がなかったから。
「な、何故だ!私の剣が…折れている…」
「ありがとうなシル。おかげでこっちも片付いた」
シルは親指をぐぅーと上げ、応える。
正直できないこともないが、サラムを抱えたままだったらもう少し時間がかかっていた。
俺は貴族の男に近づいていく。
「さ、最初から折れていたのか!
貴様、折れてもまだ切れる物は切れるぞ?
それ以上私に近づいたら分かっているだろうな?
この女は貴様の友人なのだろ」
「はぁ、シルは友達じゃねえ。俺の師匠だ」
俺の言葉が言い終わるとまた、甲高い音が静かになった空間に鳴り響く。
「え、ま、まさかっ!貴様がやったのか!
しかし、どうやって…もういい!覚えていろ!」
男は連れの男たちを置いていき、一人で逃げて行った。
俺は追おうとしたが、サラムがいたのでその場に残った。
「サラム、大丈夫か」
すっかり怯えて震えていた彼女はゆっくりと俺の方を向き、
涙目になりながら、
「うぅ、ありがとうございます」
「流石だね、アーグ君」
人波がモーセが現れたかのように割れていく。
そこから出てきたのは俺のクラスメイトであるヘンク。
「おいおい、見てたんなら出てきてくれよ」
「すまない。しかし君ならできると私は思っていたからね、それに」
ヘンクに続いてその他のクラスメイト達が現れる。
「ほらね言った通り!アーグならできるって言ったでしょ!」
「サラムさん大丈夫ですか!すいません、私たちがすぐに来ればよかったんですが…」
ヘンクの肩をバシバシと叩くメルビー。
サラムの周りを囲い、抱き合うリスタ、カエラ、スフィア、エルカ。
「おーいお前らーってえぇ!どうしたんだこの人だかりは!」
「我の準備が遅れてしまってな、申し訳ない」
「ははっ、それじゃあみんな揃ったことだし、行こうか!」
状況が色々カオスなんだが…個性豊かだなぁ。
うちのクラス。
読んでくださりありがとうございました。




