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43話:試験〈5〉

44話目です。

無事試験が終わり、宿への帰路についたころ。


「アーグー!お疲れ様。

試験見てたよ、すごかったね!」


リスタが駆け付けて来てくれた。

その手には大きな箱を抱えていた。


「リスタもお疲れ様。それは?」


「これ?これはねシュルが作ってくれたみたいだよ。

今日の朝渡されて、試験が終わったらアーグ達と食べてって」


あぁ、だからか。


「ふふ、やっぱりシュルガトも私に卵焼きが食べてほしかったんだ!

しょうがないなぁー」


食べ物に目がないメルビーはすぐに手を出してしまう。

いつもは止めるところだが、今日はしょうがないか。

試験の疲れもあるだろう。


「じゃあそこで食べよっか。芝生があって風が気持ち良いからね」


シルは朝早起きして作ってくれたんだと思う。

あいつ、早起き苦手なのにな。


「カエラ達も一緒に食べるか、なんせこの量だ」


「ありがと。この子もいい?」


そういうと、カエラの後ろから一人の女の子が出てきた。


「あぁいいぞ。うーん、それ効果が薄いな」


俺はその巫女服の様なものを凝視しながらつぶやいた。


「なっ!お前、我が何に見えてる!」


「何って…」


そう言うと俺は続きの言葉を言うことをためらった。

だって彼女は狐族だったから。

効果は薄いとはいえ、認識阻害の服を着ているほどだ。

公然の場で言うのじゃない。

そう思ったから。


「ちょっといいか」


「なんだ」


俺は彼女を人気ひとけの少ないところに連れて行った。

初めは抵抗していたものの、カエラに促されるまま、しぶしぶついてきてくれた。


「こんなところまで連れてきて、何つもりだ」


随分とお怒りのようだ。


「いや、売ろうとかそういうことは思ってないから」


「信じられないな。我は男は信じないからな」


「じゃあなんでついてきたんだよ…危ねえだろ」


「そ、それは…カエラが…」


彼女は顔を赤らめながらくねくねと腰を振った。

ああそういうこと。


「わかったから」


「お前、我が何に見える」


急に真面目になったと思ったら…

いや、初めからそのつもりで来たか


「俺にはモフモフの尻尾と耳がついた狐さんに見えますね」


正直モフりたい。


「狐さんだと!我はソラだ!その言い方はやめろ!

なんだか馬鹿にされた気がする!」


ふむ、狐さんはダメ、と。

それにソラか、確かに狐だ。


「それで、その狐さんがこんなところにいて大丈夫なのか?

そんな中途半端な物着て」


「これは父が大事していたものだ。

それにここまで守ってくれた。

だからこれを着続ける」


大事にしていたもの、か。


「でもそれじゃあいつまでもつかわからない。

現にカエラ達にはばれてただろうしな。

それにこの学校の教師なら何人か気づいているはずだ」


「でも、それが分かったところでお前に何ができる」


「それじゃあ質問だ。俺の隣にいた、

薄緑色の髪をした女の子と、紺色の髪の女の子は何に見えた」


「それは…普通の人間だろ?何を言ってるんだ」


俺はあのばあさんから認識阻害の付与を教えてもらった後、

自分でも改良を重ね、さらにバレにくくしたのだ。

そうそう分かる奴はいないだろう。

魔法に強そうなカエラも気づいていないようだし。


「人間なら俺に任せろ。

その服のまま、俺が掛けなおしてやるよ」


「ダメだ!信用できん。これは我の宝物なのだぞ!

容易に触れるものではない!」


「あーもううるさい。やるから暴れるな」


俺はソラを壁まで追い詰め、

さらに動けないようにを股の間に差し込んだ。

尻尾がプルプルと震えている。

モフりたい。


「近づくな!あああ!止めろ!触るな!変態!…」


「うるさいって言ってるだろ。[削除]」


暴れるソラを放置しながら、俺はその元々あった認識阻害を削除した。


「な、何をする!これでは姿が隠せないではないか…

お前、我を売るのだな!そうなのだな!」


ちょっとは静かにできないものなのか。

俺はそんな彼女を気にも留めず、付与を続ける。

ぽかぽかと叩いてくるが、

それはただ自分を可愛くしているだけと気づかないのだろうか。

眼福眼福。


「[認識阻害][隠蔽]」


隠蔽。

俺が改良に改良を重ねてやっとの思いで完成した、

ステータスの表示をも隠す魔法だ。

これがあれば鑑定のスキルが高い者でも、

簡単には服にかかっている魔法などには気づかない。


「ふー、終わり。さっご飯食べに行くか」


何に驚いているのか、口をぽかんと開いたまま閉じない。

そんな彼女を置いて俺は皆の元へ歩き出した。

そろそろシルのご飯が食べたい。

お腹がすいてきてしまった。


「ちょ、待て!お前何をした!」


急いであとをつけてくる彼女の姿はもう、

普通の女の子だ。



先ほどとは場所が変わり、

広場にある一本の大きな木の下に移動した。

リスタ曰く、ここが一番おいしく食べれるとか。

自然のことはよくわからないが、

美味しく食べられるのなら大歓迎だ。


「おっ、帰ってきた」


一番俺の帰りに気づいたのはメルビーだ。


「お帰りなさい。ってあれ?その子は?」


やはり皆にも狐の姿が見えていたようだ。

人間になったソラは狐の面影を残しながらも立派な人間だ。

流石俺と褒めてやりたい。


「ソラだ。食べてないけど、待っててくれたのか?」


「うん。ソラなんだー。あーあ、モフモフしたかったな」


カエラがあからさまに残念な顔をしている。

でもその気持ち分かるぞ。


「我が人間に見えるのか!」


「うん。見えるよ」


「本当か!」


ソラがカエラに息がかかるほどの距離まで近づき、


「う、うん本当だって」


カエラは困惑の表情を浮かべている。


「アーグはすごいでしょ!私のムグっ」


「リスタ、もうご飯にしような。

それにメルビーもよく我慢してたな」


危ない。リスタが口走りそうだった。

ここには俺たちの他にも、

試験に合格したと思われる生徒が何人かいる。

こんなところで私はエルフです。

と公言したらどうなることやら。


「うぅー、シュルガトが…」


「ん?シルがどうした」


俺はシルの方を振り向いた。

そこには大きな箱、つまり弁当の上で寝ているシルがいた。

弁当の上で寝るな!


「あいつあの上からどかないんだけど」


そう言ってシルを全力で睨むが、

対するシルは未だに夢の中だ。


「はー、これじゃあ食べれないじゃないか」


少し諦めたような感覚になり、

ダメだと思いながらシルを持ち上げる。


「おいしょっ」


『え?』


俺とソラ以外から同じ言葉が発せられた。

ていうか簡単に持ち上がるじゃん。


「メルビー、疲れてるのか?

今日はもう休んだらどうだ」


「なんで!私がやったときはビクともしなかったくせに!」


「私もやったけど無理だったよ」


私も。私もとほかの二人も続いた。


「こいつ…起きてるだろ!」


「おいメルビー、どいたんだから食べよ。俺腹減った」


俺の空腹は限界だ。

さっきからグーグーなっている。


「むー、後で絶対ぼこぼこにしてやる!」


メルビーは元気か。

一思いにやってください。


「なんか納得いかないけど、いただきます」


『いただきます』


挨拶をそろえ、メルビーが我さきにと弁当にとびかかる。

その瞬間。

弁当が消えた。


「あれ、どこに…お前!」


「ん…」


消えたはずの弁当はいつの間にか俺の膝の上に来ていたようだ。

シル付きで。


「あーん、んん!美味しいな!昨日と全く別物だな」


「うぅ」


落としてから上げるか。

俺からしたら上げてその上を行った感じだがな。


「シル、料理なんてできたんだな」


「ん」


そうか、一人が長かったから自然とできるようになったらしい。

確かに今までも森で自分で作ってたしな。

見た目によらず、大人だ。

メルビーは?と思うだろう。

シルが片手で押さえつけています。


「離せー!」


じたばたとしているが、全くかなわないようだ。


「ん」


「おう、おやすみ」


これがしたくて起きていたが、もう限界みたい。


「こいつー…!もういい!食べる!」


メルビーは心底悔しそうだ。


「あはは、試験が終わったと思うと、気が楽でいいね」


「そうだね、でもあれはやりすぎじゃない?」


「そうですね、カエラはすぐにああなるんだから」


「我はあんなに派手にはできないぞ」


「ん?4人とも実技試験で何かあったのか?」


そういえば、俺が待ってる間遠くから爆発音やら悲鳴やらが聞こえた気がするな。


読んでくださりありがとうございます。

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